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普通の食事

前ページでは前世の倫理観を引きずった際の危険性について考えたが、今度は一部の知識を引きずった際の危険性になる。


あなたは日本人から犬人族に転生した。犬人族は鼻がよく、その鼻には目の前にある、故郷の香りを天高くまで放つ、この世で最も美味なる料理の匂いを捉えていた。そして匂いの元たる茶色くドロドロとしたスープを一口、スプーンですくって口へ運ぶと・・・。


一瞬美味なる料理の味が舌の上を転がったが、次の瞬間には舌は痺れ、自慢の鼻は全ての匂いを感じ取れなくなり、耳は内部のぐちゅぐちゅとした音のみをその貧弱な脳髄へと伝え、手足は動かなくなり息をするにも眩暈がして一苦労する有様となった。一週間後、腎臓病で元日本人の犬人族は冥府の女神の元へと旅立ったのだ。


転生者、もとい死者となったあなたは忘れていたのだ。


カレーは犬には毒であると。



この問題は、転生先が地球人類種「ヒト」の形質と全く同じ存在ではないというのが根幹にある。犬型の亜人を例にしたが、厳密にいえば異世界のヒト種は地球人類のヒト種とは別の存在であるのだ。なにせ別世界ゆえに遺伝的な繋がりがない。サメとイルカは海の中を泳ぐ生き物だがそのヒレは収斂進化で似通ったものになっているだけで、魚類と哺乳類という隔絶した種の違いがある。


ただし「お約束」というか、中世ヨーロッパ風異世界においての人体知識、医学知識は現実の中世ヨーロッパにおけるそれにある程度準拠している。異世界における人類はあくまで地球人類と同じものとして扱われる。


あまりにも異世界すぎると物語を作りづらく、下手をするとSFという啓蒙の光を照らされていない暗い穴に片足を突っ込む可能性すらあるのだ。中世ヨーロッパ風異世界というのは輪郭のおぼろげなシェアワールド、同じ形の人形であっても別の役割を持たせられる箱庭であって、SFの大作たる月と星を見て自分の作品の位置を知る夜空ではない。


転生先が人間であるなら人間である理由が、獣人であるなら獣人である理由が物語として必ずあるのである。この概念は「チェーホフの銃」という名前で知られている。物語に銃を登場させるならその銃は必ず使われなければいけないという概念である。力が強いから、かっこいいからという理由だけでその種族に転生させてしまうと物語自体に後々ボロが出てしまう。そして更新停止。


ともすればこれらの話はご都合主義と呼ばれる作品、伏線を回収しきれていない作品の批判と取られてしまうかもしれない。


物語の創造者・神たる我々は自由に世界を形作ることができる。作る世界は好きなものであっていいのだ。物語は自由であり、それを作る想像力は無限大である。一人ひとりの世界は別のものなのである。しかしせっかく世界を作るのであるから、よりよい形で生み出してやりたいというのもまた神たる我々の心に宿る親心だと思う。良かれと思って余計なお世話をしてしまうのもまた親心なのだが・・・。



書いているうちに筆が乗って余計なことを書くのは筆者の悪い癖だ。話を食べ物に戻そう。


人間から亜人に転生した場合、それまでの食生活が全くアテにならなくなる。亜人の体のつくりは人間と同じではないためだ。獣人、わかりやすくするために犬系の獣人に限っての話をしてみよう。


まず酒。動物の肝臓は基本的にアルコールを分解できるようにできておらず、少量で中毒してしまう。


ブドウ。犬や猫にブドウを与えてはいけないのは広まってきているが、その毒となる成分は解明されていない。


チョコレート。中世ヨーロッパ風異世界にはそぐわない食べ物かもしれないが、時代的にはギリギリだが中世ヨーロッパにも存在している。ホットチョコレートという形で教会でのミサ中にすら飲むご婦人が続出したせいもあり、ふしだらな感情を起こさせる媚薬だとか、依存性のある悪い飲み物であるとかいう理由でご禁制になったこともある。獣人には本当に媚薬になるかもしれない。


タマネギ、ニンニク。血液中の赤血球が壊れる溶血が起きる。貧血になって死ぬ場合もある。


塩分。人間がおいしいと感じる塩分量だと犬には多すぎる。


香辛料。刺激が強いというだけでなく肝臓・腎臓を壊す。


お茶。カフェインが含まれているものは犬には強い効果を引き起こす。ハーブティーなどは毒の塊と思った方がよく、香りですら毒になる。


ここに記載したのは一部である。小麦アレルギーや大豆アレルギーの人間以上ともいえる食事の制限っぷりである。あまりにも危険な食べ物が多すぎて、現実のドッグフードのように獣人用フードを作ればそれだけで富豪になれそうだ。


