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第五章 クレハ・パレード2

2019/11/17

第五章における章題『仲間』から

『クレハ・パレード』に変更いたしました。

「何の因果でぇ、この俺様が扱き使われなければならなきゃいけねぇんだぁん」

 ウーヴから命じられたキャッツベル号の船体洗浄。機械洗浄では行き届かない隙間を手作業で掃除をしていたジャゲとビヂャだったが

「もぉ、我慢ならねぇん! こんなくだらねぇことぉん、やってられるかぁんっ!」

 ヒステリックな声を上げて電動モップを床に叩きつけるジャゲに、外壁側面の隙間を拭いていたビヂャも嘆いた。

「ワシもいい加減、背中はねが疲れてきたちゃんよ」

「……おい、逃げるぞぉん」

「へっ? 今、なんて言ったちゃん?」と、ビヂャがジャゲの肩まで降りて耳を傾けた。

「逃げると言ったんだぁん!」

 ヤツメウナギのような丸い口をクワッと開くジャゲに、ビヂャが「やれやれ」とかぶりを振った。

「この拘束首輪がある以上、それはムリちゃんよ。プラールから出た途端、電撃ビリビリを食らって呼吸困難で死ぬのがオチちゃん」

「一生、奴隷のよう働かせられてぇん、ここでのたれ死ぬならぁん、その方がぁんマシだぁん」

「対価に見合った働きをすれば、解放してやってもいい。って、あの髭男が言ってたちゃんから、ここは我慢して言うことを聞いたほうが身のためちゃんよ」

 ビヂャの説得に「ぐぎぎぃ」とジャゲは触手をわななかせながら、乱暴にモップを踏みつけた。

「何もかも、あのチャップがぁんいなけりゃぁん、こんなことにはならなかったんだぁん!」

 全ての元凶はあいつのせいだぁん! と、わめき散らし、キャッツベル号から降ろされているライドマシンに怒りをぶつけた。

「ライドガンナーレースの時にぃん、こいつもろとも、あのチャップを吹っ飛ばせばぁん、こんな目にあうこともなかったのによぉん!」

 拾い上げたモップで、トオルと保子莉が乗っていたオンボロマシンを殴りつけていると

「あらあらー。男のヒステリックはみっともないわよ」

 作業用格納庫ドックに現れた赤髪獣人に、ジャゲが唾を吐き捨てた。

「余計なお世話だぁん。第一お前にぃん、俺様の何が分かるってぇんだぁん? ああん?」

 毒突くジャゲに、トキンが肩をすくめてみせる。

「分かるわけないじゃない。でも、今の状況から脱したいことだけは確かよね」

「それだけ分かりゃぁん充分だぁん。それでぇん、あの白猫との交渉はどうなったぁん?」

 もちろん、良い返事を聞かせてくれるんだろうなぁん? と、ジャゲがトキンを睨んだ。

「そのつもりで執務室に行ったんだけど、黒髭の執事さんに門前払いされちゃって、お姫さまと会わせてくれないのよ」

「それはぁん、どう言うこったぁん?」

「つまり、交渉などする気はないということちゃんね」

 こうなると、もう駆け引き以前の問題ちゃん。と、ビヂャは隣に並ぶミニライドマシンの座席シートに座り込んでうな垂れた。

「チッ。交渉するとか大見栄を切った割にはぁん、大したことねぇなぁん」

 ジャゲの皮肉に対し、トキンがぶうたれた。

「相手の交渉条件が見極められないんだから、しょうがないでしょう。そもそも、あなたたちって、何であのお姫さまにそこまで気に入られちゃってるわけ? その理由が分かれば、交渉のやり方も変えられるんだけど?」

