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第七章 落ちていく空3

 星王広場上空を占拠している船に、作戦司令室にいた全員が固唾をのんだ。

「なんだ……あれは?」

 大きく口を開いたキャッツベル号の舳先の前に突き出された赤い球状の物体に、アスタインたちは恐怖で顔を歪ませた。

「マグネタードライブだ」

 アスタインが漏らした兵器の名称に、参謀総括長が青ざめた。

「陛下……」

 真偽を問いたくも、迂闊な発言はできないと判断したのだろう。その証拠に、参謀総括長はそれっきり言葉を発しなかった。

 代わりに、監視を務めるオペレーターたちが声を上げた。

「目標より、異常なエネルギー反応を感知!」「同じく、船体周辺の磁場形成が不安定になってます!」

 緊迫する報告に、参謀総括長が冷静に命令を下した。

「各自、そのままキャッツベル号の監視を怠るな」

 そして背後に立つ執事を一瞥して、アスタインに囁いた。

「陛下のおっしゃるとおり、あれがマグネター砲だとするならば……多少の犠牲を払ってでも、ダストホール展開を急がねばなりません」

 できれば今すぐにでも。と参謀総括長が付け加えた。

「その場合における被害規模は、どのくらいだ?」

 すると、すでにシミュレーションを終えたオペレーターが言う。

「現在の高度、つまり初期段階の算出結果ではありますが……おそらく、プラール宮殿総面積の半分が消失すると考えられます」

「星王広場下にいる星民の被害は?」

「残念ですが、避難所シェルター通りにいる者たちは、ほぼ絶望的かと……」

 聞くまでもなく、分かりきった返答だった。

 おそらく数百……いや、千人単位での犠牲。その中には、親や兄弟といった家族もいるのだ。家の留守番を子供に任せた親や、お使いを頼まれた兄弟姉妹たちなど。それを考えるだけで、身が引き裂かれそうになる。

 惑星ナァーの破滅か。それとも一部の星民の命と引き換えか。参謀総括長が求める選択は、まさにそういうことだ。

 ――本当に、それで良いのか?

 確かに、後世には多大なる犠牲を払ったとして記録が残るだろう。

 だが、そんな暗黒な歴史を、世代を紡いでいく星民たちが納得するだろうか。少なくとも私の子供たち……特に正義感の強いホズリは納得しないだろう。

 ――ひとりでも多く、星民たちを守らねば

「すぐに連絡船の用意を。無ければ救助艇でもかまわん」

 アスタインの指示に、参謀総括長が戸惑いの様相をみせた。

「確かに、星王専用機の用意はできておりますが……」

 察するに、惑星ナァーを脱出するものと踏んでの言葉だったのだろう。

「勘違いをしてもらっては困る」

「では、いったい?」

「私自ら、直接キャッツベル号に乗り込んで交渉を試みる」

 新たに示した第三の選択に、参謀総括長が名乗り出た。

「それでしたら、自分が……」

 瞳に使命を宿す参謀総括長を、アスタインは手でもって制した。

「総括長には、作戦司令室ここで指揮をとる義務があろう」

 それに星王である私でないと意味がない。と目配せをするアスタインに、背後の執事も同行の覚悟を決めたように頷いた。

 相手方との交渉が、どうなるのかは分からない。だが、少なくとも現状を打開できるはずであり……仮に交渉決裂にいたったとしても、いくらかの時間は稼げるはずである。

「しかし、陛下……」

「ここで議論をしている時間はない」

 と避難所シェルター通りにいる星民たちの避難誘導を参謀総括長に託したそのときだった。通信オペレーターのひとりが緊張の声を張り上げた。

「宇宙港より緊急入電! たった今、二隻の中型船が星空せいくう圏内を侵犯したとの知らせあり!」

 まったく予期していなかった報告に、アスタインは耳を疑った。

 ――この非常事に!

