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医療

この項目を書くにあたって非常に苦悩いたしました。筆者のもがきようを楽しんでください。

医療と人類史は切っても切れない関係にある。そして医療と人類史が非常に緊密な関係であるのと同じように、医療と呪術も切っても切れない関係なのである。


この項目に出てくる魔術や呪術といった言葉はファンタジーやオカルト小説における「自ら手を下さず相手に危害を加える方法」だとか「杖を振れば先端から光が出てカエルとかぼちゃを四頭立ての馬車に変える」といったようなものではないことを断っておく。現実的に見ればなんら関係のない儀式や行動のことを魔法や呪術と称している。


どこから言及したらいいのか、医療の始まりとはなんなのか、医療とはなんなのかという話をしようとするとそれだけで分厚い本が何年もかけて一冊できてしまう。そうだ、得意な異世界転生の話をしよう。


異世界転生における世界観の条件として、中世ヨーロッパ風というものがある。では、中世ヨーロッパにおける医療とはどういうものだったかに視点を当てれば、そんなに苦労はしないかもしれない。


中世ヨーロッパにおいて、医療とは別世界の出来事であった。こう書くと語弊があるのでもう少し詳しく説明すると、医療は一般に流布されるものではなく、こんにち行われている「医療」とはかけ離れた魔術や信仰の類いであったものが非常に多い。


よくいわれるものとしては、床屋が医者と同じギルドであったこと。これは床屋がカミソリやハサミを使う職業であり、医者もカミソリやハサミを使うから・・・という説明があるが、ちょっと違う。現代における床屋も医者も、果ては歯医者もすべて同じ「医者」と呼ばれている存在だったのだ。中世ヨーロッパにおいて、医者は広い意味を包括する存在だった。


例えばサーカスには医者が一緒にいることがあった。なぜかというと、その医者は歯を抜く医者なのである。さぁさ自分は痛みを与えないまま素早く歯を抜くことができますと喧伝し、集まった人間から歯を抜いていたのである。中世という言葉は広い年代を指すが、この話は中世末期ごろ、16世紀ごろの話であると思われる。なお麻酔はないうえに止血もされなかったため、観客はその後敗血症などの感染症で死んでいたと思われる。


歯医者が必要になったのは砂糖が流通を始め、虫歯によって貴族が歯痛を訴えはじめたころである。庶民が歯医者になったのはさらにそれより後、それなりに砂糖が安価になり、庶民も砂糖を食べられるようになってからである。貴族社会では虫歯で黒々とした歯を裕福さの証として自慢した。


当然、歯の痛みやそれに伴って死に至る合併症を引き起こすことは知られていたようだが、どうしようもなくなったときに、ただ抜くという行為だけが結果として残った。


当時麻酔がないのは述べたが、現代的な医療知識はこのころまだ存在していなかったのである。感染症はなぜ起きるのかわかっていなかったし、不潔な環境でつたない外科手術をした結果、感染症で死ぬ者は後を絶たなかった。医療の現場を清潔にしようという動きがあったのは中世が終わりおよそ200年後、白衣の天使、小陸軍省とも呼ばれるフローレンス・ナイチンゲールが看護学を確立してからである。


以上の医療は中世ヨーロッパにおいて「まし」な部類である。こんにち「医療」と呼ばれるものとそう変わりはないからだ。悪い例を出していこう。


痔の治療に焼けた鉄の棒を肛門に突っ込み、聖人が祈った岩に座り同じように祈る。白内障のために目に針を入れてあれこれをする。経験則で薬草といわれる幻覚剤となんの効果もない動物の干物を砕いて薬として飲む。悪い血を出すのが健康的であると考え定期的に人工的に出血させる。


