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5.楽しげな日々と、異変







「おはよう、二人とも」

「おはようございます、師匠!」

「ゲイナーさん。おはようございます」


 翌朝、目が覚めると二人は先に起きて朝食の準備をしていた。

 仲良くエプロンを身にまとったミナとレレイ。まるで、少し歳の離れた姉妹のような微笑ましい光景に、俺は思わず頬を緩めてしまった。

 さてさて。そんな風に笑っていると、茶化してくる人が一人。


「はっはっは。ゲイナーさん、まるで二人の兄のような感じですね!」

「兄って、やめてくださいよ。カールさん」


 それはここの家主、カール・ブラウン。

 彼は先に食卓に座り、コーヒーを啜っていた。


「……いや。もしかしたら、レレイにとってそれは嬉しくないのかな?」


 そして、そんなわけのわからないことを言ってくる。

 だがしかし、レレイとミナにはその意味が分かったらしい。金髪の少女はニヤリと笑い、対して赤髪の女性は顔まで同じ色に染めるのであった。

 その様子を見て、大声で笑うカール。しかし、そのちょうど中心で俺だけは首を傾げるのであった。――いったい、何がどうなっているんだ、と。


「まぁ、とにもかくにも。朝から元気で何より、だな……」


 でも俺はそこで、考えることをやめる。

 楽しければそれで良いのではないか、と。そう思った。

 アレド村での二日目は、こうやって幕を開けたのである……。



◆◇◆



「ん、祭りだって?」

「お祭り! それは、本当ですかレレイさん!!」

「はい、そうなんです。ちょうど明日の夜に、年に一度の祭りが開催されるんです。もしよろしければ、お二人にも参加してもらいたいな、と思いまして……」


 さて、そんな朝を終えて昼頃。

 剣術の稽古をしている俺とミナのもとをレレイが訪れた。

 そして、唐突ながらそんな話を振ってきたのである。するとミナは俺お手製の聖剣を放り投げ、レレイに抱きつくのであった。――え、ちょ。そんな雑に……。


「どんなっ! どんなお祭りなんですか、レレイさん!」


 しかし、俺のそんな小さな悲しみなど余所に、ミナは尻尾を振っている。

 レレイはそんな少女の姿に苦笑いしつつ、こう答えた。


「東方の国からの文化が入ってきてるお祭りでして、ユカタやワダイコ、さらにはロテンなどが見られますね。とても賑やかなモノなのですよ?」

「東方の、ですか! それは楽しみですね、師匠!!」

「ん、あぁ。そうだな……」


 もうすでに楽しむ気満々なのだろう。

 ミナは天真爛漫な笑みを浮かべて、こちらを見た。

 その無邪気な姿に、どこか心が安らぐのを感じる。すまんな、聖剣よ――後でちゃんと、手入れはしてやるからな……!


「しかし、それにしても東方の文化、か……」


 俺はレレイの言葉を思い出して、顎に手を当てた。

 懐かしいと、そう思ったのである。


「まだ、あの地方は残っていたんだな」――と。


 それは俺がまだ、外の世界で活動していた数千年前の話である。

 諸国漫遊の旅をしていた俺は、それなりに長い時間を東方の国々で過ごした。そこでユカタやワダイコなどは見たことがある。しかし祭、というモノは運悪く体感したことがなかったのであった。

 それを、永きに渡る時を超えて体験できるとは……。


「ふっ、たまには外に出ても良かったのかもしれないな……」


 そう思うのであった。

 俺は自身の力が世界に与える影響を考慮し、自ら作りだした亜空間に閉じこもったのである。そのまま気付けば数千年の時が経ち、外の情報も配下のペレスなどからのモノだけになっていしまっていた。

 それは、今思えば間違いだったのかもしれない。


「どうしたのですか? 師匠」

「ん、いや。なんでもないさ――明日は楽しもうな、ミナ」


 さて、感傷に浸っていると、だ。

 どこか心配そうにミナが、こちらを上目遣いに見上げてきた。

 そんな彼女の頭をそっと撫でる。心配させたかったわけではない。だから、そう伝えるように、優しく愛弟子と触れ合うのであった。


「……はいっ!」


 元気いっぱいに応えるミナ。

 それを見て、自然と微笑む俺。そして――。


「……………………」


 ――俺は気付かなかった。

 この時のレレイが、どこか寂しそうな顔をしていたことに……。



◆◇◆



「……ん? ペレスからの通信か」


 その夜のことである。

 夕食を摂り終え、風呂を浴びて着替えた俺は、部屋で水晶が震えていることに気付いた。どうやら、調査を頼んでいるペレスからの着信らしい。

 ということは、この村について何かしらのことが分かった、ということか……。


「どうした、ペレス? なにか分かった――」

『――ロードメルド様! すぐに、すぐにその村から離れて下さい!!』


 そう思い、水晶を起動した瞬間だった。

 あまりに緊迫した配下の声が、聞こえてきたのは。


「なに……?」


 ――どうしたのか、と。

 俺は訝しんで相手の言葉を待った。

 すると、届いたのはこんなモノであった。





『アレド村は、千年前にすでに滅んでいます! アナスティア様の手で!!』






「な、に……?」


 俺は瞬間の唖然と、衝撃によって声を失う。

 全身から熱が去って行くような、そんな感覚に見舞われた。





 


 これが俺とミナの最初に訪れた村での出来事。

 そして、あまりにも悲しい別れの始まりでもあった――。


 


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