 そんな荒れる心情を悟りながら、参謀総括長がいう。

「続けろ」

「推定降下ポイントは首都プラール。船体識別コード不明。ただし船体照合の結果、両艦とも海賊船と判明」

「この状況下で海賊船だと?」

 参謀総括長が声を荒げると

「はい。一隻はボーンバッファロー号。もう一隻はラ・クロウ・ディア号と思われます」

 自星船じこくせんのテロリスト行為に加え、降下してくる二隻の海賊船。最悪に最悪を重ねたその事態に、誰もが声を失った。

 ――交渉に出向こうとした矢先に、海賊船とは

 指揮を取っている主船しゅせんはどっちなのか。いや、そもそも相手は海賊である。仮に二隻が共同戦線を張っていたとしても、おそらくそんな規律はあってないものとみていいだろう。

 同時にアスタインの中で良からぬ憶測が渦巻いた。

 ――まさか、ウーヴの手引きによる者たちか?

 ホズリを人質とし、マグネター砲での脅迫。次いで混乱に乗じ、星空侵入してきた海賊。今は二隻だけの海賊船だが……援軍として、さらなる海賊たちが押し寄せてくる可能性があってもおかしくはない。憶測の範疇ではあるが、もし、その侵攻戦略の読みが正しければ、早い内に一掃しておかなければならないだろう。それは参謀総括長も同じ判断だったようで、迷うことなくオペレーターに指示を下していた。

「降下してくる海賊船に対し、ダストホールにて迎え撃て!」

「無理です! 使用展開における座標値の計算が間に合いません!」

 一刻を争う状況に、アスタインも口を挟んだ。

「どうにか、ならぬのか!」

「最低限の出力での手動マニュアル運用なら対処可能かと」

「できる限りでかまわん。全責任は私が持つゆえ、ただちに手動操作にて迎撃せよ!」

「はっ!」とオペレーターたちが返事をした刹那、一隻の船が灰色の雲をかき分け、キャッツベル号の上にのし掛かった。火花を散らしながら接触する二隻の船。その予測外の行動に、誰もが我が目を疑った。

「海賊に対するダストホール展開を一時中止!」

 咄嗟に命令を取り消すアスタイン。直感的だが、あの船の行動は敵とは思えなかったからだ。

「海賊船を補足したまま待機!」

 二転三転する曖昧な指示。それはアスタイン自身も分かっていた。

 すると今度は雲の隙間から漏れる太陽光サンピラーと共に、もう一隻の船が降りてきた。

「これは……いったい?」

 正面からキャッツベル号と対峙する海賊船。武装もさることながら、二本足で上甲板に立つ美しい巨体に目を奪われた。両手には大きな盾とライフル形状の長い槍。降り注ぐ光に照らされながら降臨したその勇姿に、アスタインが声を漏らす。

「神の使いか……」と、アスタインはわずかながらの希望を胸に抱いた。



『こ、これでいいのか?』

 通信モニターの向こう側から睨む水牛男に、プロテクトスーツを着たアイマスクの男が笑みをこぼした。

「上出来だよ。団長」

 人型機動兵器ライドアームズの正面モニターに映し出されたボーンバッファロー号とキャッツベル号。十字架のように重なる二隻の宇宙船との距離は約2000メートルといったところか。

 ――潰すことなくギリギリのところで押さえ込むとは、ボーンバッファロー号の操舵手パイロットは相当な腕前とみていいだろう

 星空せいくう圏内に入った瞬間から、ディアの思念を感じ取ったエテルカ。その情報をかいつまんで丸投げしたにもかかわらず、ピンポイントでキャッツベル号の頭を抑えたのだから見事としか言いようがない。

 ――さて、問題はトオルたちだが

 ロックはコックピットの半円スクリーンを見渡し、キャッツベル号の右舷後方で砲撃をかわし続ける小型船に目を向けて驚いた。

 ――何、考えてんだ、あのバカは

 まるで風にあおられる木の葉のようなアクロバット回避。そんなスペースクルーザーの上部ハッチから上体を乗り出している親友。ディアの思念を読み取ったエテルカから大まかな話を知らされてはいたが……まさか生身だったとは。

