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第10話【編成】

「お帰り。何だって?」


 由美に迎えられ、野上はグループの皆が見える位置に腰を下ろした。

 ああ、それがね、と言う野上を皆が注目する。


「学校側からの提案で、5つの班を作るからそれに参加して欲しい、って。内訳は……」


 野上が一つ一つ説明した。皆、頷きながら真剣に聴いていた。


「じゃあ俺、あんまり自信ないけど機動班に行きます」


 横田が挙手をして言った。頑張って、と一馬が応援した。


「俺も──機動班で」


 京介も挙手をした。


「アンタは警備班にしときなさいよ。じい様と一緒に。ねぇ?」


 君江が横から同意を求めた。それに対し村田は、


「本人の意志に委せろ君江。俺は警備班に行く」


 村田に言われ、君江は困ったわねまったく、とこぼした。


「絶対無茶するんじゃないよ京介。野上さんからも後で言ってやって下さいね本当に」


 野上は頷き、分かりました、と応えた。


「うん、じゃあ私は給食班に行こうかね。一番向いてそうだし」


 君江が続けて発言した。機動班じゃなくて良いのか、と村田が茶化した。うるさいじい様だね、と君江は笑った。


「俺もまぁ、機動班に行くとして……由美と佐々木さんは?」


 野上が由美と佐々木を見る。

 佐々木が挙手をした。


「私、救護班に行きます。多少経験ありますし」


「じゃあ、私は子供たちの面倒を見ようかな。うん」


 由美は託児班を志望した。

 よし、決まりだな、と野上が言った。


「決まったのは良いけど、さて、具体的にどう動くのか説明が無かったな」


 野上がそう言った時、タイミングを見計らったようにノイズ音がした。放送だ。


「──早速ですが、警備班にご参加下さる方は、グラウンドに集合して下さい。続きまして給食班の方は家庭科室、給食配膳室のある第二校舎へお越し下さい。繰り返します──」


 まず警備を固め、食事の用意をする──か。

 順番としては妥当である。


「よし、じゃあ行ってくる」


 村田が立ち上がった。はいはい私も行ってくるわ、と君江も続いた。


 二人を見送った後、他のメンバー達は自分の出番が来るまでの間、暫しの休憩をとった。

 由美が佐々木に話し掛けた。


「佐々木さんは、看護士か何かやってるんですか?」


 そう言えば、さっきそんな事を言っていた。


「あ、前に、ですよ。莉菜が生まれるまではやってました」


 佐々木が莉菜の頭を撫でながら答えた。


 ──白衣の天使、か──


「はいそこのエロ親父」

「は! はい?」


 野上の思考は全てお見通しである。

 由美が鋭い目を向けている。

 横田と京介は笑いを堪えている。


「い、いや別にエロくはないだろう──」

「いいんです。優ちゃんの考えてる事は大体判ってますから」


 ぐうの音も出ない。


「ふふふ、冗談よ。優ちゃん」


 隣で佐々木も笑っている。


「さ、さぁて……警備班はどうなっているのかな──」


 誰がどう見ても不自然な動作で野上はグラウンドの方を見に行った。


 グラウンドでは順調に進行しているらしく、20人程残して解散を始めた。


「お、終わったみたいだな」


 話し合いを終え、村田が戻って来た。


「ご苦労様です。どうでした?」


 由美が村田を労い、尋ねた。

 どっこいしょ、と村田が座る。


「ああ。順調だったよ。まず警備班の班長を決めて……確か後藤さん、だったかな? 警備会社に勤めているそうだ。で、三時間交代で回すそうだ」


 俺は20時からだそうだ、と村田が付け加えた。


「結構な人数が居たから、機動班の手を借りなくても良さそうだよ」


「そうですか。なら──しばらくゆっくり出来そうですね」


 野上が時計を見ながら言った。17時を少し過ぎたあたりだ。


 ──救護班の方はいらっしゃいますか!──


 体育館のステージの方から、誰かが大声で呼んでいる。

 佐々木を含む数人が立ち上がった。


「私、ちょっと行ってきます」


 そう言って佐々木はステージの方へ向かった。既に人だかりが出来ている。


「何かあったんですかね」


 横田がそちらを気にしながら呟く。


「これだけの人数が居れば、具合の悪い人も居るだろうね」


 健康な者ばかりではない。


 ──野上さん!


