1.世界が終わったかもしれません
新連載スタートです。
プレイヤースキルの塊のような少女の冒険話。
また、もちろんですが本作に出てくる体術等はすべてフィクションです。
「ふあ………」
目覚まし時計もかけていないのに、朝五時きっかりに目が覚めました。
習慣というのは怖いものです。一人暮らしを始めて、既に二ヶ月近くが経とうとしているというのに、実家での暮らしが身に染み付いてしまっています。
まあとはいえ、私は元々、二、三時間寝るだけで頭が回るようになりますし、昨夜は二十三時には既に布団に入っていたので………六時間の睡眠ですか。実家では物音一つで起きてしまう私ですが、流石に一人暮らしのマンション、しかも最上階ともなれば、物音など滅多にしませんね。快適な安眠をしたことなど、ここに引っ越してくるまで無かったかもしれません。
まあ、私は二度寝が出来ない体質ですから、このまま布団に潜り込んでいても仕方がないですし………いっそ起きてしまいましょう。
さて………起きたは良いのですが、何をしましょうか。
ここから私の通う高校まで、徒歩で約三十分。始業は八時半なので、毎朝余裕を持って七時四十分には家を出ています。
しかし、毎朝五時にどうしても目が覚めてしまう私としては、この三時間近い余り時間の潰し方が問題となります。
掃除………こんな朝早くからしたら、ご近所さんに迷惑がかかってしまいますね。
ゲーム………一昨日、全キャラレベル99まで上げて、諸々コンプリートしてしまったのでやることがありません。
ソーシャルゲーム………飽きました。
いっそ、手の込んだ朝ごはんにでも挑戦してみましょうか?
あ、ダメです。昨日食材をほぼ使い切って、今日の帰りに買い出しに行く予定だったのでした。
さて、どうするべきでしょうか。
家にあるゲームは、全て実家から持ってきた、極めてしまったゲームばかりです。
RPGゲームが趣味の私ですが、極めてしまったせいでレベルも上がらず目的も無く、ただひたすらにモンスターを狩るだけのセーブデータとなってしまったゲームを再び立ち上げるような猛者ではありません。
………そういえば、ここから二十分ほど歩いたところに、二十四時間営業のスーパーマーケットがありましたね。
そうです、あそこで食材を買ってきましょう。
どうせ暇ですし、何か甘い物を焼いて持っていくのも手かもしれませんね。
そうと決まれば、善は急げです。
しっかりと身支度を済ませ、早く行きましょう。
………よし、準備が出来ました。
買う物は………スーパーで決めた方が良いですね。
では向かいますか。靴をしっかり履き、玄関の扉を開け、しっかりと鍵を―――
そこは、一言で言えば………地獄。
あちらこちらから煙が上がり、地上三十階のこのマンション最上階にすら、複数の悲鳴が耳に届く。
「うわあああああ!たす、助けてくれえぇぇ!」
「お母さん!おかあさぁあああああん!」
「あなた、早く………ぎゃっ」
「おまっ………おまえええええええ!!!」
………閉めかけていた扉を開き、急いで閉じました。
………………。
どうやら私は、まだ寝ぼけているようです。先程顔は洗ったばかりだというのに、なんとも情けない限り。もう一度洗い直しましょう。
………ふう、サッパリしました。
まったく、私としたことが。ゲームのやりすぎなのでしょうか。あのような非現実的な幻覚を見るなど。
私は自らの目が覚めたことを確認するために、開け忘れていたカーテンを開け、ベランダに出ます。
ほら、綺麗な朝日が―――
そこは、一言で言えば………地獄。
あちらこちらから煙が上がり、地上三十階のこのマンション最上階にすら、複数の悲鳴が耳に届く。
下を見れば化け物が跳梁跋扈し、目を凝らせば人の死体がゴロゴロと転がっている。
「うわああああああ!死にたくないいいぃぃぃい!!」
「嗚呼、神よ………なぜこのような仕打ちを………!」
「お父さああああん、どこおおおお!!うわああああん!」
「あははははははは!もう皆死んじゃうんだー!あはははははははははは!!!」
私は神速で部屋の中に戻り、前代未聞の勢いでカーテンを閉めました。
………………。
先程、シャワーも浴びたはずなのですが………何故、私の目は幻覚を映したままなのでしょうか。
しかし、幻覚にしてはやけにリアルだった気もします。
感じた限りでも、視覚、聴覚、嗅覚、三つの感覚に強く作用してきました。
ひょっとして、これは………夢なのでしょうか?
なるほど、それならば納得がいきます。明晰夢というものなのでしょう。
ではそれを証明するために、思い切り頬をつねってみましょう。
―――ギュウウウウウ!
………非常に痛いです。
ということは、これは現実ということなのですね。
しかし、窓の外の環境はどこからどう見ても現実的ではありません。
………もう一度、見てみましょう。
恐る恐るベランダに出ると、先程とほぼ同じ光景が拡がっていました。
昨日まで活気に溢れていた街は、阿鼻叫喚の渦。
ゲームでしか見た事のないような化け物も沢山います。
それはまるで、世界の終末のようでした。
※※※
「………落ち着きましょう、私。まずは状況を理解することです」
この状況がなんなのかを予想するにあたり、四つの仮説が成り立ちます。
一つ目、超大規模の映画の撮影。
二つ目、痛覚すら感じるリアルな私の夢。
三つ目、実家にいるはずの家族が仕掛けたドッキリ。
四つ目、本当に世界が終わった。
一つ目………は、無いですね。街を本気で崩壊させた映画なんて、出来るはずがありません。
二つ目はなんとも言えませんが、なんとなくこれは現実な気がします。あれだけ夢だなんだと言っておいてなんですが。
三つ目は………ありえなくもないですね。私の家族、特に母様には常識が通用しませんし。………ですが、いくらあの人たちと言えども、これだけのドッキリを仕掛けることなど出来なさそうですね。
となると、やはり………四つ目、本当に世界が終わった、でしょうか。
正直、これも現実味がないのですが。
ふむ………どうするべきですかね。
このまま部屋に籠るか、外に出てみるべきか。
部屋に籠っていても、何も解決はしません。ですが、まあ外よりは安全でしょう。
外に出ると、何かが分かるかもしれませんが、非常に危険な可能性が高い。
後者ですね。
即断即決。それが私、千影空の生き様です。嘘です。
ですが、勿論理由があります。
仮にこれが全て現実で、あの怪物達や崩壊した街が本物だとして………このまま部屋にいれば、私では到底太刀打ち出来ないような怪物がこのマンションに乗り込んで来たりしても、地上三十階のこの部屋では逃げ場がありません。
そう考えると、外の方が安全な気すらしてきます。
それに、あの怪物達がどの程度の強さかは分かりませんが、これでも武術等には多少の覚えがあります。大抵の場合は負けないはずです。
「ふむ………これが全て現実であると仮定し………まずは、食料や飲み物の調達、怪物の戦闘能力の把握、可能であるならばこうなった原因の究明、といったところですね。ではまずは、下へ降りてみましょう」
私は、取り敢えず今着ているものよりも身軽な服装に着替え、緊急時用にと作っておいた避難セットから、缶詰めや乾パン、水などをリュックに詰め、ついでにスナック菓子なども入れました。
ふむ………朝から大変なことになりましたね。まずはこれが現実なのかどうかを確かめないとなりません。
「では、いってきます」
誰もいない部屋に挨拶をし、私は、終わりかけた世界へ、始まりの一歩を踏み出しました。
少しの間は一日一回更新しますが、軌道に乗ってきたら二日に一回更新になると思います。別作品と並行して進めていくので、よろしくお願いいたします!