02
「……さて。それじゃ確認だ」
ギルドに併設の酒場内で急遽開催された『第一回、ジルはどのパーティーに所属するべきか会議』。有り難い事に酒場内にいる殆どのパーティーから勧誘を受けたが……流石に、全員参加の会議じゃ会議にならんだろうという事で、龍の爪のメンバー三人と、俺に最初に声を掛けてくれたクリフト、カイザー、エヴァの三人による会議となった。
「まず、ジルは『龍の爪』をクビになった」
ピン、と人差し指を立てて放たれたクリフトの言葉に、アリスが血相を変えて声を上げる。
「なってないわよ!」
「でも、冒険に付いてこなくて良いって言ってたじゃねーか」
「い、言い方が悪かったのは認めるけど……そういう意味じゃなくて! ジルにはこう、宿屋に居て貰って、冒険『前』のサポートをお願いしたかったの!!」
「冒険『前』のサポート、ねえ~」
「……貴方達だって分かってると思うけど……ジルがしてくれるサポートって本当に手厚いのよ。武器や防具もそうだし、食料なんかもそう。初めて潜る魔宮でも、ジルが居てくれるだけで、何回も潜ったんじゃないかってくらいに安心できるわ」
「……まあ、そうだろうな。ジルの情報収集は大したもんだし」
アリスの言葉に頷くカイザー。そんなカイザーの言葉を引き取って、エヴァが口を開く。
「……それじゃなんでアリスはジルに『冒険に来るな』なんて言ったのよ?」
「……」
「アリス?」
「……さっきも言ったけど……ジルが……怪我しちゃったから」
「……」
「……魔獣に吹っ飛ばされたジルを見て、心臓が止まるかと思った。私達を陰ながらずっと支えてくれた、お日様みたいな人がこの世から永久にいなくなると思うと……怖くて、怖くて、体がずっと震えてた」
「……その後、気丈に立ち上がったジルを見て、ボク達がどんな気持ちだったと思う? 嬉しさと不安と安堵と心配、全部ごちゃまぜになった感情で……戦う事なんて出来なかった」
「……セシリアもそう。もう……あんな、傷付くジルは見たくない」
アリスに続き、リリィ、セシリアも言葉を継ぐ。お前ら……
「……その……あ、ありがとう」
ヤバい。滅茶苦茶嬉しい。だって支援職なんて、居ても居なくても大差ないと自分でも思ってたのだ。少なくとも戦闘では全く役に立たんし。
「で、でもさ? その、支援職なんて一杯いる訳だし、別に俺じゃなくても」
「ジルが良いの!!」
「いや、その……なんだ? さっきから優秀、優秀って持ち上げてくれるけど……支援職なんてちょっと勉強すれば誰だって出来るんだし……」
「そういう意味じゃない!! 『ジル』が良いって言ってるの!! もういい! ジルのバカ!!」
そう言ってつんっとそっぽを向くアリス。え、ええ~……
「……なるほどな。アリスの気持ちも分からんでもないか。どう思う、エヴァ?」
「……そう言われると確かに、ね。私だってジルが居なくなると……寂しいもの。前線に出て欲しく無い気持ちは……分かるわ」
……有り難い話だ。有り難い話だが……
「……でも、俺、冒険者じゃないと食っていけないぞ?」
人は霞みを喰って生きる訳じゃねーし。俺だって冒険しなくちゃ、おまんま食えないんだけど。
「だ、出すに決まってるじゃない! 今まで通り、龍の爪が潜った魔宮で取った素材や財宝はきっちり四等分してジルに渡すわ!」
「……それは流石にどうよ? 働かずに食う飯は不味いと思うタイプだぞ、俺」
ヒモじゃん、それ。流石にその生き方は容認出来ないんだが……
「は、働かなくて良いなんて言ってないでしょ!! 魔宮に潜るのは私たちの仕事、その前段階の仕事はジルの仕事、そういう……役割分担よ!!」
「……」
いや、まあ確かに支援職は魔宮に潜る前が一番忙しいと言えば忙しいんだけど……でもな~。
「……まあ、支援職の俺が言ったら『お前が言うな!』って言われそうだけど……流石にずっと安全圏にいてお金だけ貰うのはちょっと……」
基本、冒険でも前線に出る事は無いのだが……それでも、魔宮に一緒に潜るのと、宿屋で寝てるのでは危険度は段違いだ。それで同じお金を貰うのは抵抗がある。
「だってさ、アリス。なら、どうだ、ジル? ホワイトファングに来るか? ウチなら宿屋で寝て置けなんて言わないぞ? 一緒に冒険、行こうぜ?」
「熊の寝床にはお前の料理のファンも多いし、熊の寝床に来てくれりゃ俺は助かるけどな~」
「宵伽の蝶だって一緒。ジル、ウチのパーティーに入らない?」
「だから、ダメ! ジルは龍の爪のメンバーなの!!」
「そうだよ! ジルはボク達のジルだ!」
「完全に同意」
再び喧々諤々の議論を交わす六人。このままじゃ埒があかんぞ、おい……と思った時、不意にギルドのドアが開いた。
「――話は聞かせて貰いましたわ!!」
ドーン、という効果音が似合いそうなその登場の仕方。高そう――っていうか、実際高いだろうドレスに身を纏った金髪縦ロールの美少女がこちらに歩みよって来る。ああ……面倒くさいのが来た。
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