 ――いくらリアクターシールドを張ってても、直撃喰らったら元も子もねぇだろうが

 親友の無謀っぷりに、顔をしかめていると、通信画面の向こう側で再生体が水牛男を押しのけた。

『それではロック殿、行ってくる』

 キャッツベル号に乗船している猫を、トールが助けようとしている。とエテルカが拾い上げたディアの思念に、彼が言った。

「ならば、拙者が兄者の手助けを」と、保子莉救出を申し出た再生体だったが……砲撃を受けている真っ最中では助ける以前の話だ。

「待て、再生体。それよりも船体下の砲塔を黙らせるほうが先だ」

 突然の作戦変更。だが、再生体もすぐに状況を理解し、頷いた。

「キャッツベル号の船内は分かるな」

『もちろん、把握している』

 以前、惑星ンカレッツアへ移動する航海中、配達仕事のレクチャーの合間に、キャッツベル号を探索したのだから迷うはずがない。

『では、行ってくる』とあらためて告げる再生体に、ロックも「頼んだぞ」と頷き返し……そして、すぐに通信チャンネルを切り変えた。

「聞こえるか、クレア。もし聞こえているなら、ここは一旦我々に任せて、船を引け」

 もう無理をする必要はない。砲撃がやみ次第、あらためて保子莉救出をすればいいのだから。ところが、困ったことにスペースクルーザーからの応答がない。

「どういうことだ。故障でもしているのか?」

 損傷しているだけに、十分考えられることだった。すると、ロックの意識を常に拾ってサポートし続けていたエテルカが、通信に割り込んできた。

『故障の有無は分かりませんが、意図的に通信を切っている可能性がありますね』

「それなら、良いのだが」と、ロックが訝しんでいると、ツノデメキンが一際大きな声を上げた。

『若大将、若大将!』

「ええい、気ぜわしい。何を、そんなに慌てているのだ?」

『これで慌てるなってほうが、無理でっせ!』

 さっぱり意味が分からなかった。

「いいから、早く用件を伝えろ」

『これ聞いたら、若大将もぶったまげますぜぇ』

 もったいぶるツノデメキンにイラッとした。

 ――この一件が片付いたら、こいつが毎朝磨いているツノをヤスリで丸めてやろうか

 と、ひそかに奥歯を噛みしめていると

『この星の星王と名乗る輩から、若大将宛に通信がはいってますぜ。あっ、でも、もしかしたら、なりすましかもしれないすっけど』

 ヘラヘラ笑うツノデメキンに、あとでこいつのツノをノコギリで切り落としてやる。……などと、アイマスク下のこめかみに苛立ちを浮かべていると、エテルカが補足する。

『いえ、専用チャンネルの呼び掛けからして、相手は本物の星王のようですよ』

 どうしますか? と、訊ねるエテルカにロックはしばし思慮し

「話に応じよう。こっちに回線を回してくれ」

 海賊相手に文句をつけようものならば、即切断もやぶさかではない。すると、すぐに灰色髪の猫族獣人が通信モニターに映し出された。

「お初にお目にかかります、星王殿。私はクロウディア号セカンドシップの艦長を務めるロック・フェイサーという者であります」

 敬仰けいぎょうを込めての自己紹介。この三文芝居じみた挨拶に、はたして相手はどうでてくるのか。すると星王はロックを見下すことなく、毅然とした態度で対応してきた。

『丁重な応対、誠にありがたい。私は惑星ナァー第108代星王、シーグレー・アスタインである』

 威風堂々。その分相応な態度に、ロックは「これは本物だな」と気を引き締め直した。

「早速ですが、ひとつ、お尋ねしてもよろしいでしょうか?」と、上官に意見を求める兵士のように固い口調で問えば

『今は時間が惜しいので、後ほどあらためて伺うことにしよう』

 はねつけられた返答。時間が惜しい? それはどういうことだ。やはり海賊に対する聞く耳は持たないという意思表示なのか? 同時に海賊拿捕という言葉が脳裏に浮かんだ。

 ――もし、そうだとすると、急いでトオルたちを救出して、ナァーから離脱するしかないか

 長居は無用。そう判断し、通信を切ろうと無線スイッチに手を伸ばした時だった。

『それよりも、貴殿の力を借りたい』

 星王の懇請こんせいに、ロックの指先がピタリと止まった。

「私の力を?」

『うむ』と頷く星王。まっすぐ見つめてくる眼を見る限り、どうやら冗談とは思えなかった。……とは言え、この場合、どのように返答すれば一番カッコいいのか?