 人だかりを掻き分けて出て来た佐々木が、大声で呼んでいる。


「え? 俺?」


 何故呼ばれたのか判らないが、とりあえず野上が向かう。


「ど……どうしたんです?」


 問う野上に、佐々木が小声で答える。


「男性が一人、具合が悪いと……その男性の奥さんが心配して周りの方に助けを求めたのが始まりみたいなんですけど」


 それは分かるが、医者でもない野上を呼んだ理由が判らない。

 すると佐々木が、自分のふくらはぎの辺りを指すようにして、


「男性の、この辺りに……穴があるんです」


「何?」


 まさか──


 すみません、と野上が人混みを掻き分けて行く。佐々木も後に続く。

 人だかりの中心には、横たわる男性とその傍らに心配そうにしている女性、私服だが、問いかけや動作を見て恐らく医者と思われる男性が居た。


「ちょっとすみません。その……ふくらはぎを見させてもらっても構いませんか?」


 医者と思われる男性が突然現れた野上の申し出に、迷惑そうな顔をしながらも、傷口には触れないように、と念を押して許可した。

 横たわる男性は、辛そうな表情はしているものの、意識はしっかりしており、すみませんね、妻が大袈裟にしちゃって、と申し訳なさそうに言った。

 佐々木が慎重に、男性の右足のズボンの裾を捲る。


「……これは」


 穴の周辺にはわずかに血が付着しているが、今は出血はしていない。

 その穴を中心に、少し皮膚が硬くなっている。


「──あなたは、さっきの南門での戦闘に参加していましたか?」


 野上が問う。


「え? ああ、はい。そう言えば、あなたは──化け物を倒した方じゃないですか」


──一瞬、痛がった人が居た──


 この男だ……


「傷口の消毒をしないとな。救護班の方、彼を保健室へ」


 医者らしき男性が手際良く手配する。

 歩けますか、との問いにはい、と男性が答えた。

 佐々木以外の救護班の者が、彼を保健室へと連れて行った。


「あの、先生。あの男性の右足の穴なんですが……」


 野上が、医者と思われる男性に声を掛ける。

 牧村で結構、とその男性が応えた。


「あんな傷は滅多に見ないな。何か心当たりでも?」


 野上は、俄には信じがたいかも知れませんが、と最初に断ってから、知る限りの事を牧村と言う医者に伝えた。

 途中、何度か聞き返しながら牧村は真剣に聴いてくれた。


「……信じられない。が……あなたが実際に見ているんなら確かなんだろう。こんな事態を引き起こしているんだ。我々の常識は通用しないと思った方が良さそうだ」


 牧村に、君、名前は──と問われ、野上です、と名乗った。

 思ったより柔軟な頭の持ち主だった。


「寄生されてからどれぐらいで発症、変化するのか判らないが……とりあえず、出来るだけの処置と──監視が必要だな。学校側に、警備班か機動班の応援を要請しておくよ」


 と言い残し、牧村は運ばれた男性を追って体育館を出た。


「大丈夫かな……」


 隣で佐々木が心配そうに呟く。


「──今はあの牧村さんに任せるしかないよ」


 ざわつく周辺を掻き分け、野上と佐々木はグループの元へ戻った。


「何があったんです?」


 横田に訊かれ、野上は、


「──もしかしたら、さっき運ばれた男性は、寄生されているかもしれない」


 と答えた。


「南門で──?」


 京介が反応する。

 野上が頷く。


「とりあえず、牧村さんという医者が見ていてくれてる。内容を説明したら理解してくれた。でもあの男性は恐らく──無事では済まないんじゃないかな」


 そんな──と、由美が手で口を覆った。


「──でも、ほら例えば、今のうちにその寄生生物? を取り出しちゃうとか出来ないのかな」


 野上は首を傾げた。


「いや……ここの設備では難しいんじゃないかな。でも──そうか。最悪、右足を切断すればまだ化け物にならなくて済むかも──」


 今度は佐々木が首を傾げた。


「それも難しいと思います。発症もしていないのに本人が同意するかどうか……それに、あの生物がずっと右足に留まっているとも限らないし」


 縦しんば寄生生物に乗っ取られるのを阻止出来たとしても、やはりただでは済まないのは確かだ。しかも佐々木の言う、寄生生物が右足に留まっているか判らないという事も考慮すると、かなりリスクの大きい賭けになる。

