10.戦いの前、悪魔の所業
あとがきにお知らせありです。
その場所にたどり着くと、待っていたのはブラウン親子だった。
彼らは無表情でこちらを待ち受けており、そこに漂うのは不気味さ以外に何もない。しかし、俺たちはいかなくてはならない。彼らの魂を救うために……。
「やぁ、お兄さん。それに、お嬢さんもいらっしゃい!」
「パリィ……!」
すると聞こえてきたのは、愉悦に満ちた少女の笑い声だった。
声の主――パリィは屋根の上からこちらを見下ろして、無邪気な笑みを浮かべている。その姿は一見すれば、とても幻想的で美しいモノであった。
だが、俺とミナにとっては怒りを抱かざるを得ない腹立たしいモノ。
「やだなぁ。そんな怖い顔されたら、ボクも泣いちゃうよ? 女の子だもん」
「笑いながら言っても、説得力ないぞ」
「あはははっ!」
その感情を隠さずに返答すると、彼女はまたも腹を抱えて笑った。
ミナはすでに剣を引き抜き、臨戦態勢。それでも、はやる気持ちを抑えようとしているのが分かった。俺はそちらにも意識を割きつつ、再びパリィを見る。
「悪いが、これ以上はお前の遊びに付き合うつもりはない」
「へぇ……。さっきとは、ずいぶんと違うんだね?」
そして言うと、少女は目を細めた。
「あぁ、師匠としては情けない限りだが、弟子に教えられてな」
「ふ~ん。それで? キミたち、どちらが戦うのかな」
「――私だ!」
パリィのその言葉に反応したのはミナ。
我が弟子は剣を真っすぐに構えつつ、前へと出た。
「なるほど、ね。お師匠さんは――ボクの相手、ってところかな?」
「まぁ、そうなるな」
俺はそう答えながら【空間収納】より、一本の杖を取り出す。
この世に僅かしか存在しないと言われている、オリエステル鉱石を装飾した逸品だ。これによって、俺の使用する魔法の威力は格段に跳ね上がる。
この女に対しては、手加減抜きだ。泣かせる程度では、済まさない。
千年に渡る罪の報いを受けさせてやる――!
「まぁまぁ、そんなに急がないでよ。可哀想なキミたちに、特別な演出を考えてあげたんだからね! それを見てからでも遅くはないだろう?」
「――――なに?」
その時だ。
パリィがそんなことを口にしたのは。
特別な演出――それは、いったいなんだ?
「さぁ、目を覚ましなよ――レレイ。千年の眠りは、快適だったかい?」
だが、考えるよりも先に――銀髪の少女は指を鳴らした。
その瞬間だ。俺たちの大切な友人に、異変が起きたのは……。
「……あ、あああああああああああああああああああああああああああっ!?」
響いたのは、絶叫。
それはレレイのモノ。なにか、崩れ落ちるような、そんな叫び。
「師匠、これはいったい……」
「もしかして――パリィ! 貴様!!」
ミナは動揺し、俺はその異変の正体に気が付いた。
間違いない。この悪魔のような女は――。
「――ご名答! 今この時に、ボクはレレイの意識だけを解放してあげたのさ! 優しいだろう? 彼女は自我を完全に回復した状況で、人形として扱われるのさ!!」
「な、そんな――!?」
――意識を完全に奪うよりも、もっと惨いことを平然とやってのけた!
満面の笑みを浮かべて。そこに、罪悪感の欠片も見せずに!!
俺は腸が煮えくり返るのを感じながら、少女を睨む。
「おやおや。コワイなァ……せっかく、涙の再会を演出したというのにね。ほら、レレイの本音を聞きたいと思わないのかい?」
「――――――っ!」
ケラケラと嗤うパリィ。
しかし、そんな彼女に目もくれない者が一人いた――ミナだ。
少女は剣を下ろして、レレイへと歩み寄る。そして、こう訊ねた。
「レレイさん? 貴女の願いを聞かせてください」――と。
俺はそれを聞いてハッとする。
そうだった。俺たちがまず、やるべきことは――。
「……私を、私たちを」
――レレイたちの願いを叶えること。
「殺して、下さい。終わらせて……下さいっ!」
涙腺が緩むのを感じた。
しかし、そんなものに構ってはいられない。
俺はその言葉を聞いた瞬間に、杖を構え直した。ミナも同じく、聖剣を構えて大きく息をつく。そして――。
「――レレイさん。分かりました!!」
そう、決意を込めてそう叫んだ。
パリィは変わらず、屋根の上で愉悦の表情。
俺はその両方を見て、改めて意識を集中させた。
これが、最初の村での戦い。
それと同時に、一つの村の悪夢の終焉への始まりだった……。
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「婚約破棄された私ですが、このたび最強の治癒師として冒険者になりました。」
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