 一国一城……いや一星いっせい一城の主からの申し出に、ロック……いや、芝山田長二郎は悩んだ。

 余計なことを口走って、この晴れ舞台を台無しにしてたまるかと、青春モノを始めとする学園モノやラブコメ。加えて異世界ファンタジー、異能バトル、格闘技、サイコパス、ホラー、SF、探偵、グループアイドルから部活ものやギャグを含めた日常などなど……今日まで蓄えてきたあらゆるサブカルチャー知識を脳内に巡らせ……そして考えに考え抜いて1周した結果、ロボットアニメに出てくるキャラの行動心理を真似ることにした。

「それで星王殿。私は何をすればよろしいでしょうか?」

 シンプルで間違いのない答え。その自信に満ちた態度が、何も知らない星王に安心感を与えたのは言うまでもない。

『ホズリを……娘を助け出してほしいのだ』

「ほぉ……」

 なるほど。育ちの良いどっかのお嬢さまだと思ってはいたが……まさか惑星ナァーを統治する王の娘だったとは。

 ――やれやれ。トオルも、とんでもねぇ女に惚れちまったもんだな

 と、呆れながらも

 ――けど、そういう設定、嫌いじゃないぜ

 ボーンバッファロー号からキャッツベル号の上甲板に飛び降りる再生体を見やりながら、ロックは一計を巡らした。

「キャッツベル号は、どういたしますか?」

『娘の救出を確認次第、我々のほうで処分するつもりでいる』

「了解であります。このロック・フェイサー、全力をもって任務を遂行いたします」

 ビシッと敬礼を決めるロックに、星王も『よろしく頼む』と頷いた。そして通話終了と同時に、ロックは口角を持ち上げた。トオルの保子莉救出の援護。だが、それだけでいいのか? もちろん答えはノーだ。

 アロという錬金術師チートによって、造り上げた人型機動兵器ライドアームズ。その力を存分に発揮するには、あまりにも物足りない仕事だからだ。

 ――だと、すっと……ここは、キャッツベル号も沈めておく必要があるな

 マグネター砲を搭載した危険な船。ここでうまく立ち回ることができれば、星王に恩を売る絶好のチャンスとなる。行きがけの駄賃としては、お釣りが返ってくるほど最高の演出だ。

『欲をかかないほうが、賢明なのでは?』

 冷静に諭すエテルカの言葉に、ロックは否定した。

「世界に……いや、全宇宙にライドアームズを認知してもらう機会を、みすみす逃すのは惜しいとは思わないか?」

『まぁ、分からなくもないですけどね』

 と諦めにも似た声を漏らすエテルカ。まぁ、ダメだったら、すぐに引くさ。これでも引き際はわきまえているつもりなのだから。

「それでは見てもらおうか、我がライドアームズの実力とやらを」

 全長10メートル強の人型ロボット。歴代ロボットアニメに比べれば小柄な部類だが、操縦者の意志でフル稼働しているメカとしては巨大な存在だ。

 ――ただし、空を飛べないのが欠点ではあるがな

 宇宙空間での活動を重きとした設計。重力下での飛行運用を考慮していなかったことを、今更ながら悔やんだ。

 ――所詮、これは試作機プロトタイプ。次に造る二号機は変形して空を飛べるようにしてやる

 次期新型機のコンセプトを練りながら、巨大な盾を機体の前方に突き出し、ライドアームズの全長を上回るリアクターキャノンを高々と掲げた。

「これより、ヤツの主力砲を封じる」

 マグネター砲を封じてしまえば、相手はただの宇宙戦艦だ。と可変させた盾の中心にリアクターキャノンの砲身を噛ませ、砲身の後ろから伸びる2本のエネルギーケーブルを背負っているリアクタージェネレターに接続させた。

「見てるか、アロ?」

 座席の後ろに設置されている照準スコープを顔の前に引き寄せ、格納庫にいるアロに呼びかけた。

『心配しなくても、ちゃんと監視モニターしてるYO』

 リアクターチャンバー、3次元フライホイール……。オッケー、オッケー、オッケーNE! すべて順調NE。と声を弾ませるアロに、照準スコープを覗き見ながらロックも高揚した。

