3話
ようやく村が見えてきた。しかし、遠目に見えだす村のあちこちからは煙が立ち上る。炊事の時に出る様なささやかな煙ではない。明らかに異様な黒煙が、村の至る所から上がっているのだ。
無事でいてくれよ、リーゼ……心の中でそう呟きながらも、俺は部下たちに声を掛ける。
「もう少しだ、急ぐぞ!」
今まで走り通しだった馬を更に走らせる。もう馬の方も限界が近いだろう。馬が倒れてしまう頃にようやく村の入り口に辿り着く。剣を抜き、村の中に入るが、村の中は酷い有様で、無事な者の姿など皆無に等しく、ほとんどが骸になっているか、大けがをしているような者達ばかり。何とか動ける者は怪我人を介抱しているが、その者達の傷だってそれ程浅いわけではない様に見えた。
「カイン、半分連れて残党がいないか村の中を見て回って来てくれ。残りは救助を」
俺がそう言うと、皆は散らばる。そして、俺はそれを見届けると、リーゼの下に急ぐ。そしてたどり着いたそこで俺は全身の血の気が引いていくのを感じる。なぜならそこには血だらけで蹲るリーゼの姿がある。俺はリーゼに駆け寄る。
「リーゼ! リーゼ、大丈夫か?」
抱き起して身体をゆする。薄らと眼を開けるリーゼ。
「ブルース……ごめんなさい……」
「何を謝っているんだ? とにかくよかった、今治してやるからな! しっかりしろ!」
俺はそう言って袋の中から、薬を取り出そうとすると、弱々しく俺の手を止める。
「ブルース……私はもう助からない……その薬は誰かに使ってあげて……それより、ブルース…………」
そこまで話すと、苦しそうに咳き込み、少し血を吐き出す。
「もういい、今は喋るな!」
俺は必死に止血を行い、薬を傷に塗り込む。
「シャーリーンを……シャーリーンを探して……お願い……」
「ああ、解った。必ず連れて来るから。だから今は自分の傷を治してくれ!」
俺の言葉を聞いて安心したのか、少し笑う。
「ありがとう」
その言葉を最後に、その身体からは力が抜け、ぐったりと俺の身体にその身体を預ける。
「リーゼ? おい、リーゼ……」
俺はリーゼの身体を強くゆするが、リーゼは眼を覚ます事は無かった。
「シャーリーンは必ず探し出すからな、リーゼ。だから安心して眠ってくれ」
俺はリーゼの身体を持ち上げ、ベットに寝かせ、長年住んだ家を出る。外では村人たちが互いに協力して助け合っている。それを見て回りながら歩いているとカインが戻ってきた。
「ブルース様」
村を見て回っていたカインが声を掛けてくるが、俺は振り向く事もせずに歩き続ける。その後ろに黙って付き従うカイン。俺は村の外れまで歩いて行き、人目が無くなる所まで行き、無人の民家に辿り着くとそこに入る。
「ブルース様……」
声を掛けるカインに、俺は肩を振るわせて声を絞り出す。
「すまないカイン。少し一人にしてくれ……」
俺の言葉にカインはすぐに従い、そっと民家を出て行く。それを確認するまでもなく俺は嗚咽を漏らし、眼からはとめどなく涙があふれた。もう何も考えたくなかった。しかし、そうもいかないことは 解っている。でも、今だけ、この一時だけはリーゼの為に涙を流したかった。
どれだけ泣いたのだろうか? それ程長い時間ではなかっただろう。一時間か二時間か。まあそれはいい。とにかく顔を洗って、皆の前に行かなければならない。俺の指示を皆が待っているだろう。どんな事があっても俺は紅の翼の団長なのだ。今はこれ以上悲しんでいる時間は無い。それに、すぐにでも砦まで戻らなければならないだろう。俺がいなくてもザイーツならばなんとかしてしまうだろうが、それでも俺は紅の翼の団長なのだ。
俺はそう思うと、水で顔を洗い民家を出る。そして、民家にいた俺の声が聞こえるか聞こえないか位の位置にカインが立っていた。辺りを警戒してくれていたようだ。
「すまなかった、カイン」
俺はそう一言いうと、カインは無言で頷く。そして、カインに状況を聞いて、特に村の方はこれ以上俺達がいても何もできないことが解ると、俺はこの村を出て砦に戻る準備を始めるようにカインに指示を出す。ただ気になる事はシャーリーンの事だ……できればこのまま探しに行きたいが、さすがに自分の事ばかり優先するわけにはいかないだろう……無事でいてくれシャーリーン……