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第六章 破滅の引き金5

「おい、どうなってるんだ黒髭ぇん! テメェの指示どおりに格納庫に行ったらぁん、ジジイに締め出されたぞぉん!」

 ウーヴと一緒に地下シェルター通りを抜け、霧雨の降る星王広場へと上がってみれば、格納庫へ通じる昇降機の前で二匹の宇宙人と出くわした。

「そうちゃん、そうちゃん。適当な仕事を押し付けてくれたお前のおかげで、こっちは手持ち無沙汰の雨宿りをする羽目になったちゃんよ」

 頭の上を旋回しながら文句をたれる吸血宇宙人に、九斗が相変わらずうるさいヤツだと眉根を寄せていると

「キャッツベル号は、どんな様子だった?」

 ウーヴの問いに、ビヂャが吠えた。

「あっ、もしかしてワシらがデタラメ言ってサボってると思ってるちゃんね! こう言ってはなんちゃけど、清掃作業は昨日でほぼほぼ完了してるちゃんよ」

「そうか」

「そうか……じゃねぇぇん! 俺様に無駄足を踏ませた、お前の不手際を誤魔化すんじゃねぇぞぉん!」

 口から無数の触手をかき回して唾をまき散らすジャゲ。だがウーヴは脇目も振らず、制御ロックされている昇降機の起動コードを入力する。

「おい、無視すんじゃねえぞぉん! この落とし前、どうつけてくれるんだぁん?」

「お前たち二人を解放してやる」

 予想外の言葉に、ジャゲが間抜けな顔を晒した。

「はぁ? 今、なんて言ったぁん?」

「二度も言わせるな。それよりお前たち、今後、行く当てはあるのか?」

 すると、ビヂャが首をすくめてボヤく。

「タダ働きの文無しなのだから、行く当てどころか、旅客船シャトルすら乗れないちゃんよ」

「ならば、私に着いてこい。丁度、船を動かすための人出を探していたところだ」

 ウーヴの突然の誘いに、ジャゲが片眉を吊り上げた。

「おい。聞いたか、ビヂャ。こいつ、着いてこいって言ってんぞぉ」

 信じられるかぁん? と、こめかみのあたりを人差し指でクルクル回してウーヴを睨めつける。

「散々、俺様をこき使っておいてぇん、今さら信用できるかよぉん」

「もっともな意見だな」とウーヴは上着のポケットから端末を取り出し、二人の拘束首輪を解除した。

「これでどうだ」

 ウーヴの突然の変わりように、ジャゲとビヂャの目が丸くなる。

「どういう風の吹きまわしちゃん?」

「そうだぁん。こんな勝手なことをしてぇん、白猫のヤツが黙ってねぇだろぉん」

 疑いの目を向ける二人に、ウーヴは見向きもせず昇降機を起動させた。

「あの娘には私自ら天罰を下した。ゆえに、お前たちは晴れて自由の身だ」

 昇降機に乗るウーヴに続き、九斗も紐縄を引いて黒猫を乗せた。

「どうする? この星に残るか? それとも私たちと共にいくか? 今、ここで決めろ」

 決断を迫るウーヴに、ジャゲとビヂャが目を合わせてほくそ笑んだ。

「面白そうじゃねぇかぁん。その話、遠慮なく乗せてもらうぜぇ」

 そう言って二人は意気揚々と昇降機に乗り込んだ。そしてウーヴの操作により、一瞬にして五人の体は格納庫へ通じる共用通路入口へと飛ばされた。

「おい、黒髭。ここの宇宙船ふねを奪うつもりらしいがぁん、行くあては決まってるのかぁん?」

 先頭切って通路を歩くウーヴに、ジャゲが質問すると

「行き先はお前たちに任せる」

 するとビヂャが「クケケ」と頭上で笑った。

「どうせなら、血の旨そうな非獣人がたくさんいる星が良いちゃん」

「それもそうだなぁん。非獣人は弱いからぁん、奴隷としても利用価値があるからなぁん」

 好き勝手なことを並べて笑い合う二人に、イライラする九斗。自分を含め、ここには二人の非獣人がいるのだ。それを奴隷呼ばわりされれば誰だって頭にくる。と、そこへ……

「ならば、非獣人の私と一戦交えてみるか?」

 鋭い眼差しを投げるウーヴに、ジャゲとビヂャが怯んだ。

「お、お前相手にケンカをするつもりはねぇよぉん」

「そうちゃん、そうちゃん。今、ワシらは仲間ちゃん。仲間同士でケンカしたところで何も始まらないちゃん」

 慌てて自分たちの失言を隠す二人。だったら、初めから言わなければいいのに。それでもウーヴは、詮索や追求することもせずに黙々と歩き続けている。他者の言葉に揺らぐことなく、目的を遂行しようとするウーヴ。そんな男の背中を九斗が見やっていると