「了解だ。ちなみに聞いておきたいのだが、仮に相手がリアクターシールドを張った場合、どのくらいのエネルギー出力が必要だ?」

 予想される相手の一歩先を読んだ問いに、『ノンノン』とアロが人差し指を横に振った。

『ミーがこしらえたスペシャル設計のリアクター増幅器ブースターを搭載YO。80%のエネルギーもあれば余裕NE』

「頼もしい限りだ」

 アロのお墨付きに、ロックは「新たなる歴史の誕生だ」と呟きながら、キャッツベル号の舳先から突き出た球体に照準を合わせて引きトリガーを引いた。同時に、80%の出力で撃ち出された閃光リアクタービームが狙い通りにキャッツベル号へと伸びていく。

 だが、次の瞬間……船首手前でグニャリと上へと跳ね上がった。

「そんなバカな?」とスコープを押しのけ、モニター越しで確認すれば、捻じ曲がったビームがボーンバッファロー号の左舷を掠め、空の彼方へと消えていった。

「いったい、何が起こった?」

 天才アロのことだ。計算間違いなどするはずがない。

『どうやら、マグネター砲の磁力の影響で弾かれたみたいNE。こうなるとシールドよりタチ悪いYO』

「舐めた真似を……」とロックは舌打ちした。控えめに射出したとはいえ、100%近い出力だ。それを、ああも簡単に反らされては手の打ちようがない。

「アロ。弾かれないようにするには、どうすればいい?」

『今、大急ぎで計算するから、ちょと待つNE』と、アロは両手の指を折りながら弾道を計算し……そして、ものの10秒足らずで答えを導き出した。

『現在の相対距離で計算したところ、右へ半歩ズレて、先ほどの中心点より0・8度下を狙えば均衡を保てるYO』

「ずいぶん、簡単に言ってくれるな」

『できないですKA?』

「私を舐めてもらっては困る」

 そう言い返すと、言われたとおりにライドアームズを移動し、指定された位置を狙って引き金を引くロック。再び閃光を噴くリアクターキャノン。今度は出し惜しみのない100%出力だ。狙い通りに直撃すれば、間違いなくキャッツベル号自慢の主砲は使用不能となるだろう。だがしかし……

 ヴォォオォォオォォオ~ン!

 着弾直前で地鳴りのように唸る不快な振動音。同時にマグネター砲の手前でビームが放射状に拡散し、跡形もなく霧散した。

「ええい、ヤツはバケモノか」

 均衡どころか、干渉さえも許されないとは。

『やっぱり、出力の規模が違いすぎたですKA』

「それはどういうことだ?」

 計算が甘かったのでは? と、アロを疑っていると……

相手アレのエネルギー状態を把握できない以上、いくらミーの頭脳をもってしても正確な答えは出せないNE。でも、安心YO。さっきのと今ので、だいたいの磁場エネルギーの測定ができたNE』

「それは確かなのか?」

『計算における誤差はなくなったのは事実NE。でも、問題がひとつあるYO』

「それを解決すれば、ヤツに勝てるのだな?」

『イエスNE。パワー不足を補えれば、勝てるYO』

 ブースターを利用した100%の照射。……なのに、それでも足りないというのか。

 ――ヤツを倒すには、いったいどれだけのパワーが必要なんだ?

 星王が見ている手前、これ以上の恥をさらすわけにはいかないのだ。

 ――もっと大量にエネルギーを集められれば……

 刹那! エテルカの緊張した声がコックピット内に響いた。

『チョージロー、攻撃がきます!』

「なに?」

 説明のないまま、セカンドシップ前方に巨大なリアクターシールドが展開された。その遥か先で、マグネター砲の核となる球体がドス黒い塊へと変化し、キャッツベル号の舳先付近の空間が蜃気楼のように歪んだ。

 ――ヤバい!

 本能的に危険を察知し、セカンドシップに後退の指示を告げようとした矢先、音叉のような音と共にリアクターシールドが消失し、同時にかぶっていたヘルメットシールドに亀裂が走った。

 ――何が起きた?

 衝撃波もなければ、直接攻撃を受けた実感もない。強いて言うなら、微弱な振動とわずかな圧力を感じたくらいだろうか。

 マグネター砲の不発。いや、それにしては様子が変だ。損傷箇所による警告は出ていないものの、気温が上がっているコックピット内部。そして何よりも、レバーを握っているグローブの質感に違和感を覚えた。

 ――グローブの生地きじが柔らかくなってないか?

