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第四章 玉座に座る者3

「そうか。アガミがそのようなことを……」

 日付が変わった頃。

 白髪の老人こと『マエストロ』の報告に、アスタインは椅子にもたれたまま深いため息を吐いた。

 深夜の星王執務室。

 その談話の中で、二人は宮廷内で起こっている事柄に触れていた。

 数ヶ月前、何者かの手により薬物摂取を与えられてしまった第二夫人の息子ノーグァ。同時にホズリに先祖返りを強要し、さらにその身をクローン人間に委ねて軟禁していること。それら全てに、娘のアガミが関わっていたのだ。シーグレー家において、好ましくない内情。だが、アスタインを悩ませる頭痛の種は他にもあった。

「よりにもよって、違法マタタビを製造していたとはな」

 披瀝ひれきするアスタインに、匠の老人も同情を寄せた。娘の非合法な行い。早くから情報は掴んでいたのだが、それを裏付ける確固たる証拠がないまま今に至ってしまったのだ。

「もっと早くに察するべきでした」

 アガミの不穏な活動に気付き、始めた内偵調査。しかし時すでに遅く、アガミの身辺は一片の情報も漏らさぬ強固なものとなっていた。ゆえに探りを入れようとすれども、子弟であるウーヴに感づかれてしまい、なかなか真相にたどり着けなかったのだ。

 そんな折し、惑星ンカレッツアでの密輸事件が発覚した。

 敷常トオルが運んだバブンメタル。細菌兵器の元となる希少鉱物。その足取りを追跡した結果、アガミとウーヴの存在が浮上してきたのだ。代々仕えてきたシーグレー家。まさか、身内の者が先導して法を犯すような真似をしていたとは。幸い、今のところ大きな星間問題に発展するような兆しはない。……が、今後の対応次第では、惑星ナァーの信用は一気に墜落してしまうだろう。

 それでも配送業務を請け負ったホズリの責任は重く、逮捕されるに至ってしまった。しかし、それと引き換えにアガミ自ら率先して生育している違法マタタビの情報を掴むことができたのは不幸中の幸いと言えよう。ホズリに対し、使用された違法マタタビの存在。果たして、どこの地域でどれだけの量を栽培しているのか。内偵捜査官に調べさせたところ、星府の監視が届き難い山岳地帯のサーリエにて耕作されていることが判明したのだ。

「しかもそれだけではありません。ノーグァさまの薬物投与と同じくして、三ヶ月ほど前から隣星オーヤンに出荷されていました。その結果、現在オーヤン星府の機能は麻痺状態に陥り、政治崩壊の危機に瀕しております」

 外交問題に発展しかねない情勢に、アスタインが「まったく何を考えておるのだ」と眉間に深い皺を寄せた。

「すぐに外交星務官に緩和剤を手配させよう」

 問題対処における即断は、仕える娘のホズリと良く似ていた。が……

「実は、そのことですが、今回の違法マタタビにおける緩和剤の製法資料はアガミさまが管理しており、分析はおろか、精製すらできない状態なのです」

 出鼻を挫かれた状況に、アスタインがかぶりを振って苦悩する。本来ならば、アガミを呼びつけて尋問すべきだろう。しかし身内の不祥事スキャンダルが公になれば、星王の威厳どころか星民たちの忠誠心を失うこととなり、最悪、クーデターへと発展するだろう。現に過去の歴史が、それを証明している。そんな星民の心理動向に加え、子供たちに甘いアスタインは決め手となる決断を渋らせていた。

「では、側近のウーヴはどうだ?」

「あの者を自白させることは、さらに困難を要するかと」

 幼少の頃から賢く、頭の切れる男である。どんな尋問を課したところで、口を割ることは決してないだろう。

「優秀過ぎるのも困ったものだな。しかも、そのような者が加担をしているとなると一筋縄ではいくまい」

「まったく嘆かわしい限りでございます」

 猫族貿易協定におけるマタタビ取引条約。

 この条約を破ったとなれば、外惑星の猫族が黙ってはいないだろう。一歩間違えれば星間戦争にもなりえるのだ。争いの火種を作ることなく平和を守り続けてきた300年。それがたった一人の娘の行いにより、歴史が変えられようとは誰が予想したただろうか。

