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第二章 再会4

 長二郎に保護されてから二日後のこと。

「入星を許可します」

 惑星ナァーへようこそ。と、猫耳を生やした三毛猫獣人が微笑んだ。

「ありがとう」

 トオルは礼を述べると、手荷物検査を終えたばかりのナップザックとエテルカに作成してもらった身分証(ID)カードを受け取り、ターミナルステーションの審査ゲートを潜った。

 ――ここが保子莉さんの故郷か

 念願の猫族52番惑星の大地に足をつけた途端、胸がいっぱいになった。惑星パンテガァーで長二郎たちと別れ、旅客船を乗り継ぎ、ようやく辿り着いた目的の星。圏外表示のスマートフォンで日付を確認すれば、地球を出立してから、すでに一週間が経過していた。

 ――今頃、日本はお正月だな……

 毎年、家族総出で祖父母宅を訪れ、お年玉を貰っておせち料理やお雑煮を食べていた新年。だが、今年はそうもいかなくなってしまった。当初予定していた帰星日程は、とうに過ぎている。年末に家を出て行ったきり帰って来ない息子。書き置きだけ残した長期外泊。そろそろ父さん母さんたちも不審に思う頃だろうし、何より宇宙に旅立ったことを知っている妹も気を揉んでいる違いない。

 ――智花のためにも、早く保子莉さんと会わなきゃ

 と焦るものの、ここからが問題だった。

『爺さんの話では、実家の星都機関に拘留されているらしい』

 事が事だけに、俺もそこまでしか教えてもらってねぇんだ。とダリアックから聞いた不確かな情報を思い出しながら、スマホをポケットに押し込み、宇宙人たちで賑わう大通りを見渡した。

 ――保子莉さんが言ってたとおり、良いところだな

 彼女の生まれ育った星都プーラル。

 タルタルやンカレッツアとは異なり、発達した文明都市。整備された道路を往来する車両ライドカー。異国情緒溢れる建造物で統一された街並み。行き交う星人が違うだけで、何ら地球と変わりはない風景だった。

「とりあえず、星都行政機関へ行こう」

 本来ならゆっくりと観光でもしたいところだったが、今、優先するべきは保子莉との面会だった。頼りとなるのはターミナルステーションの案内図を収めたスマホの画像だけ。本当ならば宇宙端末機を利用したかったのだが、捕らえられた早々バヤンテ団に転売されてしまい……結局、手元に残った地球規格のスマートフォンを活用するしかなかったのだ。

 ――それでも、これが売られなかっただけでも良かった

 親に買ってもらった品であり、クレアに二度も直してもらった思い出のスマホなのだ。トオルはバッテリー残量を確認し、収めた画像地図を元に方向を定めると、勇み立って足を踏み出した。



 ――想像してたよりも遠いなぁ

 何度目かの地図確認。いくつかの大通りを経て、歩き続けること一時間。『プラール宮殿』手前の『星王広場』を西に折れ、二つの橋を渡れば行政区画が見えてくるはずなのだが……未だ目的の建物が見えてこなかった。

 ――ちょっと休憩するか

 長旅における疲労も手伝ってか、体がクタクタだった。

 往来する星人たちの目を気にしながら、大通りの脇に生えている大木の根に腰を下ろす。そしてペットボトルの水で渇いた喉を潤し、携帯カロリー食品を齧りながら考えた。

 まず、やるべきことは行政機関の窓口で時雨保子莉の所在確認。その際、身分証明を求められるのは必須。入星審査の時のようにIDと身体検査で事足りるなら問題はないのだが……相手は保子莉を拘束している法的機関だ。非獣人の旅行者相手に面会許可が下りないことを考慮しておくべきだろう。

 ――簡単に、事が運べば良いんだけど

 最悪の場合、ここプラールでの長期滞在も覚悟しなければならないのだが、そうなると今度は宿泊代が気になるわけで

 ――お金、足りるかな?

 所持金は100万ケピロン。惑星パンテガァーで長二郎から餞別がわりにもらった大切なお金だ。

「タルタルで借りてた金と、その利子だ」

 このことはトキンねぇちゃんには内緒だぜ。と、自分の借金を後回しにし、用立ててしてくれた親友。バヤンテ団に全財産を奪われ無一文になってしまっただけに、その好意は計り知れないほどのものだった。

 ――長二郎がくれた大切なお金だ。なるべく宿は使わないで、野宿とかで節約しなきゃ

 頼る者もいない初めての惑星だけに、余計な無駄遣いは避けたいし、切り詰められるところは出来るだけ切り詰めておかなければならなかった。限られた時間とお金。有効に使わなきゃ。と、トオルは残りの携帯食料を口に放り込んだ。

 ――よし、行くか!

