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煌々と照らされる敵陣の松明の火目がけて俺達は突進する。その音だけでかなりのものかもしれないが、敵に気が付かれて準備が整う前に一気に敵を混乱状態に陥れ、そして長居せず一気に引く。機動力こそがこの作戦の鍵。一気に敵陣との間を駆け抜ける。
敵の陣地が近づく。騎兵突撃はかなりの衝撃力だ、それは精神的な意味での衝撃力も強く、身構えていても、かなり訓練された兵隊でなければ、一糸乱れぬ動きで迫ってくる騎兵には恐れ戦き、その士気を下げる。徴兵されてまともな訓練など受けていないような農民あがりの兵なら下手したら逃げ出す奴もいるだろう。それが、夜襲をかける。敵兵は訓練された兵ばかりだろうが、やはり騎兵の衝撃力に気押されるだろう。瞬く間に敵陣が近づいて来る。俺は隊全体に向かって叫ぶ。
「よし、敵を蹴散らせ、反撃の機会を与えるな! 一気に駆け抜けるぞ!」
剣を抜き俺は馬上で叫ぶ。敵はやはり夜戦の準備をしていたが、それが整う前に俺達の攻撃が敵を襲った。まさか自分達が夜襲を受けるとは考えても無かったのだろう。敵兵は皆それぞれに驚きの顔でこちらを見て、その顔のまま切られて抵抗しなくなる。
「隊長格の物を狙え!」
俺はそう叫び、兵達は一斉に手近にいる目立った行動を取る、指揮官らしき敵兵を切り倒す。俺も目の前の敵兵に剣を突き刺す。返り血を少し浴びながらも俺は敵陣深くに突入する。指揮官クラスの兵を切り倒して行っているからだろう、敵兵は混乱状態から抜け出せず、更に混乱しているようにも見える。その間にも俺達は更に多くの敵兵を切り倒し、更に混乱を招く様に大きな声で叫びながら敵を恐慌状態に陥らせる。
敵兵の少しの反撃を受けながらも俺達は敵陣の中央辺りに着いた。幾つかの幕舎の中に、明らかに周りとは雰囲気の違う幕舎を見かける。
「カイン、あれは敵の大将の幕舎じゃないのか?」
俺に襲い掛かろうとする敵兵を切り倒しながら、カインは返事を返す。
「はい、恐らくはそうでしょう!」
「カイン、やれるか?」
俺の言葉を聞くとカインはその幕舎目がけて馬を駆け、そのまま幕舎をなぎ倒すが、そこには人の姿は見えない。
「ちっ、もうすでにここにはいなかったか。どこか近くにいるかもしれん! 探せ!」
俺はそう言うが、少しずつではあるが、敵の動きに秩序が戻りつつある。もうそろそろ潮時か……俺はそう思い、敵将の捜索を中止させ、カインに撤退の合図をさせる。
「カイン、撤退の合図を出せ!」
俺の言葉を受けて、カインは撤退の笛を吹く。甲高く鳴る笛の合図で、味方の兵は手近の兵を切り倒し、一気に砦に向けて引き揚げていく。引き揚げていく中で完全に秩序を取り戻した部隊が幾つか眼前に迫ったが、それを塊での突進力で突破して行く。いくつかの包囲を抜け、その間にも敵の指揮官を切り倒しながら撤退しているためか、少し敵兵の動きも鈍くなった。そして、砦に近づく頃には敵の追撃はほぼなく、砦に逃げ込むことが出来た。本来ならば追撃を掛けて砦内に侵入を試みれればよかったのだろうが、それを指揮する中級、下級の指揮官の多くはかなりの数が死んだか、負傷しているだろう。これは明日以降の攻撃を敵は繰り出してこないかもしれないな。
そうなってくれれば、援軍が到着するまでの後一日十分に持ち応えることが出来るだろう。とにかく、今夜はもう夜襲の心配はないだろう。砦に帰ってゆっくり眠りたいもんだ。