 牧村も踏み切れないだろう。

 かと言って──今のうちに男性を殺す、という決断は到底出来ない。


 だとすれば、今、出来る事は──

 監視する事だけだ。


──ノイズ音。


「──機動班の方は、至急グラウンドに集合して下さい。繰り返します。機動班の方は至急──」


 野上、横田、京介が立ち上がる。他のグループの機動班の者達も一斉に動き出した。


「早いうちに、体制を整えた方が良いな。急ごう」


 気をつけてね、と由美が後ろから声援を送った。


 野上達は、体育館を後にし、グラウンドに入った。

 既に、かなりの人数が集まっている。野上達の後からも続々とやって来る。

 ざわつく中、野上達は拡声器を持った進行役が壇上に上がるのを見守った。


「ええ……そろそろ始めたいと思います。機動班にご参加下さる方々、ご苦労様です。さて──」


 進行役がグラウンドを見渡し、


「この機動班が、一番の大所帯になります。加えて、その役割もまた多岐に渡ると思います。そこで──機動班につきましては、班長を一人、副班長として四人を選任しようと考えています」


 立候補ないし推挙なさる方はいらっしゃいますか、と進行役が全体に促した。


「野上さん、どうですか班長。やっちゃいますか」


 横田が野上に振る。たぶん──面白がっている。


「やめてくれ横田さん。無理だよ」


 野上は苦笑し、拒否した。

 残念だなぁ、と横田が笑った。


 数人が壇上の進行役に話し掛け、それを聞き終えた進行役が拡声器を使う。


「ええ、(いぬい)さん、いらっしゃいますか? あ、貴方ですか? こちらへ──宜しいですか」


 呼ばれた男性が、壇上に上がった。

 体格が良く、鋭い眼をした人物だった。

 年齢はたぶん四十代半ば、と言ったところか。

 進行役が乾という人物に話し掛け、しばらくしてお互いが数回頷き合った。

 話が成立したらしい。


「ええ、こちらの乾さんに対し推挙がありました。ご本人の了解を得ましたので、機動班班長をお願いしようと思うのですが、宜しいでしょうか」


 宜しいも何も、こちらはその乾なる人物の事をよく知らない。

 だが、どういう間柄かは知らないが、推挙する人間が居たということは、それなりに人望はある、のか──


「先を越された。俺も野上さんを推してきます」


「だからやめなさいってば横田さん」


 行こうとする横田を野上が止める。


「──では、乾さんに機動班班長をお願いします。乾さん、宜しくお願いします」


 進行役が乾を壇上の中央に立つよう促し、拡声器を手渡した。そしてグラウンドに向け、どうぞ、と片手を伸ばす。

 それを受け、乾は軽く咳払いをしてから拡声器を構えた。


「──乾です。この場に集まっている機動班の皆さん。この状況下、この小学校で避難生活を送ることになったのも何かの縁です。皆で協力しあい、この難局を乗りきりましょう」


 拍手が沸き起こった。短い挨拶ではあるものの、力強かった。

 人を惹き付ける人間というのは、ああいうタイプなのだろう。


 乾が拡声器を進行役に戻した。

 乾は頭を下げ、後ろに下がる。


「ええ続きまして、副班長を四人、お願いしたいのですが──」


 ざわざわし始めた。


「副班長ならいいでしょ野上さん」


 再び横田が言った。


「だから無理ですって。俺はグループの事で精一杯なんだから」


 まだそれらしい事は何もやってないが。


「──野上さんなら、俺も文句ないけどな」


 京介が言った。真顔である。


「きょ、京介君までそんな事を」


 と言いながら、野上は内心、ちょっと喜んでいた。

 本当に、今までリーダー的な扱いを受けた事も、評価された事もない。だから、横田や京介がこう言ってくれる事は、実は嬉しかったりする。


 しかし、実際にその役割をこなせるかどうかはまた別問題である。


 そうこうしている内に、壇上には既に、新たに三人上がっている。


「ええ、あと一人、いらっしゃいませんか」


 再びざわつく。

 すると、下がっていた乾が、進行役と新たな三人を集めて何やら話し始めた。

 進行役と三人が頷く。

 進行役は振り向き、拡声器を使う。


「ええ、乾さんから推挙がありました。お名前は存じ上げませんが、先程の南門の戦闘で化け物を退治した人物は、この中にいらっしゃいますか」


 はいはいはい! と横田が大声で手を挙げ──隣の野上を指差した。



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