魔法
この項目は素晴らしいアイデアだと思う。
魔法という言葉は「解明できない不可思議な現象」というニュアンスを含んでいる。解明されていないその現象の正体によっては、存在そのものが主人公を害する現象になる。
魔法と一口にいっても、作者、読者によって無数の解釈がある。核力、磁力、大きな力、小さな力に続く第五の力であるとか、第六感に続く第七感による発露だとか、集合無意識から力を引き出して行使する現実改変の力だとか、考えるのならば考え付くだけのものが魔法の存在理由になる。
その中でも特に危険なものを紹介しよう。
ある国、ある村に虐待されて育った子供がいました。その子は体を強くし魔法の力を持たせるために必要な普通の食べ物を食べることなく育ち、この世界で唯一といっていいほど魔法が使えなかったのです。
怪我をしたとき長老のおばばが回復魔法をかけてくれましたが、それも全く効かず、傷は血を流し痛いまま。
役立たずのその子は家族に売られ、奴隷となり、戦争で使いつぶされることになりました。
敵味方将同士の激しい魔法の応酬が始まりましたが、その子には恥ずかしい呪文を叫び手をかざす変人たちしか見えません。その手がかざされた兵たちは次々と、わざとらしく倒れ、泡を吹き、ジャンプして吹き飛ばされたフリすらしているように見えます。
もちろん、呪文が唱えられ、かざされた手の向こうに自分がいたとしても、自分は痛くもかゆくもありませんでした。
やがて戦争は終わり、魔法が全く効かなかったその子は対魔法の最終兵器として見いだされ、出世します。
出世したことを故郷の父母に報告しようと家に帰ってみると、父が車椅子に乗った母を押してにこやかに言葉をかけてきました。
しかし、車椅子に乗せられた母は明らかに死んでいる様子であり、腐敗してウジがたかっています。父から見て、そんな様子の母は当たり前のように生きており、会話をしているように見えているようなのです。
「ああ、母さんはな、この前階段から落ちて一度死んでしまったんだ。長老に蘇生魔法をかけてもらったんだよ。それ以来足の調子が悪くなったようだけど、元気にしているよ」
と、魔法の正体がこんな感じだった場合はかなり危険。つまり、魔法は幻覚であったというパターン。普通の食事やMP回復の薬草の正体が集団的な幻覚を見せる幻覚剤だったとかになると、ギャグとシリアスが同居する世界観になるものの、蘇生魔法があるから大丈夫だとタカをくくって死に、そのまま帰らぬ人となる可能性が出てくる。
他にも紹介しよう。
魔法が精神や魂といった見えないものに依存して行使されるものだった場合、異世界転生によって肉体を得た主人公は魔法の存在によってどういう影響を受けるのか、全くの不明になる。
良くて現地人と全く変わらない影響だが、悪くて異邦人たる主人公の魂は魔力に適応できず、魔法を使おうとした瞬間に体内から爆発四散というのがあるだろう。この場合も現象としての魔法による影響を受けられず、回復魔法や蘇生魔法が効かない不遇な体質になる可能性はある。
さらに現実にもオカルト分野ではあるものの「人を呪わば穴二つ」「相手を害する呪術はその反動を受ける」という通説がある。魔法は確かに魔法であるが、もし代償を必要としたり、悪しき魔法を使おうと思った場合その後の反動を気にしなければならない。人を殺めるほどの殺傷力を持った魔法を使いでもすれば、それ相応に自分にもダメージが来るという。
魔法の力というのは「いつか失われるもの」というニュアンスもある。雪の女王、白雪姫の眠り、シンデレラ、魔法が出てくる創作において、魔法は解けるものであるとするものは枚挙にいとまがない。
つまり、魔法はあくまで「魔法」なのである。実際に行うことができない魔法の手段によって物事を解決しようとすると、いつか失われる魔法では続かない。魔法を過信し、頼り切ってしまっては魔法が破られたときに対応できなくなってしまうのだ。これはチートで異世界無双をするものにもいえる。自らの行い
によってか、神の気まぐれか、手にしたチートを過信し、まるで自分自身の力であると驕ってしまえば、その様子は傍から見れば目隠しをして両脇が断崖絶壁の道を歩いているかのようになる。道を踏み外すことなかれ。ぽっと出で魔法を手に入れたのなら、唐突に魔法を失うこともある。
魔法はあくまで大悪人か聖人が使うからこそ映えるのであり、なんの変哲もない一般人や小悪党が魔法を使っていても、物語を引き立てる道具としての魔法は活かされづらい。なんの努力もせず主人公が魔法を使うのなら、それは読者にも受けが悪かろうし、主人公が生きる世界でも妬みの種となる。そうして悪感情を集めて事件でも起これば、例え主人公が生き残ったとしても主人公の資格は失う。最初から悪人として描かれた主人公ならまだしも、善人として描かれた主人公がそのようなことを起こすのは思慮不足、設定の破綻、偽善者の烙印を押される。そうすると物語が死ぬ。かといって無思慮に魔法を使い続けてもなお周囲からの目が変わらないとするのは異世界住民は白痴にすぎる。
魔法の存在はまさしく存在が魔法であるがゆえに、主人公も作者も使い方に気を使わなければならない。
4月1日に唐突にアクセス数が跳ね上がりました。どこかで紹介されたのか、また前のようにランキングに載るようなことになっています。どこで紹介されたのかご存知の方はお知らせ願えないでしょうか。