今日から始まる新生活?
小百合「まったくもう…。どうしたら仲良くしてくれるの?」
小百合が困った顔で呟く。
敏志「小百合がどっちかを選んでくれたら争いは終わるよ。」
敏志が意地悪そうに小百合に言ったが、今回だけのことではなかった。
大体俺もこんなことで争うべきではないと思ってはいるのだが、敏志には絶対に負けたくないという感情が俺の中で沸くのだ。
どうしてかはわからないが、さしてそれを突き止めようとも思わない。
小百合「だーかーらぁ!そんなのできっこないよ!そんなことばっかり言ってると怒るよ?」
敏志は何かを思い出したようで急に顔を真っ青にして小百合に何度も謝っていた。
なにかあったんだろうか?
蓮「ふーん。まぁいいんじゃねえの?どっちにしろ勝負に勝つのは俺だ。
ところで、敏志。そのコーヒー冷めるぞ?いらないなら俺が飲んでやる」
そういって俺は手を出したところでそれを阻止された。
敏志「いや僕が勝つ。そしてこれは僕のコーヒーだ。熱いものは苦手なんで少し冷ましていただけさ。」
時々忘れてしまうときがあるが敏志は俗にいう『大金持ち』の家で育ったそうだ。
仕草や言動でたまに思い出すのだが、身に着けている服装もアクセサリーも高級そうには見えない。
そういうのを知られたくないのだろうか。
ところで今の季節は冬。
あまりいい思い出がない冬だが今すごしている時間を思えばそんなことどうでもよくなってしまう。
そして場所は俺と父がすごしている家の近くにあるカフェだ。
あえて自分の働いている店に行かなかったのはバイトをしている人間ならわかるだろう。
俺たちは定期的に逢うことにしていた。
そして今日がその1日目というわけだ。
敏志「それに僕には有利な点が2つもある。なにかわかるかい?」
敏志がやや俺を見下すかのような目で見てきた。
殴ってやろうか。
蓮「さぁーな。いってみろ。」
敏志「1つ。僕と小百合の家はものすごく近いこと。徒歩1分もかからないからすぐ逢えるというわけさ。
そして2つ目。これは大きい。同じ学校に通っているということだ。
修学旅行や遠足などのイベントに僕は小百合といくことができる。
勝負は明らかだろう?」
確かにその通りだった。
俺が小百合と会えるのは、この定期的に会うときめた日だけだった。
メールアドレスは知っているもののやはり実際に会うのとは異なってくる。
蓮「くっ…。」
俺がどうしたものかと考えてるところに小百合が割って入ってきた。
小百合「あの〜。学校の話なんだけど。」
蓮「どうした?」
小百合「私の家のお向かいさんが引っ越したの。だから空き家になってて…。
もしお兄ちゃんが大丈夫だっていうならそこに引っ越してきて同じ学校に通いたいな…なんて。」
小百合が頬を赤く染めながら言ったのが可愛くて少し見とれていたがそれよりも
蓮「でも学校転入すんのっていろいろ手続きとかいるんだろ?
絶対親父そんなことしてくれないぜ?」
小百合「えへへぇ〜実はお母さんに頼んでみたの!」
蓮「まじで?」
小百合「うんっ!
お母さんもやっぱりお兄ちゃんのこと心配しているみたい。」
そんなことまったく考えたこともなかった。
母さん心配してくれていたのか…。
蓮「でも父さんを放っていくのもあまりいい気がしないな。
それに父さんは俺がいないとろくに家事もできないからな、生活費も俺のバイト代からいくらか出して何とかやっていける程度だし・・・。」
小百合は少し残念そうな顔で「うーん…」と考え込んでいたが、
小百合「そっか〜。じゃあ仕送りを送る…ってのはどうかな?
これならお父さんも困らないと思うし…。
とりあえずお家や学校の手続きのことはまかせて!」
蓮「よろしく頼む。一度父さんと相談してみるよ」
小百合「うんっ。よく考えてね?」
小百合が微笑みながら言った。
しかしそこには汗をかいてプルプルと震えている人物が一人。
敏志「有利な点が消滅だと…。お向かいさんめ…。」
蓮「残念だったな?まぁ安心しろ。すぐ楽にしてやるよ。」
敏志が訝しげな顔で
敏志「なんか話変わってないか…?」