「ところで小僧。お前が連れているこいつは誰ちゃん?」

 とビヂャが黒猫がかぶっているフードを引きおろした。

「体内に流れる血の匂いと、その耳……もしやと思ってたちゃんが、お前、のじゃ猫ちゃんか?」

 萎れた右耳を目ざとく判別したビヂャに、ジャゲも興味を示した。

「そう言われてみればぁん、雰囲気がどことなく似てるなぁん」

 フードを深くかぶり直して顔を背ける黒猫を、ジャゲがしげしげと覗き込む。

「姿を変えてもぉん、そのクソ生意気なツラは隠しようがねぇなぁん」

 無理やりフードをおろそうとするジャゲの手を払い、フーッと威嚇の声を向ける黒猫。これ以上、おねえちゃんを困らせてなるものかと、九斗は保子莉を引き寄せた。

「やめろよ! おねえちゃんがイヤがってるだろ!」

「何がおねえちゃんだぁん。オメェは知らねえだろうがぁん、俺たちは散々こいつに煮え湯を飲まされてきたんだぞぉん」

「そうちゃんよ!」とビヂャが恨み節の声を張り上げた途端

「いい加減にしろ。揉めるようならば、全員置いていくぞ」

 飛んできたウーヴの一喝に押し黙る九斗たち。こいつらがおねえちゃんに、ちょっかいを出さなければウーヴに怒られることもないのに。と、恨み顔をジャゲに向けていると

「しかしザマァねぇなぁん、チャップぅ。まぁん、精々、九斗こいつに愛想つかれないようにすることだなぁん」

 ニタリと笑って黒猫を嘲るジャゲに対し、何も言い返さず、うつむいたまま歩き続ける黒猫。執拗なまでに保子莉を嫌うジャゲに、九斗は敵愾心をあらわにしながら距離を取って歩き続けた。


「ずいぶん、静かちゃんね?」

 格納庫に到着するなり、頭上で警戒心をあらわにするビヂャ。言われてみれば、先日、保子莉おねえちゃんときた時とは違い、ひっそりとしていた。

「どうやら、奉納作業の方は終わっているようだな」

 キャッツベル号の下部側面に設けられた砲塔を目視しながら、タラップに足をかけ、開放されている搭乗ハッチへと昇るウーヴ。それに続くように、九斗たちも船内へと足を踏み入れた。

 そして艦橋ブリッジへ上がるなり、手際良くキャッツベル号の始動準備に取りかかるウーヴ。同時に、船内状態に感服の声を漏らした。

「素晴らしい仕事をしますね、マエストロ

 ウーヴの独り言から察するに、キャッツベル号は完璧に整備メンテナンスされているのだろう。計器類のすべてが良好を示しているのが何よりの証拠だ。

「どうだぁん。なんか良い星は見つかったかぁん?」

 我先に艦橋に駆け込んで艦長席キャプテンシートで踏ん反り返るジャゲに対し、操舵席で惑星データベースに移住条件を検索するビヂャが答える。

「有力候補として惑星ラスニーにするちゃんけど、良いちゃんか?」

 返事を待つことなく座標入力するビヂャに、ウーヴが訊ねた。

「我々の健康に害が及ばないのなら、どこでも構わない」

「裸足で歩けるくらい安全な惑星だから、心配ないちゃんよ」

 同時に格納庫の天井がゆっくりと開き、霧雨が落ちる中、自動操縦オートパイロットによって、ゆっくりと上昇を開始するキャッツベル号。

 いよいよ、冒険の始まりだ。と、九斗がワクワクしながら天板モニタに映る曇り空を見上げていると……ウーヴが正面の大型スクリーンに映る作業監視室を睨みつけた。

「リーン・プロット。なぜ、お前がそこにいる?」

 訝しむ声に釣られてスクリーンに目を移せば、作業監視室にリーンと白衣男が立っていた。手を小さく振って笑顔で見送るリーンに、九斗は胸を張った。外の世界へと旅立ち、ひとりの人間として生きていくのだ。そのことを誇らしげに思っていると、ジャゲが眼を血走らせて艦長席から飛び降りた。

「あの野郎ぉん! こんなところにいたのかぁん!」」

「どこへ行く? 出港中だぞ」

「心配すんなぁん。ちょいと機銃室にいって、あいつに一発ぅ、かましてやるだけだぁん」

 止めてもムダだぜぇん。と肩で風を切って艦橋から出ていくジャゲ。その様子を見やりながら「まったく勝手なヤツだ」とウーヴは呆れると同時に、眼下へと落ちていく作業監視室を見て眉根を寄せた。

