閑話 変な奴
よろしくお願いします( *//`ω´//)
今回はノワール視点です。次回は双子視点を予定してます。
そいつはエサだった。
俺に気づいてすぐに駆け出した。
俺から逃げるなんて無理な話なのにな。黒氷蛇には翼があるのは有名な話だ。
最後には情けなく這いずって進んでいた。
もう抵抗する力も無かった。…筈なのに。
「ノワール、今日もよろしくなー俺はよろしくしたく無いんだけどなー。」
こいつは今日まで生き延びてる。
異世界人特有の変な能力によって。
今もケロッとして平然と俺に挑んでくる。
ケイと俺は死を共有してる。
あの能力は厄介だ。一度発動したら取り消しが効かない。…苛立ちに任せてあの時殺さなかったのは奇跡だ。
魔物のままだったら殺してたかもしれない。今はなんとか見れるようにはなったが前はLv.1のお荷物だったからな。
俺がこいつを守ってやると決めたのは見返りがデカかったからだ。…まぁ守ってやらないと俺が死ぬというのもあるんだが…
契約と共に天賦ノ才を付与され強制的に進化した。
それも一段階ではなく上位魔人へと、だ。
これはおかしい。通常ならありえない。
心命連結は使い勝手が悪いが、契約章印は相手の同意が必要なもののデメリットは無い。
ありえない能力だ。
その気になれば世界を手中に収めることだってできる。…まぁ、こんな平和ボケした奴がそんなことやるつもりも無いだろうがな。
ケイの平和ボケの最たる結果がこいつらだ。
「ご主人様、ファイトです!ボッコボコのケチョンケチョンにしてやってください!」
「主、ガンバ。ミミズ、敗けろ。」
ケイの僕の双子だ。
見た目無害なくせにとんでもなく強い。ガキといえど魔人だからだ。
ケイにはとても懐いている。
そう、ケイには。
先の発言からもわかる通りこいつらはとことん俺を目の敵にする。俺が何したっていうんだ。一番最初に見捨てようとしたのがよく無かったのか。だって当然だろう?この世界は弱肉強食だ。弱い奴が悪い。ケイみたいなのが珍しいんだ。
だと言うのに…さすがにここまで嫌われるとくるものがある。…今度から弱い奴でも見捨てないようにしよう。
俺は何の話をしてるんだ!決してこいつらに好かれたいとか、いい加減名前で呼びたいとか、呼ばれたいとか、思ってねぇぞ!
そういえば、ケイにこの話をした時、ツンデレかよ…と呟いていたがどういう意味なんだろうか。
意味は分からねぇがイライラしたので殴っておいた。
「なぁ、今日も魔物モードなのかぁ?人間モードにしようぜー。俺、そろそろ恐怖から解放されたい。」
とか何とか愚痴愚痴言っているが結局はやるのだ。
蛇に変身して一発咆哮をかます。と、身を翻して避けそのまま氷剣兵を放ってきた。氷の刃が一つ向かってきた。
ここ数日でケイの戦闘センスは格段に磨かれていた。
特訓の後勝つ算段を考えているのを俺は知っている。
能力の使い所や、いかに少ないMPで強力な攻撃をするか。勝負するごとにどんどん強くなる。俺にはまだまだ及ばないけどな!
こいつは卑怯なことを簡単にやってのける。というか、目潰しぐらいは卑怯のうちに入らないとか思ってそうだ。こいつの神経の図太さには感服する。全く知らない場所に放り出されて俺に襲われて挙げ句の果てに戦って、発狂しても仕方ないと思う。
だが、ケイは楽しんでる。俺と戦うのも、見たことも無い食べ物を食べるのも、洞窟で寝るのも。ガキみたいに。
こいつ、頭のネジ何本か抜けてんじゃねぇのかと何度思ったことか。アホだと、バカだと、なんで毎日毎日ヘラヘラしてんのか、と。
俺の知ってる人間はもっとずっと弱い。
弱っちくて、誰かに縋ることしか出来なくて、取るに足らない存在で、俺にとってはエサだったのに。
時々俺はなんでエサと喋ってんだろうか、なんでエサと対等であることを納得してるのだろうかと思うことがある。
もう、人間を食べようとかも思わなくなった。
ケイを食べないのは当然だ、俺死ぬし。
森の中で冒険者を見つけた時喰おうとは思わなかった。むしろ、ワクワクした。話しかけてみよう、とか、今までそんなこと考えたことも無かったのにだ。魔人に進化した影響か?
