01
「……は?」
興奮しきった様子で俺の肩を掴んで前後に揺するクリフト。そんなクリフトに釣られたかのように、周りから声が上がる。
「おい、クリフト! ズルいぞ!! ジル、俺の所に来い! 『熊の寝床』は良いパーティーだぞ!!」
「あら? 聞き捨てならないわね? ウチの所に来なさい、ジル。『宵伽の蝶』は女ばっかりのパーティーだけど、『龍の爪』に居た貴方ならやっていけるでしょう?」
我も我もと俺を勧誘する冒険者たち。ええっと……あ、アレか? これで『よろしく』とか言ったら『ばーか! お前なんか勧誘するワケ、無いだろう』っていう例のアレか。
「――ダメーーーーー!!! ジルは『龍の爪』のパーティーメンバーなの!!」
と、周りの声を遮る様にアリスが声を上げた。そんなアリスの声に黙りこくる冒険者たち……と、きょとんとする俺。
「え、ええっと……アリス?」
「ぐす……な、なによ!!」
「いや、なんで泣くんだよ……」
涙目でこちらを睨むアリス。おい、泣くなよ。目が腫れるぞ。
「だって! ジルが……ジルが!」
「……ほれ、ハンカチ。取り敢えず泣き止め」
「……ありがと」
「それで……なんだ? 俺、龍の爪をクビになったんだろ?」
「なって無いわよ!! なんで私達がジルをクビにするのよ!! ジルにクビにされるならともかく、ジルをクビにするなんてありえないでしょ!?」
「……ええー……」
な、なにこの展開? 全然、話が読めないんだが……そう思い、混乱する俺の肩にポンっと手が置かれた。
「……ジル」
「……なんだよ、クリフト?」
「お前は自己評価が低いフシがあるから言っておくけどな……お前、多分、史上最高の『バッカー』だぞ?」
「……は?」
何、冗談言ってんだ、コイツ? なんだ? 俺を揶揄ってやがんのか?
「……睨むな、こえーから。そうじゃなくて……お前、支援完璧だろ?」
「……そうか?」
「そうだろうが。必要なモノを過不足なく、しかも安く調達する能力に魔宮の情報収集能力だろ? お前が作った魔宮のマップは間違いなく一級品だし……野営で食う飯も王都の一流レストランもかくやってレベルの美味さだ。な?」
クリフトの言葉に、『ホワイトファング』の面々も頷いて見せる。いや……
「……でも、そんなのバッカーなら当たり前だろ?」
バッカーは前衛職が気持ちよく戦える様にするのが仕事だ。だから、そんなもん、当たり前っていうか……
「……お前の当たり前は相当常識外れなんだよ。だからお前、俺らなんかバッカー入れずに戦ってるだろうが」
「……バッカーが要らないからじゃないのか?」
「馬鹿野郎。前に一緒に魔宮に潜っただろ? そん時、お前のバックアップ受けて見ろよ? 他のバッカーを仲間にしようなんて思わないぞ? 前に言った事あるだろ? 『アリスが羨ましい』って」
「……言ったか、んな事?」
「言ったって! 『運が良い女だよな、アリス、ジルを仲間に出来て。俺もアリスと変わりてーよ』って!」
「……」
……そう言う意味かよ。紛らわしい……というか、言葉が足りんわ!!
