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天然痘

現代においてはもはや存在しない病気なのだが、医学書においてはその撲滅までの長い長い歴史、そして出した死者の数、歴史に与えた大きな影響といったものが考慮され、今でも必ず掲載されている。それが天然痘である。


伝染病は生物のおこりと共にあり、その中でも特に天然痘は人類の歴史と密接なものであった。


天然痘はいつからあるのか、それはまだ分かっていない。最も古い記録は紀元前1300年ほどのものであり、そのころにはもう人の命を奪う当たり前の病気であると考えられていたようだ。しかし全世界に存在していた病気ではなく、ある地域にのみ存在している病気であった。


咳やくしゃみといったものから感染し、症状は高熱、頭痛など、その様子は強い風邪と似る。そして体中に白い疱瘡(ほうそう)ができ、内臓にもこれは出る。これによって呼吸困難や弱った免疫に他の病気が併発し、死に至る。生き残った場合は疱瘡が瘡蓋(かさぶた)となりその後は痘痕(あばた)となり醜く跡が残る。致死率は20%から50%といわれている。感染力も強く、感染者に触った肌から、また生き残った者から取れた瘡蓋を触っても感染する。


日本には元々存在しない病気であったが、6世紀ごろに中国・朝鮮からの渡来人によって持ち込まれ、免疫を持たなかったこともあり大流行。数多くの人が死に、天皇や政権を担っていた人物なども次々と死んだ。この頃地震や水害、飢饉といったものが相次ぎ、地震については一年半の間に27回もの巨大地震が起きたという記述が残る。災害が起きるのは政治が悪いせい、神からのダメ出しなのだという考えが主流の当時において、この続出した災害は全て天皇に向く。そうして建てられたのが今日まで残る(二度焼失したが)奈良の大仏である。建立の儀式の様子は中学生の社会の教科書にも想像図が載っている。また「これほどまでに盛大な儀式は今まで見たことがない」という記述が残っており、天然痘を始めとする災害を鎮めることがどれだけ望まれていたかがうかがえる。


天然痘は顕性感染(感染したら必ず特有の症状が出ること)で判別・隔離がしやすく、また一度感染して生き残れば免疫ができて死ぬまで二度と感染するということはない。そしてヒトのみに感染することから、人類が初めて地球上から撲滅できた伝染病である。


牛が飼われている地域では天然痘による死者がないことが経験的に知られていた。これは牛には牛痘という、天然痘と近縁の病気があった。乳搾りをする人々は始めに手に天然痘に似た症状が出て少し熱を出すくらいで済み、そしてそれによって得た免疫は天然痘と同じものだったのである。つまり牛痘に一度かかれば天然痘にかかることはない、というのを意味する。


史実においては18世紀、ジェンナーが牛の疱瘡から膿を採取し、これを接種することでワクチンという概念をもたらした。ジェンナーがワクチンを確立する前には、中国においては鼻の穴へ天然痘患者の瘡蓋を粉末にして吹き込む方法や、日本も似たように鼻から瘡蓋を吸わせるという方法をとっている。インドでも紀元前1000年ごろには同じような方法が行われていることから、土着の医療として経験的に知られていた方法のようだ。


こうして地球上から天然痘という病気は撲滅された。


長々と病気について語ったが、天然痘は撲滅されてしまったがゆえに現状人類はほぼ天然痘に対する免疫を持っていない。ワクチン接種も行われておらず、現代人は天然痘に対して全くの無防備な状態であると言わざるを得ない。そんななか、天然痘がまだ撲滅されていない中世ヨーロッパ風異世界へ転移してしまえば、ただ息をすること、現地人と肌を触れ合わせることすら命取りになりかねない状況になる。たとえ生き残ったとしても、顔には醜い痘痕が残り、物語の主役としての命を失うことは間違いないのだ。


もし猛威を振るうこの病気に対する適切な知識を持ち、適切に行動できたのなら、その時代の医療を免疫学という分野のみだが200年以上先の技術を先取りすることになる。国一つに収まらないこの大業は、たった一つの病気であるとしても、歴史書に載る価値のある人類の勝利の一つなのだ。



余談だが、天然痘は地球上では撲滅されている。しかし天然痘ウイルス自体は消滅しているわけではなく、アメリカとロシアという色々なものが冷たくなってくる巨大な2国がサンプルとして保有している。生物兵器への転用を目論んでいるのか、それとも再び天然痘が流行したときに備えているのかどちらかは分からない。ただ、戦争となればこれを悪用するという手段が選択肢の一つになるのだ。そんな日が来ないことを祈りたい。

子豚のスープ

https://ncode.syosetu.com/n0082fc/


スライムの質量保存と繁殖特性について

https://ncode.syosetu.com/n0739fc/

どちらも感想への返信を行っているときに思いついた設定を使って書きました。

よろしければこの二つもどうぞ。


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人が死んでばかりなので異世界で保険会社始めます
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