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現代日本だと生活習慣病の原因だからと嫌われものな塩分。多く摂取すれば害になるが、全く摂取しないのもまた害になる。


異世界転生モノにおいて塩というのは貨幣に並ぶ価値のあるものとして扱われ、領地経営やオリジナル戦記モノにおいては戦略物資とも見なされる。


塩がどうして重要かといえば、人体には必須の栄養だからである。


すこし話が変わるが、人間は神頼みをよくする。御百度参りといって一晩に百回鳥居と神社の間を往復して祈れば本願成就するという。他にも塩絶ちといい、一定期間、一切の塩気を摂取しないと神に宣言して祈る方法がある。この方法は祈る形としてはかなり苛烈なものに分類される。一番苛烈な塩断ちは、祈りが聞き届けられるまで続けられる。つまり願いが叶うまで(もしくは死ぬまで)ずっと塩を摂取しない。


神に訴えるには「自分はここまでしたのだから願いを聞け」という、神にさえも届くような強制・脅迫という行為を必要とする。ならばその「ここまでしたのだから」といえるほどの塩絶ちとはなんなのか。


筆者は1週間の塩断ちをしたことがある。当時は日が進むごとに集中力をなくして頭がボーっとし、頭の中で細かな震えが起きて、常に一定の重低音の幻聴が聞こえるようになった。最終日には痙攣とはいかないまでも、少し手足の震えがあったように思う。結構きついものがある。現代人の塩分まみれの生活の直後であってもこれである。


動物の細胞はナトリウムイオンとカリウムイオンのバランスによって機能を維持している。刺激や運動の神経伝達はこのバランスを変化させることで行われている。体温調節にもナトリウムイオンとカリウムイオンが必要であるし、腸ではナトリウムと共に細胞が生きるのに必要なグルコースが吸収される。


よく分からないときはナトリウム・カリウムを全て塩分と置き換えると、塩を断つことの意味が分かると思う。塩断ちによってこれらが一つでも機能しなくなると致命的なのだ。ミネラルと置き換えてもいいかもしれない。


いつか見た料理についての本に以下のような説明があったことを覚えている。


「料理とは火を使い塩により味をつけることで料理となる。乳味鈔には『塩は諸食の味を生ぜしむる』とあり、塩気があって味であり、それから初めて料理は料理になれると説明される」


塩は生存に必要なものというだけでなく、食事に彩りを与える嗜好品としての側面もあったようで、今でこそ日本では嫌われものではあるが、塩が貴重品の時代には「塩見せ」といい、死んだ人間の枕元に塩の山を置くという風習が生まれた。これは元は死にかけた人間に文字通り貴重品であった塩の山を見せ、生きる気力をもたらそうとしたものである。今でいえばケーキやウナギの蒲焼きで死にそうな人間が生き返るようなものか。


異世界転生モノで塩が重要な扱いをされるのは、こういった背景があるため。


そして塩を必要とするのは人間だけではない。動物も塩を必要とする。


牛や馬、羊やヤギといった家畜の餌には少し塩を混ぜるか、大きなブロック状の塩を置いて自由に舐めさせるというのが必要である。そうしなければ乳を出さなくなり、体は痩せ細っていき死ぬ。


馬を強靭に育てたければ定期的に海に連れていき海水を自由に飲ませるべきである、という古い指南書が現代に残っていたりもする。


ヤギは特に塩分不足に弱く、不足した際には発狂したように暴れまわり、当たり構わず噛んで塩分を摂取しようとする。


家畜に塩分が必要というだけならマメ知識の域を出ない。しかし、異世界に牛や馬、羊やヤギをベースとした亜人がいるならどうだろうか?塩分不足は一気に暴動や集団発狂のトリガーとなる。そして主人公がこういった亜人に転生しないとは限らない。


「例のやつくれよ!もう頭がおかしくなりそうだ!」と暴れる寸前の状態で白い粉を買い求め、それを口に入れた瞬間恍惚の表情を浮かべて冷静さを取り戻す。文字通り塩で。ギャグ調だが、そういう異世界があるかもしれない。


塩の奪い合いというなら家畜動物ベースの亜人の存在は非常に説得力が増す。というのも、現代では人間にさほど塩は重要ではないと見られているため、貴重品としての意味が薄い。


本来、辛い状況の相手を助けるという意味なのだが「敵に塩を送る」といえば弱り目の人間に酷い仕打ちをすることだと考える現代人は多い。亜人は塩が必要になるとイメージ付けられれば「そういうものか」と納得しやすいかもしれない。



塩不足についてばかり書いたが、塩の過剰によって害を受ける種族もいる。ドライアドを初めとした植物系のモンスターや亜人である。


異世界転生モノといえば乾燥地の開拓・灌漑を描写することがあるかもしれない。砂漠に緑を増やすためにはどうしたらいいのか?現代地球における難題でもある。


なぜ難題となるかといえば、乾燥地の土壌は雨が少ないため、通常雨によって溶け出し流れていく塩類が土の中に留まっている。ここに川を引くなどして水を与えるだけでは土の表面に塩が浮いてくるし、川から供給されたミネラルによってそれが加速される。水を与えるだけでなく、塩類が溶け出し流れていく先を作らなければならない。乾燥地ではそれが難しい。


なので開拓によって乾燥地に住むところが増えたとしても、数年後に塩害で植物系の亜人は全滅するか、生きていられなくなり撤退することになる。植物系の亜人や、それに関連するエルフという種族が引きこもり体質であると描写されやすいのは、こうした移住の失敗が過去に起きていたからかもしれないのだ。


現代人的な価値観は、塩といえばタダ同然で手に入る厄介者。しかし塩の扱いは重要で、目に見えていないだけで我々の生活に重大な影響を与えている物質なのである。


キーワードを設定しているわけでもないのに沢山の人が見てくださっているようです。ありがとうございます。


植物には塩が少しあることで成長が促進されるものがあったりします。甘草という植物で実に9割以上の漢方薬の処方に含まれるものです。今まで中国にある砂漠からの自然採集物に頼って輸入していましたが、世界中での需要増・絶滅危機により輸出制限、高騰しています。塩水を被った土地での栽培に適しているということで東日本大震災の津波被災地域での栽培が計画されているそうです。もしかしたら塩水を好む植物系亜人がいるかも・・・。

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人が死んでばかりなので異世界で保険会社始めます
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