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水(溺死ではない)

現代日本において当たり前な清潔な水。蛇口をひねれば出てくる、湯水のごとくと例えられるほど沢山あるものの代名詞。


異世界ではそうではないかもしれない水。


異世界でなくとも、清潔な水を得ることができない地域はこの現代地球には存在している。


泥や砂が混じるだけならいい方で、重金属やヒ素が混ざっていたり、死体の浮かぶ水が飲用水として用いられているのが今日の地球。


海外旅行でよく下痢をしてしまうのは知られているが、病原体が混ざっていたり十分に処理されていない水を飲んでしまったのが原因の一つ。現代日本の水道技術は高く、日本人は病原体の混じる水への耐性を持っていない。


清潔な水が当たり前であると考えているため、不用意に湧き水や川の水を飲んでしまう・・・というのは考えられる。北海道では湧き水や川の水は絶対に飲んではならないと教えられる。エキノコックスに感染しているキツネが水源を汚染している可能性がとても高いためだ。


こうした清潔でない、よくない水を飲むことによって、乳児の死亡率を別としても重金属とヒ素の混入で平均寿命は30代前半となり、死体の浮かぶ水でも飲めば間違いなく感染症を起こす。一度下痢になれば治療法は清潔な水での水分補給しかなく、栄養状態が悪ければ回復するまでに脱水症状で死ぬことになる。


だが異世界転生であることを考えるのなら、ある程度リスクは抑えられる。仕組みは分かっていなくとも経験的に一度沸かした水を飲めば安全であるということを現地住民が知っている場合である。


育つ過程で現地の知識を吸収していくならば、生活の知恵としてよくない水を避けることができるようになるだろう。


これが大人のまま転移や憑依だったり、転生前の記憶を思い出すような異世界であると主人公の死亡率はぐっと高くなる。


異世界の水事情として、ビールやワインといったアルコール類が清潔なため水代わりに飲む、という習慣をよく見かける。他にも安全でない水に度数の高い蒸留酒を混ぜてから飲むなど、衛生意識のある習慣は見られる。道端に糞尿が撒かれ、飲み水は汲み置きで埃が浮くという、衛生環境が悪くなりがちな都市部での涙ぐましい努力である。


実は水分補給の手段として酒の摂取はあまり推奨されない。酒、つまりエタノールの分解には水分子を消費する必要があり、さらに利尿効果で水分が外へと出ていきやすい。脱水症状に陥る危険性がある。


酒は発酵によってアルコールが生成し、それにより殺菌される。蒸留酒は殺菌剤。これらは間違った知識である。たかだか発酵で得られる度数で殺菌作用など期待できるものではなく、水に蒸留酒を混ぜたところで薄められ数%程度になったエタノールではやはり殺菌作用は期待できない。消毒用エタノールの濃度は70%なのである。


酒の発酵を止めるための火入れという工程があり、これによって殺菌が可能なのだが、この技術は「目に見えないほど小さな生き物」という概念が作られた近代のものであるため異世界では期待しにくい。


酒が清潔か否かという問題は、醸造場所では比較的清潔な水が得られるためではないかと考えられる。酒の名産地というのは同時に名水の産地であることが多い。都市部でも作られるワインが清潔であると考えられるのは、ブドウの中にある水分が無菌の状態で存在しているためではないか。


清潔な水が酒へと形を変え、都市部へ輸送され飲まれる。おそらくこれが、水の代わりに酒が飲まれるという話の仕組みである。



中世ヨーロッパの水事情とは少し違うが、砂漠の水事情も異世界要素である。


昼間は灼熱の太陽が照りつけ水分を奪い、夜は逆に極寒の世界へと変わる。主人公が近くに川のない砂漠に転移・憑依などしてしまえば、まず間違いなく物語が始まった直後に死んでしまうだろう。


サバイバル知識を持った主人公なら湿った地面からカエルを見つけてその尿を飲むかもしれない。とても運が良ければオアシスを見つけられるが基本的に泥水である。


砂漠に生えるサボテンが水を溜め込む性質を利用して、そこから水分を得ようと考えるのは待って欲しい。そこには落とし穴がある。


一般的に砂漠には砂だらけの中にサボテンのイメージではあるが、現実のサボテンは基本的に砂だらけの砂漠には生息しておらず、ごつごつとした石だらけの砂漠に生息している。砂だらけの砂漠に生えているサボテンのような植物はトウダイグサ科の植物であり、傷をつけると有毒な乳液を出す危険な植物である。


またサボテンを見つけられたとしてもそのままでは利用しにくい。トゲがあるというのもそうなのだが、サボテンは実は微量の毒を持つ。そのため食用のサボテン以外は多量に摂取できない。


砂の砂漠は己の身一つで生き残るには非常に難易度が高い異世界ではあるが、工夫して生き残る主人公を描いた物語なら確実に一見の価値があるだろう。



これら面倒な水事情を避けることができる便利な設定がある。遊牧民や牧場のある場所に転生することができたのなら、住民は牛乳やヤギ乳といった畜乳を飲むため水からの感染症にかかりにくい。中世ヨーロッパ風とは違った世界観をイメージさせる乳酒(馬乳酒が有名だろうか)を登場ことができる下地にもなるので、マンネリ化した、テンプレート化したともいえる中世ヨーロッパ風異世界という設定を変えられる。


現代日本においても水事情というのは切実なものである。大きな災害が起きて水道や流通というインフラが止まったとき、都市部の水事情は砂漠のど真ん中とほとんど変わらない状況になる。


一般的な日本人は清潔な水を得るための知識を持っていない。


水がただ飲むことができるという先進国の水道技術は非常に素晴らしいものです。



異世界モノにおいてビールやワインが水代わりである、という話がピンと来なかったので調べてはみたのですが

「キリスト教の聖人が樽に十字架を沈めて祈ったら感染症にかからなかった伝説がある」とか

怪しげな健康ブログに

「ワインに大腸菌を入れるとすぐに大腸菌が死ぬからワインは健康的」だとかばっかりで根拠を見つけることができませんでした。

根拠を見つけられたらぜひご連絡ください。

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ここから着想を得て物語を書き始めました!

人が死んでばかりなので異世界で保険会社始めます
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