1.ドラグーン
この世界に選ばれた種族。
それは、竜族。
その竜族を使役し、世界を護る者。
それが《ドラグーン》。
ドラグーンになるには、竜族に選ばれ、契約をしなければならない。
ただ、契約をしただけでは、ドラグーンにはなれないのだ。
契約をした時点では、まだ、ドラゴーネと呼ばれるドラグーンの卵である。
ドラゴーネが、契約した後に、竜族と絆を重ね、本当の絆に気づいた時、ドラグーンになれるという。
この世界には、歴史上、ドラグーン7勇者と言われる7人しか居ない。
世界には今もドラグーンになることを夢見る少年少女が多いが、ドラグーンどころかドラゴーネにもなることも無く、老いて死んで行くのだ。
そんなドラグーンを夢見る少女が、ドラゴーネの育成するドラゴーネスクールで、ドラゴーネになる為に学んでいた。
もう、古の時代にあった“大地を共に歩き、空を共に飛ぶ騎竜は友である。”というドラグーンとドラゴーネの騎竜を大切にしろ、と説く言葉は徐々に、たが確実に受け継がれなくなっている。
もう、ほとんどのドラゴーネは、騎竜は道具である、と思っていためだ。
だが、それをよしと思わない者も確かに存在する。
少女はそのよしと思わない者の1人だった。
少女の名は、アセナ・シャルトス。
ドラゴーネスクールの5つあるクラスの中の下から2番目のクラス、クラスCにギリギリ留まっているような成績不良な少女だった。
アセナには、ちょうど真ん中のクラスであるクラスBに通う友人、リラ・クーウェルと上から2つ目のクラスであるクラスAに通う友人、ロイ・ハイウェル、1番上のクラスSに通う友人、セルス・グルミナスの3人がいる。
その内、2人、リラとロイはアセナと同様に昇格試験に挑んでいた。
その試験の結果が今日、貼り出されているのだ。
アセナは、張り出された昇格試験結果をじっくりと、眺める。
隣から小さな歓声が聞こえた。
リラである。
「アセナ、聞いて!私、クラスAの昇格試験に合格したわ!」リラは朗らかな声で言った。
「おめでとう、リラ。ロイはどうだった?」アセナは、リラに祝辞を言うと、隣の少年に聞く。
「…また、落ちたよ。」ロイは、わかっていた、というようにロイはアセナに告げた。
「…じゃあ、やっぱりセルスって凄いのねぇ。」しみじみと告げたリラの視線の先には、セミロングの赤銅色の髪を持ち、深淵をたたえた漆黒の瞳の少年がいる。
彼こそが、リラのいうセルスであった。
セルス・グルミナス。
クラスSに所属する首席の少年だった。
「…アセナはどうだったんだ?」ロイは、セルスに興味が無いようで、アセナに聞いてみる。
「……えへへ。」アセナは、ごまかすように、小さく笑った。
アセナの笑い声を不審に思ったロイとリラは、アセナの合否に目をやる。
「「こ、降格ッ!?」」リラとロイは驚いたように叫んだ。
その叫び声に、気づいたセルスが何事かと近づいてくる。
「どうしたんだ?」セルスはリラとロイに聞いた。
「聞いて、セルス。アセナ、降格したのよ?」信じられないと、リラはセルスに言う。
「どうしてか分かるか?」セルスはため息と共に、アセナへ聞いた。
「もしかして、試験官のジジイに怒鳴ったのが原因かな?」アセナはなんでもないことのように、さらりととんでもないことを言うのだ。
「「はぁぁ…!?」」リラとロイがこんな驚きの声をあげても仕方ない。
セルスだけは困ったような笑みを浮かべて、アセナらしいと呟いている。
「だって、あのクソジジイ、”ドラゴンは唯の道具なのだよ”って言いやがったんだよ?しかも、ドラゴンは種族名じゃなくて個体名だし。怒鳴りたくなるのは当然でしょ?」アセナは、同意を求めた。
「いや、普通怒鳴らねえよ。」ロイは思わずアセナに突っ込んでしまう。
「ドラゴンって個体名なの?」リラは聞いた。
「知らないのか?」セルスは思わずリラに聞く。
素でそう聞いた。
「ええ。知らないわ。」リラはセルスに答える。
「うちの親が知ってるくらいだから、有名なのかと思ってた。」セルスはのんきに言った。
「とにかく!!アセナ、あなたクラスDの試験に合格しなさいよ!いいわね?」リラの剣幕にアセナはこくりとうなずいたのだった。