ハロウィン
ネタに考えていたものの一つながら、もう少し後でもいいかな、なんて思ってたところ丁度いい日が来たので書きました。
今まで異世界の事情は現実世界の歴史に当てはめるとどうなっていたか、ばかりをあげつらってきた。今回はその逆、現実世界の事情は異世界においてどうなってしまうかについてだ。
中世ヨーロッパ風異世界とは当たり前のことなのだが、現実の中世ヨーロッパをモデルにした世界である。スチームパンクといったジャンルのように、科学ではなく錬金術が、工業力ではなく魔力が発達した「もしかしたら」の世界であるともいえる。
そのため異世界にも現実と同じような寓話や説話、神話が存在しており、メッタなことを言ってしまえば、現実では架空の存在でしかないエルフや精霊、オークやサキュバスといったものが異世界では当たり前に存在しているのだ。つまり、現実世界において「存在するかもしれない」と考えられたものは全て異世界で存在し得る。
ここで形式としてハロウィンについて少し書いておこう。
古代ケルト人の祭祀が発祥の行事であるとされ、秋が終わり冬が来るという季節の変わり目に収穫祭として行われていたようだ。この日になると冥界と現世を隔てる門が開き、現世に幽霊があふれ出す。そのため幽霊を怖がらせ、自分に幽霊の害が及ばないよう仮装をしたのだった。というのが簡単な説明。今でこそ日本では馬鹿騒ぎのダシに使われるだけとなってしまっているが、とにかく怖い姿をしようとした当時の人々の苦労を見るに、冥界から現れる悪霊には非常に恐怖をもっていたようである。
もうお分かりであろう。ファンタジー世界にはゾンビや霊魂といったアンデッドモンスターが存在している。異世界ではこの時期にゾンビやスケルトンが地面から湧きだし、レイスは霧に紛れて現れ赤ん坊をとり殺す。
ただアンデッドモンスターがスタンピードを起こすというのが危険すぎて異世界事情におけるバランス崩壊になる要因であるため、アンデッドモンスターが出てくる作品では死んだ人間は特別な儀式を行えばアンデッド化しないとか、生前信仰心が高かったり徳の高い聖職者が高位のアンデッドになるといったバランス調整が行われている。生前の描写を嫌ったためか、登場することで確実に鬱展開となるのを嫌ったためか、そもそも物語にアンデッドモンスターが存在していなかったり、生前などいうものは存在しないただアンデッドと呼ばれるだけのモンスターが存在している。
中世ヨーロッパ風ファンタジーにおける宗教とはキリスト教またはそれに類似した宗教のことであると解釈されている。審判の日以外の死者の蘇生、死者の転生を認めず、埋葬した死者を掘り起こすことを厳しく禁忌としている。死者が勝手に起き行動するなど神の御業を冒涜する許されざる現象であるのだ。
アンデッドモンスターは聖なる祈りを込めた武器でのみ退治できるとか、体をバラバラにしてしまえば復活できなくなるといった目立つ弱点、見方を変えればその手段でしか倒せないというモンスター側からしてみれば大きな強みがある。聖職者が一つの村に一人必ずいるという状況は異世界においては珍しくはないが、大量発生してしまうアンデッドに対処できるかは怪しい。宗教組織は家の入口に貼っておけばアンデッドモンスター避けになるような護符を販売、もとい喜捨のお礼に授けているのではないだろうか?