 しかも惑星ナァーには兵器と呼べる軍備はない。あるのは抑止力のためのダストホールだけであり、有事においてはそれだけで事足りるのである。が……

「アレの使用は断固として避けなければ」

 と、不安を漏らすアスタインに、匠も同意した。

 惑星間においての公表では、我がくには大型兵器における武装は有していないとなっている。だが、それは表向きの話であり、星をひとつ消失させるほどの兵器ふねを所有しているのだ。

 キャッツベル号。

 先日、密輸行為により強制帰港を命じられ、星王広場下の格納庫に封印された宇宙船。くたびれた時代遅れの船だけに、星民も白昼堂々とドック入りする貨物船に何の疑問を寄せないでいた。もちろんホズリやアガミも、この最重要機密に関して知る由もなく……把握しているのは星王と代々仕えてきた側近の者たちだけである。

 できることならばそのような兵器の使用は控えたい。と常日頃から考えていたアスタインの口から力無い言葉が漏れた。

「爺……何か、良案はないものか?」

「お言葉ながら、世間体を気にされては手の打ちようがありません」

 政治に私情を持ち込んでは、いずれ立ち行かなくなりますぞ。と付け加える匠の言葉に「言われなくとも、分かっておる」と、アスタインが眉間に苦悩を忍ばせた。そして……

「ところで、ホズリはどうしてる?」

 何を思ったのか、幼少の頃から疎遠がちだった娘の身を案ずるアスタイン。もちろん匠は知っていた。他の誰よりもホズリの行く末を心配していることを。生まれながらにして歪な猫耳を持ち、家族に嫌な思いをさせまいと気丈に振る舞う我が子。そんな娘ホズリに対し、腫れ物を扱うが如く距離を置き、優しく接することができないまま今日まで過ごしてきてしまったのだ。

「先祖返りをされて、泣いてはいないか?」

 娘を気にかけるその表情は、星王としてではなく……ひとりの父親の顔だった。余計な気苦労をかけまいとする父と娘。まったくもって不器用な親子だ。

「ご心配には及びません。例え、星王が何かしらの危機に見舞わられたとしても、ホズリお嬢さまだけは私の命に代えてもお守りいたします」

 皮肉を込めた匠の冗談に、アスタインが苦笑した。

「爺には、敵わんな」

 星王を受け継ぐ以前から、アスタインに仕えてきたのだ。多少、厳しく意見をしたところで、何の言い訳もできないだろう。

 やんちゃで駄々っ子だった幼少期。そんな子供が今では三人の子を持ち、一国の主として玉座に腰掛けていることが何よりも嬉しく、同時に誇りでもあった。

「それで……本当のところは、どうなんだ?」

 期待の眼を向けて秘策を求めるアスタインに、匠が言う。

「残念ながら御座いません」

「爺たるもの、無策なはずは無かろう」

「仮にあったとしても、悪いことをした子供を叱れない者に策は授けられません」

 そろそろ親として自立なさいませ。と、笑顔で諭す匠の老人だったが、言葉は厳しいものだった。

「父親代わりの爺に言われると、立つ瀬がなくなる」

 灰色の髪をかきあげ、天を仰いでため息を吐くアスタイン。11歳で前星王ちちを病気で亡くし、星王を継承して以来、大半の判断を匠に仰いできたのだから無理もない。

「陛下。いつまでも、私のような年寄りに甘えられては困りますぞ」

 他の猫族惑星に比べて、まだまだ若い星王だ。ゆえに先導して舵を切って民を導いてもらわなければならないのだ。

 そんな匠の願いに応えるかのように、アスタインが「分かった」と意を決する。

「明朝、星衛特殊部隊を招集し、山岳地サーリエにて違法栽培の畑を焼き払い、精製工場の制圧を命じよう。それと、それらの証拠を元に首謀者および関係者を取り締まり、事情聴取に応じてもらう」

 その後の処遇はアガミ次第。少なくとも重要ポストは任せられなくなった。と娘の罷免を考えるアスタイン。少々甘いが、星内情勢を考慮すればまずまずと言ったところか。

「及第点ですが、落とし所としては、そのあたりが妥当でしょう」

 アガミに罪を認めさせ、違法マタタビの緩和剤を入手し、惑星オーヤンを正常化させるシナリオ。だが、もし耕作地帯のサーリエから決め手となる証拠がそろわず、アガミ本人が否認すれば……これらの段取りは全て水の泡となるだろう。

「どちらに転んでも、アガミ(あれ)は親不孝者だ」

 窓の外に浮かぶ赤い月を見上げて吐露するアスタインに、匠の老人も「親の気持ち子知らずですな」と何度目かの同情を寄せた。

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