「妙だな……」

「どうしたのさ、ウーヴ?」

 九斗の声に耳も貸さず、ウーヴはコントロールパネルを指で弾いて監視カメラを作動させた。サブスクリーンに映し出される艦内。そして巨大砲塔が収まった格納庫で正装服を着た人物を見つけるや否や、かぶりを振って失笑した。

「まったく、あなたという人は……」

 面識のない白髪の人間に、九斗が「おじいちゃんじゃん」と素朴な感想を漏らしていると

「爺……」

 背後で黒猫が救いを求めるように老人を見つめていた。すると、艦橋こっち側を知るはずのない老人が、カメラに向かって短く両手を動かして頷いた。

「ハンドジェスチャーか」とウーヴが横目で保子莉を垣間見る。

「何を指示したのか聞きませんが、下船ができないこの状況では、何をしても無意味ですよ」

 ウーヴの言うとおり、すでにキャッツベル号は地上面を抜け、空に向かって上昇を開始していたからだ。同時にジャゲのやかましい声が艦橋内に届いた。

「おい、ビヂャ! そのまま高度を維持して、船を格納庫側へ回頭しろぉん!」

「モタモタしてて、狙い損ねたちゃんか?」

「うるせぇん! 機銃室の場所を探すのに手間取っただけだぁん!」

 良いからぁん、早くしろぉん! と、責付せっつくジャゲに煽られ、ビヂャが首をすくめた。

「やれやれ、世話のかかるダンナちゃんね」

 笑いながら、指示通りにキャッツベル号の向きを変えるビヂャ。自由自在に船を操る小さな宇宙人を見て、九斗も操縦したくなる衝動にかられていると、ウーヴが言った。

「九斗。これを機会に、船の操縦も覚えておけ」

 これからのことを考え、搭乗員としての教育をしておかなければならないのだろう。

「ビヂャ。片手間で構わないから、九斗に操縦をレクチャーしてやれ」

 ウーヴの言いつけに九斗が意気込んでいると、ビヂャが露骨に嫌な顔をした。

「こいつに操縦なんかできるのちゃんか?」

「やってみなきゃ分かんないだろ!」

「分かるちゃんよ。お前みたいなガキには、到底、ムリちゃん」

「ガキじゃない! もう立派な大人だ!」

 その証拠に、こうしてトオルおにいちゃんと同じ成人体になったんだ。なのに……

「ワシからすれば、オムツの取れていないガキと一緒ちゃんよ」

「オレより小さいお前なんか、もっとガキじゃないか!」

 鼻で嘲笑うビヂャに、九斗が突っかかった瞬間

「ケンカはよせ。それと九斗、お前も半人前としての立場をわきまえろ」

 たしなめるウーヴの言葉に、九斗は逆らいたい気持ちをグッと堪えた。そしてビヂャを睨みつけた。

「絶対に、お前よりも上手くなってやる」と決意した矢先、ジャゲによる砲撃が始まった。狙いどおり格納庫に向けて放たれたビーム砲。その軌跡は確実に格納庫全体を打ち砕いた。

「凄い……」

 想像を上回る破壊力に九斗は圧倒された。これだけの攻撃だ。さすがのリーンも跡形もなく吹き飛んでしまっただろう。同時に実感の湧かないはかなさが、胸中に広がっていく。

 これが死ぬというものなのか? と、生命の死の概念を理解できないでいると

「ウヨヨ~ン、ザマァみやがれぇん!」

 狂喜の声を響かせるジャゲに「もっと、やるちゃんよ」と船を旋回させるビヂャ。

「任せろぉん、すべてぶっ壊してやるぜぇん!」

 地上に向かって手当たり次第に、機銃を撃ち始めたジャゲ。大型スクリーンに映し出された星王広場の木々は爆風と共になぎ倒され、シンボルである初代星王の銅像も粉々に吹き飛んでいく。同時に九斗の脳裏に星王広場の地下道の人々が過った。あそこにいた人たちはどうなるのだろう。と、スクリーン越しでは分からない生死の不安に疑問を抱いていると

「呆れた連中だ」

 破壊活動を楽しむ二人を止めることなく、傍観するウーヴ。何事にも動じない大人の態度に、九斗の不安が消え去った。ウーヴのような大人になるためにも、自分も毅然とした心構えをしなくては。と、憧れるウーヴに習って九斗も静観を決めていると……それを許さない怒りの気配が背中に触れた。

