二人目の男
男は穴を掘っていた。
長年掘り下げていたものだからその底は深く、毎朝下りるにも、そこへ垂らした綱無くしては、足を折りかねない高さであった。
しかし彼は『まだ、浅い』と、決して驕ることなく、〈真の底〉を目指して土を掘り、汗を流していた。
日に増して、穴は深くなる。
ある日、彼は淡く光を照り返す結晶の層を掘り当てた。ところが、彼はそれに何の価値もない事を見抜いていたので、躊躇なく砕き割り、更なる深掘を望んだ。
同じような事が、その後も何度もあった。その度、彼は無視して掘り進み、深度は日に日に増していった。
やがて穴は、昇降するにも危ういものになった。
しかし、彼は諦めなかった。
毎朝、猿が如き肢体の器用さで綱を伝い、寸暇を惜しんで、穴を掘った。
遂に彼は、穴の底で昼夜を過ごすようになった。それほどまでに彼は〈真の底〉を志向していたのだ。
ところが、地上の澄み渡った空気を吸うこともせず、またベッドに横たえ朝日を拝むこともなく、極めて無秩序な生活を繰り返したらどうなるか。
彼は穴の底で憔悴し、なおも〈真の底〉を目指して、ひ弱な手足を振るっていた。土を足掻く姿は、飢えた犬が埋もれた死肉を漁るのに似ていた。
そのように貧弱な手足では、大した深さを掘ることも叶うまい。
やがて彼は力尽き、硬い土にうつ伏せて死んだ。
(*´_`)。o (読んでいただき、ありがとうございます。次話に続きます)