でも、前に見た魔人は襲って喰ってた気がする。
あぁ、気づいたんだ、喰うより話した方が面白いって。
俺より色んなことを知ってる、色んな楽しいことを、面白いことを、知ってる。
無価値なんかじゃねぇ、エサじゃねぇ、対等か、それ以上だ。
あー今まで喰っちまった人間が勿体ねぇ。沢山話してみたい。…進化してないと話せねぇか。
その内ケイが人里行くって言ってたから当分我慢するか。
考え事してたらケイを見失った。やべ、あいつ気配消すのやたら上手いんだよなー。
体ちっこいから探すの一苦労なんだよ。
バキリ
大木が折れて倒れてきた。これは前にケイが使っていた手だ。倒れてきた木に気を取られている隙に背後に回り込んで攻撃してくる。ふん、2度も同じ手をくらうかってんだ、このぐらいの木当たったところでどうということは無い。倒れてきた木とは反対方向を向く、が、ケイは居なかった。まさか…
「氷神壊弾!!!」
後頭部に衝撃が走る。
倒れてくる木の枝に乗ったまま氷の砲弾を放ってきた。イテェ。完全にケイの手のひらで転がされた。ケイのずる賢さは分かってたのに。あの、卑怯なケイが同じ手を使ってくるはずが無い。あの、卑怯なことしかしない、図太く、アホな、ケイが同じ手を使ってくるはずが無い。
『なんか、今失礼なこと考えてなかったか!?』
気のせいだぞ、ケイ。俺は褒めてるんだ。お前のそういうところは強みだからな。
さて、俺に攻撃を決めたんだ。
それってつまり、お前が強くなったってことだよな?
じゃあ、俺の攻撃の一つや二つくらったところで問題ねぇよな?
大慌てで回避行動をとるケイ。だが、木の上という立地が悪いせいで一拍遅れた。
俺の体に弾き飛ばされるケイ。最近受け身を取れるようになったし大丈夫だろ。
『大丈夫な訳無いだろーがーーー』と叫んで飛んでる気がするがあいつは普通の人間より頑丈だ。大丈夫だろ。
「疲れたぁ〜〜」「疲れた、って言ってる奴は疲れてねぇって事なんだぜ?知ってたか?ケイ。」
「…もう、勘弁してくれ…」
ったく、情けない奴だ。実はすごい奴なんじゃ無いかと思ってた俺が馬鹿みたいだ。
クソガキ(ギンヤ)が水を持ってくる。自分の能力で出したんだろ。双子の癖に火系統と水系統で対照的だからな。コップという器はケイが木から削り出した。氷で変な形の───あ、ノミ?とかいうので切り出した木から作っていた。何日も黙々と作業する集中力にはビックリだ。器用な奴だ。その後も皿とか、ハシ?とか、スプーン、フォーク、とか作ってた。ハシは使い方が難しい。こんなん使って飯を喰う人間の気持ちが分からん。
その結果、造形という珍しい能力を手に入れていた。物に干渉し好きな形に変化させられるという能力だ。契約のおかげで俺にもケイの能力が使えるが、この能力は魔力消費が激しい上に頭に正確なイメージを想像しないとできない。かなり難しい。使いこなそうと必死こいて練習しているケイはブツブツ何か言っていて気味が悪かった。
その練習の為に俺やガキどもの像を作っていた。そっくりですごい出来だった。のに、俺のが完成した直後に破壊しようとした。一体何だったんだ。
自分の作れば?と言ったのだが、自分の作るとかどこのナルシだよ…と言っていた。ナルシって何だよ。聞いたら、自分大好き人間、と返ってきた。自分が大好きなのは当たり前だろ? 自分が一番可愛いだろ。あーうん、そうなんだけどねーうーんと言いよどんでいた。結局よく分からなかった。
俺にとって時々話すケイの異世界特有の言語もそうだがケイ自身も分からねぇ事が多い。
ケイがおかしな、変な奴だから分からねぇんだと思うことにした。
俺と初めて会話した人間、ケイは変な奴だ。
「ご飯ですよー。」
「サンキューコチョウ。…そろそろ調味料が欲しいところだな…」
「ちょーみりょー、美味しい?」
「美味いぞー、塩とか醤油はしょっぱいし、砂糖は甘いんだ。」
「それってどうやったら手に入るんですか?」
「うーん、買うとか?塩は売ってるとは思うけど…待てよ…もしかしたら…」
また何かブツブツ言い始めた。なんか思いついたんだろーな。頭を使う事はケイに任せておけばいい。アホだがセコイことに関してだけ頭がいいんだ。
ちょっと前までこんな生活考えられなかった。
嫌な方向ではなく良い方向に変化した生活。
昔、1人だったのが嘘みたいだ。
毎日色んなことがある。
今日はケイが拾ったキノコを喰ってのたうち回ってた。馬鹿め。
今日はクソチビ(コチョウ)が牧集めを手伝ってくれ、と頼んできた。嬉しい。
今日はクソガキ(ギンヤ)が喧嘩を売ってきた。また強くなってた。面白い。
楽しい、毎日が新しいことでいっぱいだ。
最後まで読んで頂きありがとうございます。゜(ノ∀`*)゜。