「保子莉おねえちゃん?」

 振り向いた刹那、黒猫の鋭い爪が首紐を裂いた。

「あっ!」と九斗が声を上げた時にはすでに遅く……黒猫は脱兎のごとく艦橋を飛び出していった。

「待ってよ、保子莉おねえちゃん!」

 黒猫を追おうと足を踏み出した瞬間、ウーヴに引き止められた。

「放っておけ、九斗!」

「でも、保子莉おねえちゃんが……」

 すると、ビヂャが九斗の言葉を遮った。

「安心しろちゃん。のじゃ猫を逃がさないために、脱出ポッドのコントロールを切断したちゃん」

 そしてニヤッと嘲弄ちょうろう

「それに、これだけの高度ちゃん。何も無しで飛び降りたら、どうなるか、のじゃ猫も分かってるちゃんよ」

「そういうことだ」とウーヴに厳しい目を向けられた。

「それよりも、お前にはやるべきことがあるだろう」

 ウーヴの言いたいことは分かっていた。宇宙船の操縦を覚えることだ。

「分かったよ」とむくれ半分で頷き返す九斗。ウーヴから一人前と見なしてもらうためにも、ここはグッと我慢するしかない。

「期待してるぞ」と九斗の肩を叩いて、ウーヴが艦橋の出口に向かった。

「どこにいくのさ?」

 置き去りにされる心細さを声にすれば

「すぐ戻る」と艦橋を出ていくウーヴを見送りつつ、九斗は襲ってくる孤独感に堪える。頑張って宇宙船の操縦を覚えて、ウーヴに褒めてもらおう。そうすれば、きっとウーヴも保子莉おねえちゃんもボクを見直してくれるはず。と前向きに考え、操舵席に近寄った。

「なぁ、お前ばっかり操縦してないで、ボクにも操縦させろよ」

 するとビヂャが露骨に迷惑そうな目をして言う。

「今、忙しいちゃんから、お前に構っているヒマはないちゃんよ」

 邪険にするビヂャに、九斗は癇癪を起こして噛みついた。

「何が忙しいだよ! イジワルしないで、早く教えろよ!」

 ビヂャは摑みかかる九斗の手をかわし、宙へ羽ばたき逃げた。

「乱暴はよせちゃん! ワシに何かしてみろちゃん。この船の自動運転を解除してやるちゃんよ。そうなったら、どうなるのか分かってるちゃんか?」

「どうなるんだよ?」

「ホント、何にも分かってないちゃんね。つまりコントロールを失って地面に激突ドーンするちゃんよ」

 それでも良いなら、お前に変わってやるちゃんよ。クケケッ。と嘲笑って言葉を付け加える。

「そんな調子だから、お前はガキなんちゃんよ。分かったら、そっちの席に座って、ワシのやることを指を咥えて眺めてろちゃん」

 小馬鹿にするビヂャの態度に押し黙る九斗。悔しいけど、ビヂャの言うとおりだ。操縦できれば、こいつなんかに威張られることもないのに。と、自分の無能ぶりに苛立ちを覚えながら空いている席に座った途端

「ボクが教えてあげようか?」

 いきなり右肩に現れた小さな存在に、九斗は短い悲鳴とともに座席から転げ落ちた。今のはなんだ? と姿を見失った小動物を探していると、今度は左肩に現れ、また耳元で囁いた。

「キミに危害を加えるつもりはないから、そんなに驚かないでくれよ」

「だ、誰だ、お前? どこから入ってきた?」

 すると小動物は、ジャゲとの会話に夢中になっているビヂャを見やり、細く小さな人差し指を口元に立てて声量を下げる仕草をしてみせた。

「ボクの名前はポウ。キミの知っているリーンの使者だよ」

 小さく動く口元に合わせて聞こえてくる声に、九斗は眼を見開いた。

「リーン? リーンは生きてるの?」

「あの程度の攻撃なんかでは死なないよ。それよりも、船を動かしたいんだろ?」とビヂャを見やって九斗に語りかけるポウ。

「でも彼が操縦している以上、それもできそうもないか」

 そしてポウが動物らしからぬ邪悪な笑みを浮かべた。

「ならば、別のことをしようか」

「別のこと?」

「そう。例えば……」と小動物が両腕を横に広げた。

「大砲を撃つのはどうかな? 下でジャゲが撃っているのより、うーんと大きいヤツを。それを撃つことができれば、ウーヴやおねえちゃんもキミの凄さを知って尊敬してくれるかもしれないよ」

 しかもジャゲやビヂャも見返せる。正に一石二鳥だ。

「やる!」と九斗が躊躇なく頷いてみせると

「決まりだね。じゃあ、少し息苦しいけど我慢してね」

 そう言ってポウは九斗の顔面に貼りついた。

(緊急入院のため、連載未定となりますことをお詫びします[コロナではありません」)

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