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第11話【機動班会議】

 野上は一瞬呆け、直後慌てた。


「よ、横田さん、待っ──」


──そちらの方ですか


 進行役に見つかった。

 こちらへお越し下さい、と手招きされ、野上は横田を恨めしそうに見ながら壇上へと向かった。

 進行役が野上に名前を問う。野上です、と答えた。


「ありがとうございます。乾さんから推挙されました。実戦経験のある方を是非に、と。副班長、お願い出来ますか?」


 野上は戸惑う。乾を見る。


「貴方ですか。先程の南門での戦闘の活躍は聴いています。是非、我々をサポートして下さい。貴方の、大切な人達の為にも」


 乾が丁寧に述べ、頭を下げた。

 頭を上げて下さい、と野上は慌てた。


 ──大切な人達の為にも、か──


「──分かりました。俺で良ければ、力になります」


 野上は承諾した。

 進行役は頷き、グラウンドの方を向いた。


「ええ皆様、これで機動班班長、並びに副班長四人が決まりました。副班長の方々、前へどうぞ」


 進行役に促され、野上と他の三人が壇上に並んだ。


「皆様向かって左から……桜井(さくらい)さん、氷川(ひかわ)さん、葉山(はやま)さん、野上さんです」


 桜井という男性は、細身で長身、眼鏡をかけている。


 氷川という男性は、おそらく二十代後半、少し髪が長く、一見チャラチャラしたように見えるが、芯はしっかりしていそうだ。


 葉山という男性は、ガッシリとした体格で丸刈りだが、時折、人懐っこい笑顔を見せる。


 四人は揃って頭を下げた。

 拍手を浴びた。

 遠くの方で、よっ野上さん! という声が聞こえた。……横田だ。


「早速ですが、班長と副班長にはこの場に残っていただき、機動班の皆さんはとりあえず解散──」


 進行役が解散を宣言しようとした時、乾が制し、拡声器を使わせてほしいと告げた。

 進行役が拡声器を手渡す。


「──皆さん。この後、我々五人で打ち合わせを行い、何かしら決定事項があれば追って連絡します。さしあたって皆さんが解散した後に、各自でやってもらいたい事があるのですが、それは──」


 乾がそこで一旦区切った。


「皆さんの身の回りにある物で、武器として使えそうな物を用意しておいて下さい。何でも構いません。いざという時、持ち出せるように──お願いします」


 それでは、解散して下さい──と進行役が締めた。

 機動班の者達はそれぞれのグループの元へと帰って行った。


 夕方を過ぎ、辺りは暗くなってきた。


 進行役が五人に向け、


「早速ですが保健室の牧村さんという医師から、警備班もしくは機動班に応援要請がありましたのでご対応お願いします」


 保健室から? と氷川が反応した。

 牧村が約束通り、学校側に応援を要請したらしい。


 では、何か連絡事項等がありましたら職員室まで、と進行役も引き上げて行った。


 壇上には班長の乾と、副班長の四人が残った。

 乾が四人に向け、発言する。


「──まあ、成り行きで班長になってしまったが、意見などは遠慮なく言って下さい。あくまで、今ここに居る五人は対等だと思ってほしい。いや……この小学校に居る人総てが対等だ」


