プロローグ
「――ジル。貴方は次の冒険から、付いて来なくて良いわ。このパーティー……『龍の爪』は、次の冒険から三人で魔宮に潜るから」
冒険者達の『ねぐら』と言っても良いだろう、冒険者ギルド。オーレンヴェルグ王国最大のギルドである此処、『オーレンヴェルグ王都ギルド』に併設された酒場で、綺麗な金髪をした釣り目がちの美少女――龍の爪のアタッカーで、このパーティーのリーダーであるアリスが、俺にそう声を掛けた。
「……一応、聞いても良いか?」
「……答えられる事なら」
「……なぜ俺は……ついて行かなくて良いんだ?」
俺の言葉に答えたのはアリスではない。その隣、この華奢な体で何処にそれ程の耐久力があるのか迷う様なパーティーのタンク、銀髪ショートの美少女、リリィだった。
「なんでかって? ジル、分かんないの?」
そう言って俺の右手――包帯で吊るされた、折れた右手を指した。
「……これから先、貴方は私たちの冒険について来れない。戦いには……参加出来ない」
そう答えたのは大きな三角帽子を被り、腰まで届く黒髪を靡かせる美少女、セシリア。見た目通りのマジシャンだ。
「……」
俺の仕事は『支援職』、この世界でいう所の『バックアップ』、或いは『バッカー』と呼ばれる職業である。文字通り、アタッカー、タンク、マジシャンのバックアップを担当する仕事で……そして、この三人の足元にも届かない程に、『弱い』
「……そうか」
言い訳する訳では無いが、別にこれは俺が特別弱い――のは弱いが、一般的に見てそうだ。バッカーに求められるのはパーティーが気持ちよく魔宮に潜る事が出来る様にする事。食料を調達し、魔宮のマッピングをし、武器・防具を揃える。魔宮に潜った後は前衛職の荷物を背負い、キャンプ地では食事を作り、必要な索敵を行う。それがバッカーに求められる役割だ。
「……この怪我が原因、って訳でも無さそうだな」
それでも……俺は、頑張って来たんだ。この『龍の爪』はこの辺りでも新進気鋭のパーティー、王国から優れたパーティーに与えられる『勇者』の称号まで手が届きそうな程の、力のあるパーティーだったのだ。そんなパーティーの少しでも役に立ちたくて、俺は一生懸命努力してた、つもりだったが。
「……」
……俺だって、前衛で戦いたかった。
……俺だって、皆を守りたかった。
……俺だって、魔法で魔獣を倒したかった。
――でも……俺には、そのどの才能も無かったから。
「――分かった。世話に、なったな。役に立たないバッカーで、申し訳ない」
……ここいらが、潮時か。
「!? じ、ジル!?」
「……装備は置いて行く。これはお前らが稼いでくれたお金で買った装備だしな。後、一応今までの俺の仕事はノートに纏めているから……もし、良かったら使ってくれ」
……楽しかった思い出が、走馬灯の様に回る。少しだけの悔しさと――それ以上に満足しているのは、今、驚愕に染まるコイツらの顔を見て――
――ん? 驚愕? な、なんで? お前ら、それはクビにする方の表情じゃなくね? 俺の表情じゃね?
「……え、ええっと……世話になった。『龍の爪』は抜けるけど、お前らの活躍を、応援しているから」
俺がそう言って三人に頭を下げた瞬間、固唾を飲んで見守っていた他のパーティーから歓声が沸いた。まあ、そうだろう。今、一番の売り出し株である『龍の爪』、そのお荷物がクビになった瞬間だ。皆、楽しいだろうよ?
「お、おい! ジル!!」
「……なんだよ、クリフト」
勢い込んでこちらに向かって来たのは『ホワイトファング』というパーティーのリーダー、クリフト。金髪のイケメンで、何度か『龍の爪』とも共闘した事のある顔見知りだ。
「お、お前……『龍の爪』、辞めたのか?」
「……観てりゃ分かんだろうが。クビになったんだよ」
……おい、クリフト。何嬉しそうな顔してんだよ? 人の不幸は蜜の味ってか? まあ確かにお前、『良い女だよな、アリス。変わりてーよ』って言ってたもんな? どうだ? これを機会に、お前も『龍の爪』にでも入れば――
「――なら、ジル!! 俺らのパーティー、『ホワイトファング』に入ってくれ!! 金は龍の爪の倍は出すから!!」
――……はい?
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