 何で? 何でなの? と前のめりで訊ねるトキンに、ジャゲが言う。

「そ、そりゃぁん、アレだぁん。そのぉん、何だぁん……俺様の力が必要になった時のために……拘束してだなぁん……」

 しどろもどろで答えるジャゲに、ビヂャが苦笑う。

「それなら、こんな余計な首輪なんかしないで、さっさと用件を言って欲しいちゃんよ」

「それもそうよね。で、ちなみにあなたには、どんな能力があるの?」

 それによっては交渉金額を決められるし、取引もし易いんだけど。と訊ねるトキンに、ジャゲの視線が空を泳ぐ。

「そ、そりゃぁん……そのぉん……俺様の手にかかればぁん、星のひとつも破壊することも可能なわけでぇん……」

 すると、トキンが「それ、ホントなの?」と疑いの眼差しを向けた。

「何だぁん、その目はぁん? もしかして俺様の言葉を信じてねぇのかぁん? お前、知らねえのかぁん。以前、タルタル星で行われたライドガンナーのレース中にぃんミサイルをぶっ放したのはなぁん、何を隠そう、この俺様だぁん」

 つまり、それなりの武器がありゃぁん、星のひとつやふたつ破壊することもワケねぇだぞぉん。とハッタリをかますジャゲの言葉にトキンが目を丸くした。

「あれって、あなたがやったの?」

「そうちゃん。正確にはダンナとワシでやったちゃん」とビヂャも胸を張って便乗する。

「そうなると交渉金額は破壊活動者の報酬と同じか、もしくはそれ以上となるわね」

 指折り数えて考え込むトキンに、ジャゲが訊く。

「金のあてはあるのかぁん?」

 すると……

「手持ちの152枚のカードを現金化すれば、用意できなくはないわね」

「カード? 何だぁん、それはぁん?」

「あなたたちには縁のない芸術作品のことよ。と、言うことでお金を作ってくるから、期待して待ってて」

 そう言って出口へと踵を返すトキンだったが

「あ、そうそう。アナタたちのために言っておくけど、その威張り散らす性格やめたほうがいいかもね」

 じゃないと、困った時に誰も助けてくれなくなるわよ。と、作業用格納庫を後にするトキンだった。



 その頃、宇宙では……。

「この船は、俺たちバヤンテ団が制圧しザぞ!」

 突如、船内に押し入ってきた無粋な宇宙人たち。見れば片ツノを失った水牛男が、銃器を携えた手下を連れている。

「てめぇら! 全員、手を挙げて床に伏せろい!」

 その脅し文句に、大男は眉根を顰めた。どうやら宇宙における追い剥ぎ……要するに海賊と呼ばれる者のようだ。

「命が惜しけりゃ、おとなしく金目のモン出しやがれボな!」

 威圧する声に、乗客たちが悲鳴をあげて慄いた。

「おら、そこのお前! グズグズしてねえで、サッサと床に伏せろ」

 豚もどきが、乗客であるタコのような軟体宇宙人にライフルの銃口を向けていた。

「子供を身ごもっているのだから、乱暴はしないで」

 大きく膨らんだお腹を抱える軟体宇宙人に、豚もどきが苛立ちまぎれに銃を振り上げた。

「そんなこたぁ、俺たちには関係ねぇんだよ!」

 力任せに振り下ろされる銃器に、軟体宇宙人が短い悲鳴とともに身を縮めた。が……

 ガシッ! と大男の太い腕が、寸前のところで食い止めた。

「ご婦人に乱暴するのはよせ」

 銃身を掴みながら立ち上がる大男に、豚もどきが一歩退き狼狽えた。

「な、何だ、テメェは? じゃ、邪魔すっと、ぶっ殺すぞ!」

 大男の手からライフルの銃身を引き抜いて、銃口を向ける豚もどきに、大男は怯むことなく言った。

「この拙者を殺す? フッ。面白い。ならば、やってみるが良い」

 身構えることもせず向き合う大男。その威圧的な態度に、豚もどきが怒りに震えた。

「み、見せしめにお前から、血祭りにしてやるっ!」

 大男に狙いを付けて引き金に指をかける豚もどき。が、次の瞬間

 ヒュンッ!