 了解、と氷川が言い、グラウンドへ飛び降り、胡座をかいて座った。


「堅っ苦しいのは苦手なんすよね俺。あ、でも礼儀は弁えてますんで」


 それを眺めながら、葉山がにこやかに言う。


「まあ、会社じゃないんだし。ただ、全力で皆を守る事だけを考えよう」


 桜井が同意する。


「そうですね。今、我々がすべき事、出来る事を話し合いましょう」


 さすがにこの場に居るメンバーは、それぞれにある種のカリスマ性を感じる。

 自分がここに居るのは場違いではないか、と野上は思ってしまう。


「野上さん緊張なさらず。我々にとって、今は貴方だけが頼りだ」


 乾が野上を気遣う。

 野上は我に返り、とんでもないです、と首を振った。


「俺なんか何も……ただ、ええと──はい。頑張りましょう」


 しどろもどろになってしまった。

 カタイっすよ野上さん、と氷川が笑った。


「そうそう、そう言えばさっき体育館で何かあったんスよね? 怪我人?」


 氷川が野上に尋ねた。


「あ、ええ。体育館に居た男性が体調不良を訴えて……そうだ。保健室からの応援要請に関連しているんですが──」


 野上が四人に寄生生物の存在について説明した。

 避難場所であるこの小学校に来る前に遭遇した化け物の事、その死体から出て来た不気味な生物の事。

 南門での戦闘後、化け物を監視していたが生物は出て来なかった事、戦闘に参加していた者のうちの一人が、寄生された可能性があった事──


「それがその──保健室へ運ばれた男性だと言うことなんですね」


 桜井が確認する。

 野上が頷く。


「今は、保健室で牧村さんという医師が見てくれています。彼にも事情は説明済みです」


 保健室からの応援要請はそういう事か、と乾が腕を組み、発言する。


「今のところ、その寄生生物に寄生された人間に対する処置は──監視する事だけ、しか無さそうですね」


 残念ながら──と野上が答えた。

 それを受け、乾が頷く。


「では、急ぎ職員室へ報告し、監視を手配しなければならないな。警備班──いや、もし化け物に変化してしまった場合、即戦闘になるか。なら、機動班の者を数名、交代で配置しよう」


