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真理の穴  作者: kisk
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一人目の男

 男は穴を掘っていた。

 朝日を浴びるとともに起床し、家を飛び出しては、穴の底に足を下ろす。そして只管(ひたすら)、穴を掘り下げる一日であった。

 男は〈真の底〉を望んでいた。それさえ掴めば、内に昂ぶる不満を解消できると確信していた。

 日を増すごとに穴は深くなり、いつしか、穴の底へ至るには、地上から垂らされた綱の助けが必要になった。

 それでも男の掘削の勢いは止まる事を知らない。やがて彼は、掘り下げた底の土に紛れて、陽光を照り返す何か煌めく物が混じっている事に気が付いた。

 『まさか』と思い、彼は更に土を掘り返す。

 彼は驚嘆した。そこには、厚い結晶の層が横たわっていたのだ。空から降りる光を照り返し、その幻想的な淡さは、彼を本能から魅了した。

 瞬く間に彼は、これこそが〈真の底〉であると確信した。

 故に、有頂天になった彼はすぐさま地上へと回帰し、近隣の人々に、その美しさを触れ回った。全ては、己を満たすが為である。人々はその話を聞くと、彼に絶え間ない称賛と祝辞を送った。彼は、『そうだろう、そうだろう』と満足げに頷いていた。

 爾来(じらい)、彼は地上の家を捨て、〈真の底〉である水晶のカーペットに(とこ)(しつら)えた。日が昇る時も、星が天を覆う時も、すべてその魅惑的な底で暮らした。

 時折男の前に、彼の巣穴の底を覗き込む、物好きな人間が現れる。その度男は、彼等に向かって〈真の底〉の神秘性を説いた。もはや、それのみが彼の生き甲斐として成り立っていたのだ。

 彼は水晶の床を、一度も〈真の床〉ではないなどと疑いはしなかった。

 故に、今日も彼の巣穴には、傷一つない美しい水晶が伸びている。

(*´_`)。o (読んでいただき、ありがとうございます。次話に続きます)

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