「そうだな。だが、ジルの凄さはそれだけではない」
クリフトの言葉を継いだのは、『熊の寝床』のリーダー、カイザーだ。熊の寝床のリーダーらしく、熊の様な体格をしているが……根は良いヤツだ。
「カイザー……」
「おう! ジル、お前はその人当りの良さが最大の魅力だと俺は思うぞ?」
「……人当り良いか、俺?」
どっちかって言うとつっけんどんな感じだと思うんだけど……
「人当たりが良いっていうか、面倒見が良いが正しいか? 普通な? パーティー同士で共闘っつっても、他所のパーティーの武器や防具、食料の調達なんてしねーぞ? しかも料理まで振舞って」
「……そうか? 別にそんなの普通じゃねーか?」
だってお前、共闘するって事は一蓮托生って事だぞ? なら、言ってみればその瞬間はパーティーみてーなもんじゃねーか。口を出し過ぎかな、とは思ったけど、誰にも文句言われなかったから続けていたが……
「文句なんていう訳ねーだろうが。お前が調達してくれた武器や防具、それに食料は俺らが自前で調達するより数段質が良い上に、数分の一の価格だぞ?」
「……それはお前らの金遣いが荒いんだろうが」
「だろうな。でもな? 俺らにはその『常識』がねー。剣で戦う事は出来てもな?」
「そうそう。それに貴方、逃げないじゃない」
「エヴァ」
『宵伽の蝶』のリーダー、エヴァ。美少女っていうより『美女』って言葉がしっくりくる、妖艶な女性だ。
「……前に魔宮に潜った時、貴方、私達を助けてくれたでしょ?」
「助けたっていうか……」
支援職は索敵が仕事だし、場合によってはデコイにもなる。ヘイトを溜めるっていう言い方をしたりするが……ようは『おとり』だ。
「逃げ足だけは速いしな、俺」
普段から仲間全員の荷物を持っているから、力とすばしっこさだけは身についているんだよ、俺。
「……ばか。あの時の貴方、凄く格好良かったもの」
そう言って頬を染めて嬉しそうに微笑むエヴァ。その姿はいつもの妖艶な美女感はなく、なんというか、その、非常に愛らしいものではあるのだが――
「――だ、ダメ! だめだめだめ!! ジルは私たちのパーティーなの!」
「そ、そうだよ!! ジルはボク達の大事なバッカーなんだから!! なに勝手に勧誘してるのさ!!」
「……非常に不愉快」
エヴァから引き離す様に俺の右腕にアリス、左腕にリリィ、背中にセシリアがしがみ付く。つうかアリス。右腕は絶賛骨折中だから、痛いって!
「……いや、お前ら……俺は龍の爪をクビになったんだろ?」
「なって無いわよ!! なに? 貴方、私達を捨てる気なの!?」
「す、捨てるって……どっちかっていうと、俺が捨てられる流れだろ?」
「皆の話、聞いて無いの? ジルはさいっこうのバッカーだよ!? 正直ね? アリスやセシリア、それにボク程度の前衛職は売る程いるけど、ジルの代わりには誰もなれないの!! そこの所、分かってるの、ジル!!」
「……そう。ジルは凄い。だから……お願い、セシリアを、捨てないで……?」
涙目で三人がこちらを見て来る。お前ら……
「でも……冒険には来なくて良いって」
「だって! ジルが怪我するから!!」
「……怪我って」
いや、骨折したけどさ? こんなもん、冒険者してりゃつきものだろうが。
「……ジルが魔獣に吹っ飛ばされた時、ボクは死ぬほど肝が冷えた。敵の攻撃を受けるのはボクの仕事なのに……それなのに、ジルはボクを庇って……」
「……ありゃ、仕方ねーだろ」
「でも!」
「デモもストもねーよ。お前に怪我が――まあ、タンクは怪我するのが仕事か。ともかく、お前が死ななくて良かったよ」
そう言ってリリィの頭を撫でる。一瞬、驚いた表情を浮かべた後、リリィが嬉しそうに微笑んだ。
「……えへへ」
「ちょ、ズルいわよ、リリィ! 私も! ジル、私も!!」
「……リリィだけ贔屓はダメ。私もするべき」
二人がそう言って猫の様に頭を『ん!!』と突き出して来る。右手は折れてるし……仕方ない、左手で――
「――なあ? 仲が良いのは良いけどよ? 俺らの事、忘れないでくれねーか?」
……ごめん、クリフト。すっかり忘れてた。
『面白かった!』『続きが気になる!』『ジル、頑張れ!』という方がおられましたらブクマ&評価の方を宜しくお願いします……励みになりますので、何卒!