また必須栄養素が人間のものとは異なり、猫では人間の必須アミノ酸に加えてタウリンが必要だったりするように、人間では必要なかったものを摂取しなければならないなど、非常に食事に気を遣う必要がある。


人間の進化は脳を肥大させ二足歩行になり両手が余って道具を使えるようになったのが重要であると考えられているが、筆者はこれに加えて肝臓の肥大・高機能化が進化においての重要な要素であったと考える。人間は他の生物が食べられない食べ物を食べられるようになって他の生物に優先するようになったのだと。


人間の体では食べられたが亜人の体では食べられない食べ物だけではない。前世では食べられたが中世ヨーロッパ風異世界では毒となる食べ物もある。


日本食は生の食文化であると、ある本では説明されていた。


生卵に忌避感を示す外国人は多い。鳥の卵は総排泄口といって、糞尿が一緒に出てくる穴から出てくる。そして殻に付着した糞に含まれるサルモネラ菌によって食中毒を起こす。日本ではこれを特殊な技術で綺麗にしているため鶏卵を生で食べることができる。


刺身を含む生魚の文化も忌避される。今でこそ冷凍技術が向上して寄生虫の心配がなくなったが、それまでは刺身は寄生虫まみれで、もちろん刺身を食べる人間の腹の中には寄生虫がたくさんいた。寄生虫は内臓に穴を開け、重度になれば腹膜炎を起こす。これは非常に痛む。死ぬ病気でもある。そのため寄生虫を体外へ排出するための虫下しは生活になくてはならない薬であった。


「うわぁ!そんな生で卵や魚を食べるなんてゲテモノだ!」

「そうか?俺のいた国ではこんなもの当たり前でおいしく食べてたんだぜ?」


なんて文化レベルの差を無視したやり取りがあれば主人公はすぐ死んでしまうだろう。


意外だが生野菜もこうした危険を持つ。肥料に使った家畜の糞尿や人間の糞尿が寄生虫に汚染されているかもしれないからだ。そして寄生虫は口から入るだけなく、土作業で皮膚から侵入するものもある。今でこそしっかり肥料は加工され、農薬の登場によって寄生虫をはじめとする病原体の危険性は低くなった。そういう技術が発達するまで、日本では食器用洗剤を野菜を洗うために使っていたのだ。今でも使用用途に野菜の表記がある洗剤はそういった名残りがある。調べた限りは60年ほど前まではそういった危険性があったようだ。小学生の頃、お尻の穴にシールを張り付けて提出するという恥ずかしい思いをする検査があったが、これはそういう寄生虫の有無を調べるために行われていた。割と最近まで生野菜は危険な食べ物だったのである。


余談だが、中世ヨーロッパにおいて生で食べることができるのは果実か牡蠣くらいであった。他のものは生で食べることを野蛮・野趣であると見なしていた。それゆえか現在に続くまで生牡蠣は非常にこだわりを見せている。中世ヨーロッパにおいて生牡蠣を食べることに関しての言及を探すと、非常に面白いものを見ることができる。うろ覚えだが紹介しておこう。


「ビネガーをかけた生牡蠣を歯でこそぎとり、舌の上に滑り乗せる。すると得も言われぬ磯の香りが鼻腔を抜けていく。噛めば中に閉じ込められていたうま味が広がりつるりとしたのど越しを感じることができる」


・・・ノロウイルスとかどうだったんだろう。


カテゴリ1位だけじゃなく総合ランキング入りですって!すごい!


厚かましいお願いであるかもしれませんが、このエッセイを見てひらめいた物語を書いたのなら、こっそり感想欄で教えてもらえないでしょうか。見に行きます。そしてどうか、それを参考にすることをお許しください。

そして感想欄で情報や考えを書き込んでくださる方々、非常に面白く拝見しております。誤りでないかとの指摘も嬉しいです。読者の方々もこのエッセイに興味を持ってくださるなら感想欄を見ると面白いと思います。

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ここから着想を得て物語を書き始めました!

人が死んでばかりなので異世界で保険会社始めます
― 新着の感想 ―
[一言] 生牡蠣が食べたくなった。どうしてくれる(ふるさと納税ぽちる音)
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