 風切り音とともに、銃身がゴトリと床に転がった。

「ん? な、なにぃー!」

 落ちた銃身と手元の銃を交互に見やって慌てる豚もどき。

「腕が残ったことを、感謝するんだな」

 大男の握る大剣。いつのまに? そんな疑問符が豚もどきの顔に浮かんでいた。そして「だ、団長っ! 団長っ!」と、他の乗客の持ち物検査をしていた水牛男を呼んだ。

「何だ? いったい、どうしたザぞ?」

 床に伏せる乗客を跨いでノシノシと近寄る水牛男。どうやらこの男が連中を牛耳る親玉のようだ。

「こいつ、ヤベェっすよ!」

 ほら、コレ! 見てくだせぇよ! と使い物にならなくなった銃を見せる豚もどきに「ほぉ……」と、水牛男が怪しく目を細めた。

「おめぇ、ただの非獣人ヒューマンじゃあねぇザな」

 腰にぶら下げていた銃を抜く水牛男に、大男も大剣を握り直した。

「悪いことは言わん。すぐにこの場から立ち去れ」

「そうはいくかぞ。金になる獲物を前にして、オメオメ手ぶらで帰れるか」

 大男を睨んで銃口を向ける水牛男。交錯する両者の視線。物音ひとつ立てられない緊張に、全員が固唾を呑んでいた。

「とりあえず、売りに出すおめぇさんの名前を教えてもらおうザぞ?」

「悪党に聞かせる名は持ち合わせていないゆえ、その必要はない」

 ジャキッ! と魔剣『ネーヴェル』を構える大男の返答に、船内の空気が凍りついた。

「なるほど。ならば、体で言うことを聞かせるしかないようザな」

 水牛男は不敵な笑みを忍ばせると、大男に向かって引き金を引いた。



 同日。

 日没と共に降り始めた雨の中、第一妃宮内で不審な影があった。

「誰もぉ、いませんよぉうにぃ」

 夜陰に乗じ、敷地内をウロウロする番犬や宮廷警備員の目をさけ、星王宮殿を抜け出したクレアは、第一妃宮の離れの建物内に忍び込んでいた。暖色に灯された照明の下。濡れた髪を頬に付け、黒いインナーウェアを身にまとっての隠密行動。柱の陰から柱へと移動を繰り返すその姿は、まるで特殊工作員そのものだった。

「えーとぉ……地図ではぁ確かコッチだったような」

 今朝方、部屋に運ばれてきた朝食。その時、テーブルを彩る生け花と一緒に、走り書きのメモと第一妃宮の見取り図がコッソリと添えられていたのだ。

 ――でもぉ、誰がぁこんなことをしたんでしょう?

 クレアは周囲に注意を払いながら、謎のメッセージに視線を落とした。

『現在、シキジョウトオルはこの場所にて監禁されている』

 最初は何かの冗談かと思った。食器を引き下げにきた召使いに訊ねてみようかとも思ったが……差出人不明のメモだけに、不用意に訊くことをやめた。たぶん召使いは何も知らされてないと思ったからだ。そこで白髪の老人に相談しようと召使いに伝言を頼んだのだが……あいにく老人は多忙らしく、面会することが叶わなかったのだ。

 誰が何の目的として知らせてくれたのかは定かではない。だが、トオルの所在が判明しただけでも御の字だ。

 だからといって監禁とはぁ穏やかじゃあ、ありませんねぇ

 長二郎から事の成り行きを教えてもらったバブンメタル密輸事件。おそらくその件で、捕らえられたのかもしれない。

 ――拷問とかぁ、されてなければいいんですけどぉ

 基本的に猫族は無用な争いを好まない。ゆえによほどのことがない限り、自白強要における拷問などはしないはず。

 ――たぶん、大丈夫だとはぁ思いますけどぉ

 と、トオルの安否を確認次第、星王宮殿に戻るつもりでいたクレアだったが

 ――どうやらぁ先客さんがぁ、いるみたいですねぇ

 回廊を右へ折れた瞬間、クレアは踏み出しかけた足を止めた。廊下の突き当りの部屋の前で、蠢く複数の人影があったからだ。しかも丸腰のクレアとは違い、武器を携帯しているようだ。

 ――うーん、これは困っちゃったですねぇ

 クレアは息を殺し、怪しげな人影を観察することにした。

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