 キュッとペットボトルの蓋を締めて立ち上がった瞬間、頭上から忙しない声が降ってきた。

「ダンナ! ダンナッ! 金目になるヤツがいたちゃんよ!」

 見上げれば、宙を羽ばたいている小人宇宙人がトオルのことを指差していた。

 ――ビヂャヴゥロ星人?

 智花や深月たちを人質にし、トオルたちのことを散々振り回してきた吸血宇宙人。同一星人とは言え、遭遇したくない相手だった。が……

「そんなところで油売ってねぇでぇん、ちったぁ手伝えぇん!」

 ――まさか、ジャゲまでいるのか!

 荷車を引き、丸い口から無数の触手をかき回して怒鳴る宇宙人の姿に、トオルは二度驚いた。ジャゲナッテ星人とビヂャヴゥロ星人。宇宙広しとは言え、この二人がコンビを組むことは確率的にゼロに近いと言っていい。だとすれば……

「おんやぁん? 誰かと思えばぁん、チャップと一緒にいた下等動物じゃねぇかぁん!」

 とジャゲがニタァと薄ら笑った。

 ――マズい! 間違いなくあの二人だ!

 トオルはすぐさまペットボトルをナップザックに放り込み、急いで路地裏へと逃げ込んだ。

「あっ、こらぁん! 逃げんじゃねぇ! ビヂャ、ヤツを追いかけろぉん!」

 ――ヤバい! ヤバい! ヤバいっ!

 背中から飛んでくる罵声を振り切り、入り組む細い路地を縫うように走った。

 ――あいつらに関わったら、絶対ろくな目にあわないぞ!

 追っ手を巻こうと必死に逃げ回るものの、ドローンのようにしつこく追跡してくる相手だけに、振り切るのも容易ではない。

「ダンナ! こっちちゃん!」

 ジャゲを呼びながら、頭上で楽しそうに笑うビヂャ。もし、この場にゴム弾仕様のサブマシンガンを持っていたならば一発で仕留めるところなのだが。

 ――うるさいあいつを、どうにかしなきゃ

 とは思うものの……スタミナを考えずに全力疾走したせいか、息が続かなくなっていた。

 ――このままでは、こっちが先にバテそうだ

 ビヂャを捕まえるか? 手の届くくらいの高さまで降りてきたところをひっ捕まえて、あのお喋りな口をふさげばジャゲを巻けるはず。と、上空のビヂャを見やりながら闇雲に裏路地を走り続けていると……突然、目の前に現れた壁に逃げ場を失われた。

 ――しまった、行き止まりか!

 予期しなかった袋小路に舌打ちしていると、ビヂャが壁の縁に腰掛けて嘲笑っていた。

「逃げそこなったちゃんね」

 トオルはビヂャを睨め付け、元来た道へと踵を返した瞬間、眼前にジャゲが立ちはだかった。

「逃すかよぉん、バーカッ!」

 同時に頭から麻のような大袋を被せられ、視界が覆われた。

 ――クソっ!

 慌ててもがけども、足元までスッポリと覆われてしまった袋の中では体どころか手足の自由すら利かなかった。息がつまるような閉塞感に焦りと恐怖を感じていると体を突き倒され、受け身も取れないまま肩から地面に落ちた。同時にイカれた笑い声と共に腹部に強烈な激痛が加えられた。

「ウヨヨヨーン! ザマァねぇなぁん!」

 袋の外からドカドカと何度も足蹴にされた。

「テメェやチャップのぉおかげでぇん、俺様の楽しかったぁん人生はメチャクチャだぁん!」

 恨み節を吐きながら容赦なく蹴り上げてくるジャゲに、トオルは袋の中で顔と頭をかばい続けた。舞い上がる埃に紛れ、口の中に入る袋の繊維を吐き出す暇もない一方的な袋叩きに、トオルは死への恐怖に震えた。

 ――こ、殺させる!

「おらぁん! 何とか言ってみろぉん!」

 恨みのこもった強烈な一蹴りが、トオルの鳩尾を捉えた。

「ぐっ!」

 痛みを伴う呼吸困難に、トオルがもがき喘いでいると

「思い知ったかぁん!」

 発せられた怒声と共にトドメのひと蹴りがトオルの脇腹に食い込んだ。

 ――どうして……どうして僕がこんなヤツに足蹴にされなきゃならないんだ……

 乱れる呼吸と苦痛に堪え切れず、トオルの意識は黒く塗りつぶされた。

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