序章
この作品には、残酷な描写があります。
僕と彼女が付き合って間もない頃の話。
彼女は同じ大学の後輩だ。
彼女にとって、僕は初めての交際相手らしい。
僕はまえに何人か経験があるが、そのことは彼女には言わなかった。特に聞かれてもいないし、別段問題はないだろう。
僕は大学の寮暮らしをしていて、
女性を部屋に入れることが出来ない。
だからいつもデートといえば喫茶店でお茶するか、
街で手を繋いで歩くしかしていなかった。
だけど、僕だって健全な男だ。
そろそろやることやりたいのだ。
僕の頭の中では、
彼女はあられもない声や表情で、
僕の前に恥部をさらしていた。
恥ずかしがる彼女を、半ば強引に押し切り、
彼女の自宅アパートにおじゃますることになった。
彼女の部屋は、小さくて、古いなりに綺麗に整えられていた。
「上がって」
小さくぽそりと、彼女がつぶやいた。
僕は靴を脱ぐ時間さえじれったく、彼女に抱きつき、
乱暴に唇を奪った。いつもは二人きりの空間がなかったから、思い切りキスもできなかったのだ。
畳敷きの上にあるソファーに彼女を押し倒し、
彼女の服をめくりあげた。糸が何本か切れて、プチプチ音がする。
待ちきれず彼女の下着に手をかけたとき、
僕は、はっと我にかえった。
彼女が、固まって震えていたのだ。
「ごめん」
罪悪感で消沈する僕を、彼女は優しい手で抱きしめてくれた。
そのまま、安らぎのなか僕は眠ってしまった。
気がつくと、どうやらもう夕暮れどきらしかった。
彼女が、料理をしているのか、台所の懐かしい音が聞こえる。
「起きた?」
彼女が僕に駆け寄ってきた。出刃庖丁を持ったままなのが気になったが、
彼女が怒ってないことがわかると、安心した。
「きて」
彼女は僕の手を引き、台所へ連れて行った。
「動かさないでね」
彼女が、当然のようにまな板の上に僕の指を置き、それを出刃庖丁で切り落とそうとするので、僕は慌てて彼女を止めた。
彼女は、何にも悪気もない様子で、出刃庖丁片手に、小さな口を少しだけあけてポカンとしている。
「あのさ、なんのつもり」
「なんのって、食事をつくるのよ」
食事。と確かに彼女は言った。
僕の指を切り落とそうなんて演出、冗談にしてはやりすぎだ。
「危ないだろ。ふざけるにしても、こんなの酷いよ」
僕は強めに叱ってみた。すると
また、彼女は不思議そうな顔をした。
なんでこんなに強く言われるのかわからない。と言った表情だった。そして、なんとも解せないような顔つきで、さっきまで刻んでいた玉ねぎをまた細かく刻み始めた。
「僕の指で、何を作るつもりだったの」
「カレー」
読んでいただき、ありがとうございました。