4話
シャーリーンを直ぐにでも探して回りたい気持ちを抑え、俺は砦に戻る。砦に着いた頃にはもう日が変わっており、新月の今日は月明かりも無い。ただ手に持った松明の明かりだけが俺達の周りを照らしだしていた。
「よかった、まだ襲われてはいないようだな」
外から合図をして跳ね橋を降ろさせる。降り切った跳ね橋を渡る途中、俺の肩に突然の痛みが走る。
「!?」
肩には矢が刺さっている。俺はそれを抜き取る。
「狙われているぞ、松明を消せ!」
とっさに俺はそう言うと、皆は松明を投げ捨る。俺の周りを剣を抜いたカイン達が囲み、周囲を警戒しながら走り出す。幸い俺以外に被害はなかった。偶然とはいえ、一本でも矢が刺さるなんて……しかし、大群が潜んでいるような気配は無かった。少数の敵の斥候部隊が辺りに潜んでいるのだろうか……
門を急いで開けさせ、俺達は砦の中に吸い込まれるように入って行く。
俺は直ぐに開いている部屋に入り、鎧を脱ぐ。幸い利き腕ではないが傷はそれ程浅くは無い。医者に見せたが、毒が塗られているような事も無いようだ。それに少しほっとしたが、当分左腕は言う事を聞かないだろう。
しかし、辺りには全く人の気配がなかった。恐らくボウガンで射られた物だろうが、かなりの遠距離から射られた物だろう。でたらめに撃った物が偶然にあたった? そう考えるのは不自然ではないか? まあいい。とにかく今は来るであろう敵の増援を凌ぐことを考えよう。幸いザイーツが迎撃の準備を終えていてくれている。
「大丈夫かブルース?」
部屋に入ってきたザイーツがあくまで冷静に声を掛けてくる。
「ああ、やられたよ。かなり遠くからやられた。全く気配を感じなかった。相当な手練れか偶然か……まあいい。それより迎撃の準備は整っているようだな」
頷くザイーツ。
「まあ、今晩は無いかも知れないが、恐らく明日には大群が俺達の前に現れるだろう。少なくとも俺達の三倍はな」
ぞっとしない話だ。まあ、それでも俺達は砦の中にいる優位性を捨てる事さえしなければ三日位は持ち応えれるだろう。そのための準備も完璧にザイーツはしてくれているだろう。
「それで、村の方はどうだったんだ?」
唐突に話題を変えるザイーツ。
「散々だった……」
「そうか」
一言そう言うと、ザイーツは部屋を出る。俺は一人になった部屋でベットに横たわり仮眠を取る事にした。
翌朝腕の傷の疼き眼が覚める。
「つつつ……」
寝汗を掻いてかなり不快だった。どうやら熱でも出たようだ。まだ夜が明けたばかり。俺はとにかく汗を流す為に井戸に行き水を浴びる。辺りには見張りの兵がいる位で、ほとんど誰もいない。俺は井戸から水をくみ上げ、それを頭からかぶる。冷たい水が俺の身体を冷やしていく。そうする事で昨日の出来事を総て洗い流してしまいたかった。しかし、現実にはそんな事も出来るはずもなく、油断すると押さえていた感情が直ぐに顔を出そうとして来る。それを抑えるためにもう一回頭から井戸水を被る。
少し気持ちを落ち着けて、身体を拭う。そして、砦の中を少し見て歩く。そうしているうちに、皆ぞろぞろと起きだす。そのそれぞれに声を掛ける。皆俺が負傷したことを知って、心配してくれる。それに俺は元気に返して、健在をアピールする。それによって士気を鼓舞する必要がある。戦場で指揮官が負傷すればそれだけで団が崩壊する可能性もある。まあ、うちはザイーツがいるから俺が怪我をしたところで崩壊する事は無いだろうが、それでも士気に悪影響を及ぼすだろう。
さあ、そろそろ部屋に戻ろう。もうそろそろ準備に掛からなければ。