2.ミナの初戦闘
――俺たちは、森を抜けて平原へと飛び出す。
声の主は一人の女性だった。
赤色の長い髪。ロングスカートを身に着け、足をもつれさせながら下級魔族のゴブリンから逃げていた。ゴブリンの数は二体。うち一体は彼女の父親と思しき男性と交戦していた。しかし、押し切られるのも時間の問題である。そのように思われた。
「――ミナ! 男性に加勢するんだ!」
「はい、分かりました。師匠!!」
素早くそう判断し、弟子にそう指示を出す。
数的有利を取れれば、あちらはどうにかなりそうだと思ったからだ。
だからこちらは、単騎突撃して女性を救出する。なに【分身】だとはいっても、そこらの魔族や魔物に遅れを取るような俺ではない。
「ほら、こっちだ!」
女性を襲っているゴブリンに、その場に転がっていた小石を投げた。
それは見事にそいつの後頭部を捉えて――コツンっ。
――ギィィィィィィィィィィィィィィィッ!?
「あ、あれ……?」
断末魔を上げ、霧となって消えた。
陽動のためと思った一撃が、そのままトドメとなってしまったらしい。
いやいやいやいや、数千年の間に弱くなり過ぎでしょ? 最下級魔族のゴブリンといえど……。
「ま、まぁ……いっか」
俺はゴブリンのいた場所に落ちた魔素の欠片を拾い上げ、思わず苦笑した。
ちなみにこの魔素の欠片というのは、端的に言えばエネルギーの塊。人間はこれを利用して様々な道具を作り上げているらしい。日用品や、武器などだ。
だけど、今はそんなことよりも重要なことがあった。
「大丈夫か?」
「え、えぇ。ありがとうございます……」
尻餅をついている女性に手を伸ばす。
すると、彼女は少しだけ目を丸くしたがそれを取ってくれた。
引っ張り起こして、怪我がないかを確認する。どうやら少し服が汚れただけで、これといった負傷はない様子だった。それなら良かったと、胸を撫で下ろす。
「あ、あの。父は……」
「あぁ、そういえば。ミナは大丈夫なのか?」
さて。そうしていると、女性がそう言った。
俺もそれを聞いてようやく思い出し、ミナの走った方向へと視線をやる。すると、そこにあった光景は――。
「………………」
――思わず言葉を失った。
何故なら、そこにあったのはあまりにシュールなモノであったから。
「……なに、やってんだ。あの二人は」
俺は思わず、そう漏らした。
だって――。
「えーんや!」
「こーらっ!」
――ギィィィィィィィィィ…………。
男性はゴブリンの棍棒を奪って。
そして、ミナは剣の面の部分を使って、ゴブリンの頭を順番に叩いていた。
そんでもって対するゴブリンは、というと。なすすべなく頭を抱えてうずくまっていた。――あのー、なんていうか。一思いに倒してやってくれませんか?
それ、何となくイジメっぽく見えるので……。
だがしかし、俺の思いも空しく。
そのぺちぺち攻撃は、小一時間続くのであった……。
◆◇◆
……そして無事、ゴブリンを討伐して。
俺とミナは、助けた二人と会話を交わしていた。
「なるほど。二人は商人なのか」
「はい、そうです。オレの名前はカール・ブラウン。それで、こっちが――」
「――娘のレレイ・ブラウンです。よろしくです」
カールとレレイは、ぺこりと頭を下げる。
父親――すなわちカール・ブラウンは、身の丈二メイルを超えようかという大男であった。しかし筋骨隆々かと問われればそうではなく、ほっそりとしている。
その娘レレイは、先ほど述べたような容姿であった。二人そろって、やや背丈が高いことを除けば平々凡々な人間である。
「ちなみに、どこに行くところだったんだ?」
「アレドという名の村です。アタシたちの故郷なんです」
ふと疑問に思って俺が訊ねる。
すると、答えたのはレレイだった。
彼女は満面の笑みを浮かべ、こちらを見ている。
「…………ん?」
なんだろうか、その表情には違和感があった。
だが違和感と言っても、決して敵意などではない。むしろ好意的な感情がそこにはあるように思われた。しかし、俺はそれを理解することは出来ない。
ただ、隣にいるミナはいち早く把握したらしく――。
「――師匠。鈍感さんですね」
「…………は?」
そんなことを言ってきた。
当然のことながら、俺は間の抜けた声を発してしまう。
いや、本当に意味が分からないのだが。誰でもいいから説明してくれ……。
「せっかくですし、オレたちの村に招待しますよ。いいだろ、レレイ?」
「もちろん! 父さんもたまには気が利くね!」
「たまに、は余計だ! はっはっは!!」
さてさて。そんなことを言っている間に話が進んでいた。
まぁ、なんにせよ。いつかはどこかの村や街を目指そうと思っていたのだ。その予定が多少早まっただけで、断る理由は一つもなかった。
「それじゃ、荷馬車に案内します。ついてきてください」
「あぁ、お願いします。行くぞ、ミナ」
「はい、師匠!」
そんなこんなで俺たちは一路、アレド村を目指すことになったのである。
ミナとの二人旅で、初めて立ち寄る場所だった。
少し恥ずかしいのだが、この時の俺は胸の高鳴りを感じていた。
数千年の時を経た世界の姿は、どのように変化しているのか。それを早く、この目に焼き付けたいと、そう思うのであった……。
もしよろしければ、ブクマ、評価等で応援いただけると幸いです。
よろしくお願い致します。
<(_ _)>