これら医療は当たり前のように、それが当然であるかのように行われていた。中世ヨーロッパにおいて支配的だったガレノス医学は現在から見れば占いの本や宗教書や哲学書であるし、古代の産物であった。このようなことから、現代から見て、中世ヨーロッパにおいて医療は停滞の時代であったといわれる。のちに行われるキリスト教の迫害により医療はさらに後退の様子を見せる。「虫歯は贅沢品を食べてはいけないという神からの戒めの祝福であるから、治療をしてはならない」と大真面目に教会が布告を行ってもいる。12世紀ごろには女子修道院長のビンゲンのヒルデガルトが薬草学を著していたが、これが「発見」されるのは20世紀の話である。時代が異なれば魔女として処刑されていたかもしれない本であった。


その後の流れを見ても、梅毒の感染治療のために水銀を体内に注入したり、黒死病の治療のためにマスクにハーブを入れて悪い空気を防ごうとしたり、呪術的な行動がとにかく目立つ。


中世ヨーロッパにおいて医者と呼ばれるのは医療を行うものだけではない。素人の医者、もぐりの医者、魔術を行う医者、そもそも医者ではない呪術師とすべてが医者と呼ばれた。この時代で魔女と呼ばれる存在も医者に含まれる。なお現代で魔女を自称する人々もいるが、この暗黒時代の魔女については意図的にか触れているのを見たことがない。言及するのは魔女狩りのときだけだというのは余談。


錬金術というファンタジー御用達の要素がある。中世という年代は錬金術思想の真っただ中である。


錬金術は化学とオカルトが混じったなかから上澄みの化学を製錬していったものだとされているが、上澄みを除去したよどみはひどい内容である。例えば賢者の石やエリクサーによって人は不老不死になれるし、よくある金属を金や銀に変えることができるというものである。神秘思想とも結びつき、魂や心理学、哲学へと舵を切る流れもできる。現在でもパワーストーンを水に入れて水だけを飲むとそのエネルギーが転写されて運気が上がるだとか、オルゴナイトと称して金属部品をレジン樹脂に固め、これが電磁波を防いでくれるとか空気を浄化してくれるだとか、錬金術のよどみの系譜は今もなお受け継がれている。そういうものもまとめて医者だったのである。


中世ヨーロッパ風ファンタジーでは錬金術は化学と似て非なる、かつ魔法とも異なる魔法であるように描写される。現実の錬金術と異なりホムンクルスを作れるし、土をはじめとする物質を操作する魔法という面もあったりする。ホムンクルスという人体を作っているのにも関わらず、人体をいじくる医療は描写されないというよくわからないことも起きる。


ここまでが前座である。さて、こんな環境に転生してしまった主人公は生き残れるのだろうか。


現代人の医療知識というのは実はそんなに当てにはならない。怪我をしたらお札か何かのように恭しく絆創膏を張る、熱が出たら万能薬かのように風邪薬を飲んで寝るくらいしかないのだ。


今時テレビを見ている人間ならば医療番組を見ることもあるだろう。その医療番組でも似非医療を垂れ流すこともあるが、医療番組によって我々の医療知識というのは大幅に引き上げられている。義務教育で教えられる医療はどんなものだったか考えてみてほしい。感染症がどこから起きるのか教えられただろうか?大量出血時に止血する方法を教えられただろうか?やけどしたときにラップを巻くと治りが早いと教えられただろうか?


ネットを見れば間違った医療知識を披露し炎上する人々が後を絶たない。自然派ママといって感染症に対してワクチンを嫌い呪術的なものに頼る。瞑想ですい臓がんは殺せるらしいし、水素の音?日本国内で結構売れましたよ?


こうした間違った医療知識は「自分は賢いから大丈夫」という意識によっても作り上げられる。さて、「自分は賢いから大丈夫」と思っている生き物は他にもいる。異世界転生の主人公たる高校生世代や盛りを過ぎたおじさん世代である。


これはエリクサーだ、薬草だと言われれば飲むでしょう?

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ここから着想を得て物語を書き始めました!

人が死んでばかりなので異世界で保険会社始めます
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