 葉山が壇上から飛び降りた。


「三人、いや五人ずつぐらいで良いですかね? 保健室はそんなに広くない。いざという時、大人数だと却って動き辛いでしょう」


 五人、では六人ずつでお願いします、と桜井が言った。


「一人は伝達要員ということで。何かあればその人は職員室へ走り、応援を要請する──良いですね、乾さん」


 乾は、葉山さんそれで宜しく、と言った。

 葉山は職員室のある第二校舎へと走って行った。

 既に連携が取れている。


「まずはこれで善し、と。それで──野上さん。化け物についてもう少し」


 乾が葉山を見送りながら尋ねた。

 野上が頷く。


「化け物によって攻撃パターンが違う、と。それから、我々が化け物を攻撃する際は、変化していない人間部分に的を絞る──という事で良いのかな?」


 はい、と野上は頷いた。


「攻撃パターンと攻撃すべき部位を見極めるまでは不用意に近付くなと周知を徹底した方が良いな」


 じゃ、ひとっ走りしますか、と氷川が立ち上がった。

 悪いな氷川君、と乾が言った。


「いやいや、動かさないと体が鈍っちゃいますからね。それじゃ」


 氷川が勢い良く走って行った。


「よし。あとは──そうだな。現状を把握しておく必要があるな。備蓄分がどれぐらい保つのか……援助物資はどうなっているのかな」


 桜井が応じる。


「それなら学校側に確認してみましょう。最悪の場合──学校の外に調達しに行かなければならなくなるかも知れませんね」


 桜井さん頼みます、と乾が頭を下げた。

 構いませんよ、と桜井が笑顔で答えた。


「僕は健康ではあるものの、戦闘となるとたぶん皆さんより劣る。その分、サポートに徹します」


 いざとなったら戦いますがね、と言いながら、桜井はグラウンドに飛び降りた。

 身のこなしを見る限り、さほど悪くないように見える。むしろ身軽な感じだ。


 ありがとう、と乾が言った。

 桜井は職員室に向け、歩いて行った。


「ああ、そうだ。野上さん、俺や他の三人の、小学校での居場所を教えておきます。野上さんは体育館ですよね」


 野上以外の全員、教室のある本校舎に居るとの事だった。

 乾が、何年何組に誰々が居る、と一人一人丁寧に教えてくれた。


「あの──乾さん、本校舎の方に、真島さんという男性は居ませんか?」


 真島? と乾が斜め上を見て、思い出そうとしている。


「いや……俺の周りには居ないな。その人が何か?」


「途中で別行動をとってしまって。必ず、この小学校に避難するよう伝えたんですけど」


 野上は、真島と別々になる経緯を乾に話した。


「……そう、か。その真島さん、か? 変な気を起こすとは思えないが……もしかしたらその、奥さんを襲った奴を捜しているんじゃないかな」


 その可能性も十分考えられる。


「だとすると、どこに居るかも解らない相手を捜している人を、我々が探しだすのはかなり難しいと思うな。冷たいようだが──」


 野上が制す。


「いえ、分かっています。探したい気持ちは山々ですが、それがどれだけ困難かは承知しています。ですから、もし見かけたら──体育館に野上が居る、と伝えて下さい」


 真島という人に会ったら伝えておくよ、と乾が言った。


「さて……俺は一度、職員室に行く。野上さんは少し休んだ方が良い」


 目が充血してる、と乾に言われた。

 そう言えばろくに寝ていない。


「ありがとうございます。落ち着いたらそうさせてもらいます」


 野上は礼を言った。

 では後程、と言い野上は体育館へと帰る。


 ──何だか、とんでもない事になってきたな──


 自分がグループの代表者だと言うだけでも驚いているのに、大人数の班の副班長なるものになってしまうとは夢にも思わなかった。


 ──まぁ、やれるだけの事をやろう。それが、皆を守る事に繋がるのなら──


 自分に言い聞かせ、野上は体育館に入った。


「お帰りなさい! 副・班・長!」


 到着するなり、横田が大声で言った。


「うるさいよ横田さん。元はと言えば、横田さんが──」


 野上が横田の首を絞める。勿論、フリだが。

 横田が、スンマセン、と笑った。


「お帰り、優ちゃん──いや、副班長殿」


 由美が敬礼をした。


「由美までそんな事を──ま、いいや。はい、頑張ります」


 野上は敬礼をして返す。


「大変だとは思うが──無理しないようにな、野上君」


 村田が敬礼をした。どこの軍隊だ。

 了解しました、と野上は笑いながら敬礼する。


「ご苦労様です……保健室の方は、どうなりました?」


 佐々木が敬礼をした後に、真面目に訊いてきた。


「ああ、とりあえず機動班から監視要員を出すそうだよ。さっき手配した」


 そうですか、と佐々木が頷いた。


「班長の乾さん、でしたっけ? 他の三人の副班長さん達はどんな感じでした?」


 横田が楽しそうに尋ねる。興味津々の様だ。


「ああ、乾さんは頼りになる人だ。副班長の氷川さん葉山さん、桜井さんもしっかりしてる。あの人達なら安心して──」


「その内の一人なんですね野上さんは! いやぁ、やっぱりすごいなぁウチの代表者は」


 横田が食い気味に言った。ニヤニヤしている。


「横田さんは俺をどうしたいのかな。いい加減にしないと──」


 野上が横田にヘッドロックを掛け、頭を拳でグリグリした。


「痛たたた……冗談です! 冗談だからやめて」


 グループの皆が笑った。

 野上は技を解除した。


「とにかく──俺も、あの人達と一緒に頑張ってみようと思う」


 ──それが、ここに居る皆を守る事に繋がるのなら──


 野上は、周りに居るグループの笑顔を見ながら、密かに決意した。


 家族が居る。

 そして、今日ここで初めて会った人達が居る。

 昨日までの、いつもと変わらない日常を送るなら、関わらなかったかも知れない人達。

 その人達の為にも頑張ろうと思っている自分に気付く。


 どんなきっかけであれ、人との出会いというものは、人間を成長させるのかも知れないな、と野上は今、感じていた。


「──そういう事みたいだ。なぁ、一馬」


 一馬の頭を撫でながら、野上は呟いた。

 何が? と一馬が返す。

 野上はただ、笑顔で頷いた。

 由美が一馬の肩を抱き、


「何やら、お父さんは今、かっこいいです」


 と、野上を見ずに言った。

 野上と由美は、お互い、照れくさそうに笑った。


 野上は体育館の時計を確認した。18時半になろうかというところだった。


 体育館の出入り口が、また騒がしくなった。

 沢山の段ボール箱や大きな容器が運びこまれている。


「お待たせしました──夕食の用意が出来ました」


 給食班が呼び掛ける。

 体育館に居る者達が、並び始めた。


「一馬、晩ごはんだって! 取りに行こう」


 そう言って、由美が立ち上がった。

 うん! と元気良く一馬が返事をした。

 佐々木と莉菜、横田と京介も立ち上がり、給食班の元へと向かった。


 同じように立ち上がろうとした野上に由美が、


「優ちゃんは待ってて。少しでもゆっくりして。村田さんの分も私がお持ちしますね」


 と言った。

 ありがとう、と村田が礼を言う。

 言われた通り、野上は再び腰を下ろし、由美達を見送った。


「野上君も、しばらくはゆっくり出来るのかな?」


 一緒に残った村田が、野上に訊いた。


「ええ、たぶん。何もなければ──ですけど」


 そうか、それはそうだな、と村田は苦笑した。

 野上もつられて笑う。


「お、戻って来た……おや? 珍しく君江が深刻な顔しとる。何かあったのか?」


 グループの皆と一緒になって君江も戻って来る。村田が言うように、考え事をしている様な表情をしながら。


 野上が立ち上がり、君江に声を掛ける。

 あら野上さん、と君江は応じたが、笑顔はなかった。


「君江さん、どうしました?」


 グループの皆が手に手に晩飯を持ち座る中、野上と君江だけが立ち話をする様な形になった。

 いや、それがねぇ、と言い、君江は声を潜め、


「──備蓄分の食糧がもう、底をつきそうなんですって」


 と、告げた。




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