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餓死

今回の話はあまり食事中に見るものではありません。

餓死とはなんと普通なんだと思っただろうか。通常餓死とは食べられるものがないときに起こるものだが、今回は食べるものがあるのにも関わらず起きる餓死である。


自分が今まで食べたことのない奇妙な食べ物のことを「ゲテモノ」と呼ぶ文化が我が国にはある。わかりやすいところでは虫食。イナゴの佃煮やハチノコを見せたとき、食べてと言われて忌避感を示さない日本人はどれくらいいるだろうか。


異世界転生したとき、こういった忌避感が命を落とす原因になるかもしれない。


もっと極端な話をすると、日本ではペットとして飼われている犬や猫を殺し、それを食べることができるかどうかという話にもなる。さらに極端なら、人食い族や人肉を食う亜人に転生したら人肉を食べられるか(人食いは人のみを食べるわけでないのだが)という話にもできる。


転生前の記憶や倫理観を引きずって種族としてあたりまえの食事を食べることを拒否してしまえば、残る道は他の食べ物を探すか餓死の他はない。残念ながら中世ヨーロッパ風異世界は飽食ではないというのが神の定めたルール。後者の可能性は非常に高い。それに異世界転生した人間は日本食を再現したがる傾向があるようにも思える。別世界、言い換えれば別の国の食事にはやはり受け入れがたいものがあるのかもしれない。


虫食の例の他にも、現実においてこの状況になり得る。


極寒の地で栄養補給として必須のキビヤック(海鳥を仕留めたアザラシの腹の中に詰め込み発酵させてから取り出し鳥の形が残ったまま尻からドロドロに溶けた内臓をすすり飲む。すごい臭いらしい)、生肉(イギリスの北極探検隊はこれが食べられずにビタミン不足で全滅した)、キャッサバ(毒を含み多くの国で主食であるが毒を抜いたと知っていても食べたくはないだろう)。どれも現地では必要な食べ物である。他にも検索サイトで調べれば世界中の奇妙な食べ物、ゲテモノの極みが次々と出てくる。


日本食もなかなかクレイジーなゲテモノが多い。生の魚、腐った大豆、食べるとまず死ぬ毒魚、国によっては悪魔と認定された触手生物、馬の生肉、毒イモを化学処理した味のないプルプル、豆のチーズ、生卵。どれもメジャーなものであるが、外国人は泣いて食べるのを嫌がることもある。


人間と交配可能な(一説には卵を産み付けているとも)亜人であるゴブリン、オーク、コボルドなどといったモンスターの肉を食べられるのかという問題も異世界ものでよく見る。ヒト種と交配可能ならそれは遺伝的に近縁または同種ということであり、地球でいう黄色・黒人・白人ほどの差異しかないということであり、つまりそれは共食いではないか・・・と考えれば沼にハマる。


またこれらは知恵を持ち、社会を形成する傾向が強い。現実では「クジラやイルカには知恵があるから食べてはいけない」などとやっているわけだから、こちらの問題も出てくる。ヒト種を食べたモンスターの肉は食べてもいいのか、ヒト種から産まれたモンスターは食べてもいいのか・・・などなどモンスター肉を食べることは倫理的、心理的な問題が多い。


オークの肉は食べられる、おいしい。そうして家畜化でもすれば、オーク側からは「知恵があり寿命も長い種族に庇護を与えられる代わりに食べられてしまう」というディストピア設定の出来上がりである。吸血鬼が貴種としてヒト種の守護者として戦うという一種、お耽美な設定もやっていることは同じなのである。


ヒト種は食べる側になるだけでなく、家畜化され食べられる側になることもあるのを許容できるのか。吸血鬼にはトマトジュース、食人族には野菜や魚肉ソーセージというのは完全にギャグである。



話が大きく脱線した挙げ句変な着地をしてしまった。話を餓死に近いところにもっていこう。


食事をしているのにも関わらず栄養失調に陥るというのは、現実でも過去に数えきれないほどの例がある。


トウモロコシを主食としている地域ではペラグラという病気が起きる。皮膚が黒く爛れ、嘔吐や下痢で何も食べることができなくなり、正常な脳のはたらきを失い死ぬこともある病気である。これはトウモロコシに含まれるアミノ酸にナイアシンが少ないために起きるナイアシン欠乏症である。アルカリ水によって一度煮ることによって発病は抑制されるのだが、小麦でも同じようにペラグラを引き起こす可能性がある。白米では神経の異常や心不全を起こすビタミンB1欠乏症の脚気を引き起こす可能性がある。


これらの欠乏症は主食のみを食べることで栄養が偏り起きる。異世界転移直後、周囲には森がなく麦畑が広がっている村にたどり着いた主人公は肌が黒くなる奇病が頻発していることを気がかりにしつつも住むことにした・・・という導入はちょっとホラーチックかも。感染症ではなく欠乏症なので、感染症を疑っていくら消毒・隔離したとしても病気になってしまう。


こうした病気はマメ類を一緒に食べたり、魚を焼いて食べたりすることで改善する。恐ろしい病気ではあるのだが、つまるところ原因は偏食である。狩りや野菜を育てて食べるような貧しい場所ではかえって発生せず、トウモロコシや小麦、白米といったものを主食にできるような比較的豊かな場所で発生するため解決自体はそんなに難しくはない。


異世界で生きていくには現代人としての知識を持ちつつ、常識や倫理にとらわれないことが必要なのかもしれない。異世界で生き残り、活躍する人間というのはどこか逸脱している。


見てくださる方々、ポイント評価してくれる方々のおかげでランキングに載りました。とてもうれしいです。励みになります。


今回の話は執筆中、参考に検索した虫食画像と吐き気との戦いでした。虫食は絶対に無理なタイプです。世界的な食糧危機に対して虫を食べれば解決するという声があるそうですが、そんな未来が来ないよう全力で嫌がります。


オークさんゴブリンさんよく竿役やらされてるけど同種の美的感覚から逸脱してません?人間が犬や羊に欲情するようなものだと思うんです。

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ここから着想を得て物語を書き始めました!

人が死んでばかりなので異世界で保険会社始めます
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