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第1部 ~ここ、一体どこ?~  第4話 何故にトラブルの方から寄ってくる!?

「これからちょっとした物を投げるから、少しの間だけ目を閉じて耳を塞いでくれ」


『目と耳ですか?』


「ああ、強烈な光と音を出す代物だからな。 これを使って火矢を撃ち込んできたのを無力化させるから、その間に洞窟を脱出しよう」


 目は閉じれるけど耳をどうやって塞ぐんだ?

 そんな疑問も浮かんだが、ユキとコユキは後ろ足だけで座ると前足で両耳を塞いでいた。

 そんなマンガやアニメみたいな芸当が出来たのかお前達・・・。


 一瞬気がそれてしまったが気持ちを切り替えると、1本のペットボトルを火矢が飛んできた方向に投げた。

 数秒後洞窟内に巨大な音が響き渡り、更には視界を奪うほどの光が覆いつくした。

 薫は投げたペットボトルにスタングレネードの効果を付与したのだ!


 相手が火矢を撃ち込んでくる前にこちらが先に投げていたら、引火してお互い焼死もしくは窒息死していたかもしれない。

 結果的に双方に被害を出さずに済んだ訳だが、相手が無力化している内に急いで通過しよう。


「ユキ、今だ! この隙に洞窟を抜けるぞ」


 コユキを抱えながらユキの背に乗る、ユキはそれを合図に暗い洞窟を走り出した。

 ペットボトルを懐中電灯代わりにして、ユキの視界を確保する。

 薫達が洞窟内を進んでいると、途中で倒れている者がいた。

 スタングレネードのショックで気を失っている様だ。

 しかし横を通り過ぎようとした時、薫はユキの足を止めさせた。

 

「ユキ、この人も背に乗せて運べるか?」


『それは構いません、けれど火矢を撃ってきた本人みたいですが?』


 足元に弓が落ちているので火矢を撃ったのは、この人で間違いないだろう。

 しかし、そのまま放置しておくことも出来なかった。


「頼むよ、女性を置いていくのはまずい」


 先程、薫達火矢を撃ってきたのは若い女性だった。




 洞窟を抜けると、気を失ったままの女性を横に寝かせる。

 軽く頬を叩いてみたが、意識が戻る様子も無い。


『カオル様。 もしかしたら洞窟内で炎が上がった時に、酸欠に陥ってしまったのでは?』


 ユキの言葉でハッとなった。

 もしあの引火が故意で無かったのならば、この女性も巻き込まれたことになる。

 薫は覚悟を決めると、女性を助けるために人工呼吸を開始した。


 今の救急救命の手順は不明だが、教わった当時のやり方を思い出しながら行う。


(たしか心臓マッサージのあとで、空気を送り込むのだったな)


 心臓マッサージを行った後で、口を重ね空気を送り込む。

 それを数回繰り返した結果、軽く咳き込みながら女性の意識がようやく回復した。


「・・・・ここは?」


「洞窟の外だよ。 君の放った火矢が洞窟内で引火して、酸欠を起こしていた。 手当てが遅ければ、命を失っていたかもしれないな」


「そうですか、それであなたはどちら様ですか?」


「俺かい? 俺は君に火矢を撃たれた者だよ」


 女性はとっさに弓を構えようとしたが、手元になかった為ムダに終わる。


「待ってくれ、俺は君と争うつもりは無い。 けれど何故、俺達に向けて火矢を放ったのかだけは教えてくれないか?」


 命の恩人に対してする行いではないと、すぐに女性は気付いた。

 女性は薫に謝罪すると、火矢を撃つに至った経緯を教えてくれた。


「わたしの名はサキと言いまして、この先にあるクリスティアの町に住んでおります。 実はこの洞窟の反対側の住人に町を襲われない様に、交代で見張りをして近づく者には警告で火矢を撃っておりました」


 あの村の連中は、他の町まで襲っていたのかよ!?


「実は俺もそこで村人に襲われ、ここまで逃げてきたんだ。 町の住人に危害を加えないことは約束する、君の住む町まで連れていってくれないか?」


「良いですよ。 あのまま洞窟内で放置されて向こうの住人に見つかりでもすれば、今頃わたしは慰み者にされていたかもしれません。 それに・・・」


 サキは一旦言葉を区切ってから、続きを言い始める。


「それに白狼が主に選ぶ御方です、町の住人にもそれが何よりの証明になるでしょう」


 薫の横で寄り添うように座っているユキとコユキを見て、サキが微笑んだ。

 こうして薫達はサキの案内で、クリスティアの町まで案内してもらえる事となった。




「ところでサキさんは、ユキとコユキが守護狼の末裔だって知っているの?」


「はい、実際に対面するのは初めてですが知っています。 【聖なる地を守護する白き狼。 真の主と定めし刻、偽りの姿を捨て真の姿を取り戻さん】 本当かどうかは不明ですが、守護狼に関する伝承の1つですね」


 町へと続く道を歩きながら、薫はユキさんに尋ねた。

 薫が洞窟の出口に通行止めの効果を付与したペットボトルを置いてきたので、見張りの交代を待つ必要が無くなったのだ。


「それにしても、カオルさんの力はスゴイですね。 今までの苦労がウソみたい」


「でもうっかり片付けられてしまうと困るから、町に着いたら十分な説明をしておこう」


「そうですね」


 このクリスティアという小さな町にそのまま住み着く事になろうとは、さすがの薫も夢にも思っていなかった。

 しかも、この直後に町の住人から謂れの無い疑いをかけられたにも関わらず・・・だ。

 洞窟から歩く事およそ2時間クリスティアの町の手前まで来た時、薫達の前に町の自警団と思われる集団が立ちふさがった。


「動くな、そこで止まれ!」


「ケント、これは一体どういう事なの!?」


「サキか、お前見張りの役目を放棄してどういうつもりだ?」


 どうやらこの男とサキは知り合いみたいだ、ケントと呼ばれた男がジロリと薫を睨みつける。


「その男は?」


「この方はミナイ・カオル様。 洞窟の中で酸欠で倒れたわたしを介抱してくれたの」


「洞窟の中で? さてはこの男、あの村の住人か!?」


 一斉に武装した者たちに周囲を囲まれた。

 何を言っても話が通じない、そんな雰囲気を薫は肌で感じていた。


「待って、ケント。 その人は白狼、守護狼が主に選んだ御方。 危害を加えようとすれば、ただでは済まないのはこっちよ」


サキの言葉でユキの存在に気付いた自警団の面々は、ようやく武器をおさめ話を聞く体勢を取ってくれた。

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