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奴隷少女との日常

作者: カン

俺は転生者というやつだ。

交通事故に遭い、神様に医者の知識を貰って新しい世界に生まれ直させてもらったのだ。


しかし特に何も野心も目標も無い俺は、大きくも小さくもない普通の街に街医者として暮らしている。


腕は確かということで、生活に苦労は無く、むしろ贅沢できる程の利益があるが、この世界はあまり文明が発達しておらず、とくにやりたいこともなく、貯金だけが増えていく。


何か趣味でも見つけるべきかとも悩み、今日も食料を買い漁り、客を待ちながらのんびりしていると、店の鈴が揺れて音を立てながら扉が開いた。


「ハイハイ、いらっしゃいませ〜」


お客を迎えるために立ち上がると、扉の前には一人の男が立っていた。


コートを羽織り、帽子が深く被ったその隙間から見える男の顔を見て、俺は一瞬固まる。


とくに顔に大きな傷があるわけでも、厳つい顔付きでもないのだが、纏っている雰囲気と俺の第六感が彼が堅気の人間でないと俺に告げる。


それでも客には変わりないと営業スマイルで対応する俺。


「えっと・・・どうなされましたか?」


「どうも先生。覚えておいでですか?

・・・昔、先生に命を拾ってもらった者ですよ」


胡散臭い笑みを浮かべる男の言葉に首を傾げると、男が教えてくれた。

数年前に路地裏で倒れているのを偶然見つけた俺が治療したとのことだ。


言われてみればそんな記憶がある。

相手は、いつかお礼をするとか言っていたが正直期待しておらず、今まで忘れていた。


「あの時は、ろくにお礼もできずに去ってしまって、申し訳ありませんでした。

偶然近くの町に立ち寄ったものですから、今日はお礼に参ったのです」


そう言って男は懐ろから分厚い封筒を取り出す。


「あの時は持ち合わせも無く、治療費も払えませんでしたからね」


封筒を受け取り中を確認すると、目を疑うような金額が入っていた。


「・・・何ですか、この大金?」


「支払いが遅れてしまったほんのお詫びです。

遠慮せず受け取ってください」


このお金が普通のお金なら喜んで受け取るだろうが、相手が相手なだけに素直に受け取りたくない。

だが、ここで断って相手を怒らせるのも恐い。

・・・俺は何も知らないことにして受け取った。


「それで、あともう一つ、持ってきたものがあるのですが、これからするお話は内密にお願いできますか?」


それを聞いた瞬間俺の脳内では、白い粉や赤い荷物の運搬をする自分の姿が浮かんだ。

やはり世の中うまい話なんて無いのだ。

きっと俺は何か犯罪の片棒を担がされ、裏社会でのし上がっていくのだろう。

厳ついお兄さんにお頭なんて呼ばれたくないなぁ・・・


軽く現実逃避するが、何も変わらず仕方なしに頷くと、男は店の外へ誰かを呼んだ。

店の扉が開き、ゆっくりと入ってきたのは、幼い少女だった。


だが、俺が驚いたのは人身売買の可能性についてではない。

少女の薄汚れたタンクトップのワンピース(服の名前を忘れた)で隠されていない四肢、顔は大きな火傷で痛々しく、赤黒く変色していた。


「最近、ある資産家が事故で亡くなりましてね。

近しい家族がいなかったものですから、役所やら親類や友人を名乗る者やらが、寄ってたかって財産をさらっていきました。

私もちょっとしたコネがありまして、そのおこぼれを頂戴したのですが、代わりに厄介な物もいくつか押し付けられてしまったんです」


そこまで聞けばある程度の予想ができた。


「こいつがその一つです」


少女に視線を向けるが少女の表情は変わらず無表情である。


「今の私はしがない商人でして。

『なんでも』取り扱う事をウリにしているので、うまく売っぱらえということだったのですが・・・」


男は困ったようにため息を吐き、話を続ける。


「人の身の売買なんて、肉体労働ができる商品ならまだしも、こんなガキは信頼できる買い手はすぐには見つからないんですよ。

下手に急いでことを進めると、私も不利益を被りかねません」


この世界では人身売買が認められていることを知らなかった。

しかも奴隷制度までとは・・・


「元手がかかっているわけでもないので、結局下手なことはせず、適当に処分するか捨ててしまおうかとも思ったのですが・・・」


男も少女に視線を向けるがやはり何も反応を見せない。

おそらく今までの生活による影響だろうが、それでも眉間に皺が寄る。


「私にだって良心や哀れみはあるものです。

面倒や不利益はごめんだが、良い取引先がいないものかと考えたところ、ちょうど今進めている商談のあるこの町で、昔先生に助けられた事を思い出したのです。

「見たところ、あの時と変わらず先生はお一人で暮らしているようですし、余計なお世話でしょうが、少々寂しい生活をされているのではと思いまして・・・急な話ですが、こいつを引き取ってはみませんか?」


余計なお世話だし、正直面倒事は御免被る・・・と、いつもの俺なら断っていただろう。

だが、俺は先程から男の話を聞いていて違和感を感じていた。

何だか男の言葉を、セリフに既視感、デジャヴを感じる。

そしてそれは少女に対してもだ。

それがあまりに気になる俺は、男に承諾の意味を含めて頷いた。


「わかりました、彼女を引き取ります」


「・・・そうですか、私もこいつも助かります」


男は胡散臭い笑みに僅かに安心したような色を滲ませる。

まさかこの男、ギャップ萌えを狙っているのか?


「こいつは身寄りもない奴隷です。

家の手伝いをさせてもいいし、先生にその趣味があるならおもちゃにしたって咎める人も居ないでしょう」


これから少女にどんな顔で接すればいいのかわからない。

少女の顔が見れないぞ、どうしてくれる


「まぁ、こいつについての詳しい話はこいつ自身から直接聞いてください。

では、私は失礼します。

改めて、あの日助けていただいたこと、ありがとうございました」


男がいなくなり少しの間沈黙が室内を支配する。

しかしその沈黙を少女が破った。


「改めて初めまして、シルヴィと申します。

引き取っていただいてありがとうございます」


淡々と、感情の無い声で彼女は自己紹介する。


「力仕事はできませんが、申し付けてくれれば簡単な雑用ぐらいならできると思います。

・・・ただ、前のご主人様は悲鳴を聞いて楽しむのが一番価値のある使い方だって言ってました」


そして深々と彼女、シルヴィは頭を下げる。


「・・・お手柔らかに、お願いします」


俺は驚きに言葉を失った。

少女の不憫さってのも確かにある。

元主人の変態さってのも確かにある。

・・・だが、そうじゃない。

彼女の名前、シルヴィ


「・・・シルヴィ・・・だと?」


奴隷、少女、火傷、そして・・・シルヴィ

俺は彼女を知っている、いや、この世界を知っている。

この少女は、この世界は・・・


「・・・奴隷との生活 -Teaching Feeling-」


どうやら神様は、俺をゲームの世界に転生させたらしい


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