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水月鏡花  作者: 和夜
3/3

萩色の本

今回初登場の新キャラ、本来は瑞樹役として登場させるはずだったのですが、茜との相性を考えて瑞樹の性格を変更した為、捨てかけました。しかし、割と嫌いじゃない性格の持ち主なので、サブキャラとして登場させたいと思います!下記は、その新キャラ説明と本文の読み難い漢字説明です



つづみ

→日本特有の楽器。小さな太鼓の様な物


鼓太郎こたろう

→萩の友人で、良家の長男。万人に慕われる温厚な性格ではあるが、締まりが無いとよく言われる。

〝兄が行方不明〟

それは加賀鳶家にとって一大事なのだが、日の本に住む九割九分の人々には全くもって関係のない事件であり、いつもと変わらず時が刻まれる。目を覚まし、食事を摂り、働いて、寝る。毎日変わらず繰り返される平穏無事な生活を、つまらないと言うのは贅沢だろう。そう頭では理解していても、小さな刺激を日常生活に求めてしまうのが茜である。そして、今日は小さな刺激を探す為に、店の定休日を利用して古本屋巡りをしていた。これはただの趣味。本屋の娘が古本屋巡りとは奇妙な趣味だが、自分の手元にない本を読みたいというのが心理で、一種の無い物ねだりの様な物だ。古本の魅力は、手軽な金額で買える点と、名前の通りの古さだと茜は言う。決して綺麗だとは言えない表紙と、微かに香る古びた紙の匂い。それらは、新本では味わえない高揚感を茜に与えるのだ。


(お金足りるかな…)

両手に本を抱えているが為に懐にしまった財布の中身を確認出来なく、心の隅を掠めた不安が、茜の会計場へと向かっていた足を止めさせる。すると

「凄い量だね、茜ちゃん」

そんな声に目を本から移せば、手をヒラヒラと振る一人の青年が茜の側に立っていた。癖のない真っ直ぐな黒髪と、長い睫毛が縁取る猫目、自分を〝茜ちゃん〟と呼ぶ数少ない人物、茜には心当たりがあった。が、しかし

「………何方様でしたっけ?」

見目にも、声にも心当たりがあるのに、思い出せない青年の名前と関係。申し訳なさそうに眉を寄せた茜に、青年は少し残念そうに口元を緩め

「覚えてなくて当然だよね。最後に合ったのが六年も前なんだから」

「六年前…?」

「〝萩の隣に鼓あり〟ってね」

青年は謡う様に言葉を並べば、得意げに笑った。

「鼓……?あっ、鼓太郎さん⁈」

「正解!萩の隣にはいつも僕(鼓太郎)がいたから、よくそう言われたものだよ」

「兄さんと鼓太郎さんは仲が良かったですからね」

六年前の萩と鼓太郎が共に歩く様子を思い出し、茜はクスクスと笑う。商家の長男である萩と、良家の長男である鼓太郎がどこで知り合ったのかは茜も知らなかったが、二人の仲は誰から見ても良好だった。萩の妹だという立場上、茜も何度か鼓太郎と顔を合わせた事があったし、言葉を交わす事だって少なくはなかった。しかし、萩が行方不明になった途端、中立のいなくなった茜と鼓太郎が会う機会はすっかり途絶えてしまったのである。それが今、六年振りの再会。茜は聞きたい事がたくさんあった。もちろんそれは、萩についてなのだが、茜が質問をする前に

「あっ、そうだ!茜ちゃんに渡したい物があるんだった」

〝思い出せてよかった、よかった〟と誰に言うでもなく鼓太郎は零す。

「今から時間あったらさ、うちに寄ってくれない?」

疑問系ではあったが、茜には、自分が鼓太郎の家に寄るというのは既に決まっている様に聞こえた。



* * * * *


「さっ、入って入って」

鼓太郎は茜を手招きし、大きな扉を開ける。ハッキリ言うと、茜はこの様な屋敷に招かれた事は今までに一度も無い。否が応でも体が強張った。

「お、お邪魔します…」

外観だけでも恐縮しそうだが、屋敷内に入ると、もはや卒倒しそうになる。

(こんな事なら、もっとちゃんとした格好しておけばよかった…!)

茜は自分の姿を見下ろし、心の中で叫ぶ。ちゃんとした格好と言える程の洋服を持っているわけでもないのだが、着物に袴という典型的な服装と、髪紐で一つに纏めただけの髪型をして出かけた過去の自分を恨む。せめて簪を差して来るべきだったとも思った。自分の場違いさに溜息を吐き、茜は鼓太郎の後ろを付いて行く。綺麗に塗装された赤茶色の階段と高い天井は、ここらにある洋風建築物の中でも、この屋敷が立派であるのを示していた。なかなか見る事の出来ない屋敷の内装に、茜は四方八方を見渡す。すると

「ここだよ」

「…!」

足を止めた鼓太郎に余所見をしていた茜は気付かなく、鼓太郎の背に鼻頭を強かに打ち付けた。

「あっ、ごめん…大丈夫?」

「だい、じょうぶ…です……」

微かに痛みを訴える鼻を無視し〝穴があったら入りたい〟という状況はこんな事を言うのだと、茜は他人事の様に考えた。しかし、そんな考えも吹き飛ぶ物がそこにはあった。

「……っ。」

目の前に広がる空間に、茜は思わず言葉を詰まらせ、息を飲む。

窓にはめ込まれた、色鮮やかなステンドグラスから射し込む午後の日光。

棚に、床に乱雑な状態で並ぶ本、地球儀、鏡、時計、絵画……。

そこはまるで宝箱の様で、見る者の幼心を蘇らせる。

「はっきり言ってしまうと、ここは物置なんだけど…」

そう言いかけた鼓太郎は、茜の手を取り、全開にした扉から入室した。部屋の中には年代物と思われる物ばかりがあるのに、掃除は行き届いている。床に足跡は付かないし、埃が溜まっている所も無い。

「この物置には〝絶対に必要な物〟を置く物置なんだよ」

得意げに話し、鼓太郎は茜にある物を持たせた。

「例えば、こんな物とかね」

「…?」

茜は不思議そうな目を、鼓太郎から、手にある物へと目を移す。菫と梅の花を溶かし混ぜた様な色に染められたそれは、萩の花と同色の本だった。

「な、何でこれを鼓太郎さんが…⁈」

探しても探しても見つからなかったその萩の本は、持ち主の性格によって結末が決まる本で、今までに読んだ事はない。

「これを萩に渡されたのはいつ頃だったか……急に萩がこの本を預かってくれって、僕に押し付けてきたんだ。〝妹にだけは見せるな〟とも言ってたけど、萩が行方不明になってまでその約束を守るのもどうかなって…」

鼓太郎は自傷的な苦笑いをし、髪を掻いた。

「最初は渡そかどうか散々悩んだんだ。萩との約束を破る事に対する後ろめたいとかで六年も経ってしまって、本当に…ごめん」

鼓太郎は、茜に深く頭を下げた。きっと、相当悩んでいたのだろう。その証拠に、茜に申し訳ないと思う面持ちな反面、やっと本を渡せたという安心感を帯びた表情だ。

「気にしないでください。……寧ろ、ありがとうございました。兄の本を〝絶対に必要な物〟として保管してくれて、私に本を渡してくれて、ありがとうございました」

所狭しと物が詰まった部屋の中央で、茜は萩の本を強く握った。行き過ぎない華やかさを放つその表紙には、既に物語の題名が綴られている。



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