現実ではハロウィンは聖人の日となっているため、もしかしたらアンデッドモンスターのスタンピードに合わせて名の知られた聖人が出動し、各地方に現れたアンデッドモンスターたちを浄化して回る日となっているかもしれない。こうなるともうアンデッドのスタンピードは怖がられるものではなく、見世物や祭とそう変わらない実態になる。安全の保障される恐怖はアトラクションとなるのだ。生き返ることを前提とした死はただの娯楽と成り果てるように。
そうすると異世界における宗教組織の権威というものは絶対のものである。あるかどうかもわからない死後の世界を保証し社会保障の一つとなっている現実の宗教とは違い、実際に死者の行軍による危機を神の御威光で退ける力を持った宗教組織という存在は疑うことすら罪になるようなそんな組織になっているように思える。何をするにも宗教組織が口を出してくるような、そんな世界では物語は作りにくいのだ。現実でもキリスト教に属する組織は過去に何度も、かなり理不尽な命令を発している。それがもっと力をもっているとなれば、いよいよ宗教の成り立ちから法話、戒律やそれを拡大解釈した理不尽な命令などを構想しなくてはならなくなる。
また現代人的価値観からすれば、幽霊はいないのである。なにをそんな迷信に惑わされているのだとアンデッド避けの護符を破きでもしてしまえば、その後の運命は決まったものだ。ただ現代日本人というのはこういった宗教行為には流されやすいもので、何か珍しいことをやってるなーと思ってはいてもそれに従うものだ。案外この方向では死なないかもしれない。
ゾンビによる感染症の水源汚染や空気感染ということも考えられる。ゾンビは呼吸しないものと一般的には考えられるが、死体はただそこにあるだけで病気の原因になるものなのだ。現代人では化粧といえばオシャレのためにあるが、その起源は死に化粧、もっといえば死体の防腐処理であった。
死という概念が放つ穢れはすさまじく、筆者が体験した東日本大震災の際にはどこから生まれてきたのかも知れない大きく黒々としたハエが種類を問わず植物の葉に色を変えるほど群がり、感染症の媒介となりかけた。幸い衛生観念がしっかりした国であったので、すぐさま家庭でできる駆除の情報が広まり発生源の一つとなる様々な死骸を含んだ泥には石灰で消毒がなされた。もし衛生観念のない異世界で大量死・ゾンビの大発生が起きればどうなってしまうかは想像に難くない。現代日本でこそ火葬によって衛生が保たれているが、土葬が主流の異世界では疫病と地下水の汚染が日常のすぐ隣にある。ましてそれが動き地上を闊歩するのだ。
書く内容として考えてはいたものの、構成的にねじ込むのが難しかったものを書いて終わろうと思う。
ゾンビの起源の一つである死者の使役術、意外にもその根拠は非常に合理的であった。
医学の発達していない時代においては医者は生きているにも関わらず死亡診断を下すということがよく起きていた。そのため土葬された古い棺の裏には息を吹き返して助けを求めるため、ひっかいた形跡が残っていることがある。死霊術師は埋葬されたばかりの棺を暴いて死者の名前を呼び続け、死者はそれに応えて使役されることになる。漫才かと思うが、つまりゾンビは自分が死んでしまったものと勘違いした普通の人なのだった。
他にもゾンビパウダーと呼ばれるもののレシピのうちいくつかは強心毒(心臓に作用する毒)や天然の幻覚剤を配合しており、これらは実際に人を仮死状態にして幻覚を見せて意識朦朧とさせる効果があり、そうして見た目は死んだように見えるフラフラとした人間が出来上がる。その後も少しずつ毒と幻覚剤を含む薬を投与し続け、洗脳によって人格を壊す。これで歩く死体、使役者の言うことを聞くゾンビが出来上がる。
現実にも死霊魔術は存在していたのだった。
こうしたことを防ぐために、世界中で死者が復活しないよう工夫が見られる。
足の骨を折り、死体に毒を注入し、骨に傷をつける。それだけなら見た目はあまり変わらないが、死体の手足をバラバラにしてから埋葬したり、首を切り落とすなどスプラッタな埋葬も行われていたようである。沖縄では死体が腐るまで家に置いておくという風習も見られた。死霊術師が死者を冒涜しないよう墓に見張りをつけておくという比較的穏当なものもあった。
正体を知ってしまうとやるせない気分になるというか、気が抜けてしまうが、これがアンデッドなのである。
死者が変化したモンスターは単なるシューティングゲームの的ではないわけです。
もし仲間が、父母が、愛しき恋人がゾンビになってしまったらそれを討つのは非常に苦労します。自分ならできません。自分が異世界転生してしまったら、これが原因で間違いなく命を落とすことでしょう。
初めてレビューをいただきました。とっても嬉しかったです。
他作品もランキングに載ってたりして、多くの人に見ていただいているんだと実感しております。
全てに返信しているわけではありませんが、全ての感想に目を通しています。声援、指摘、補足などなどたくさん来ていて自分も執筆に力が入ります。