 実感の湧かない現実に、両手が無意識に震えていた。しかし、それだけではなかった。下ろし立てのプロテクトスーツが色落ちして変色していたのだ。クレアが着ているインナーウェアと同じ宇宙素材。熱や衝撃に強く、快適性と伸縮性に優れた特殊繊維。それが、どういうわけか、長年着続けた古着のようになっていたのだ。

 ――もしかして、俺はとんでもねぇヤツを相手にしてたのか?

 手足を動かし、身体しんたい状態を確認しながら、正面モニターに映るキャッツベル号を見れば……何事もなかったかのように沈黙を守っていた。

 ――アロから簡単な理論は聞いてはいたが……こんなにも凄まじい破壊力だったとはな

 原子レベルでの分解。もしリアクターシールドを張っていなければ、あっという間に塵と化していたところだろう。

「エテルカ……そっちはどうだ? みんな、無事か?」

『ツノデメキンのツノ含め、全員無事です。船のほうも目立った被害はありません』

「それは、なによりだ」と、ロックはヒビの入ったヘルメットを脱いだ。

「ところで、どうしてマグネター砲の攻撃を察知できたのだ?」

『あの船から、強い殺意を感じたからです』

「殺意? それは、いったいどういうことだ?」

『たぶんですが、純粋なあれは、世のことわりを知らない子供の思念かと……』

 判読し難い曖昧な言葉。子供が誰なのか分からないが……エテルカの機転によって命拾いしたことは確かだった。

 ――それにしても、アレは本気で厄介だな

 防御と攻撃を兼ね備えた究極の兵器。頭の中でいくら否定を重ねても、死に直面した恐怖には抗えなかった。

 ――どうやら、厨二病を気取って遊んでいる場合じゃねぇな

 長二郎はアイマスクを外すと、座席の後ろへと放り投げた。

「アロ。セカンドシップの主砲を使ってマグネター砲を潰すことは可能か?」

『船の主砲程度では、たいして効かないNE』

 もっとも、ブースターを介するならば話は別NE。と付け加えるアロ。その説明をヒントに、長二郎の中でひとつの発想が閃いた。

 通常兵器と特別仕様のリアクターキャノン。違いは増幅器。ゼロから新設計を施したリアクターキャノンのそれは、少ないエネルギーを最大限に発揮するエコ兵器なのだ。だとすれば、セカンドシップのリアクターエネルギーを増幅することができれば、巨大戦艦はもとより、それ以上の射出が可能なはず。

 ――やってみる価値はありそうだな

「マグネター砲の磁力をすには、どのくらいのエネルギーが必要だ?」

『計算上では、ざっと見積もって300%以上あれば可能NE。でも、どうするNE? ライドアームズのリアクタージェネレターでは、そこまでの出力は出せないYO』

「セカンドシップのエネルギーを借りる」

『Ohー! その発想は、とてもナイスアイデアNE!』

「だろ。問題は、どうやって背中のブースターに繋ぐかだが……」

『それなら、グッドな考えがあるYO』

 とアロが両手の人差し指を立てて説明する。

『二本あるエネルギーケーブルの片方を、セカンドシップのリアクターメンテナンスバルブに接続させればいいNE』

 別画面に映し出されたセカンドシップの設計図。長二郎は、上甲板に赤く表示されるメンテナンスバルブ箇所を確認し、背後の足下を見やった。

「あそこに、エネルギーケーブルを接続すればいいんだな」

『そうですYO。でも残念だけど、接続ソケットを汎用バルブアダプターに付け替えなければならないNE』

 互換性のないことを知らされ、力が抜けた。

「その汎用バルブアダプターの換装は、どのくらいでできる?」

『20分くらいかNA?』

「40秒で仕上げてくれ」

 マグネター砲の第二射がいつ飛んでくるか分からないのだ。一秒でも早いに越したことはない。すると、アロが首をすくめて笑った。

『それはムリYO。とりあえず、一旦ライドアームズを格納庫に回収するNE』

「とにかく、急いでくれ」と長二郎は、はやる気持ちを抑え、エレベーターハッチの上にライドアームズを移動させた。

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