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1話

「じゃあ行ってくる」

 俺はリーゼにそう声を掛ける。いつもの通りリーゼは不安そうな顔をして俺の事を見送るが、それでもそれが俺の仕事だから仕方ない事だ。

「そんな顔をするなリーゼ。大丈夫、ちゃんと無事に帰って来るさ。シャーリーンの事頼んだぞ」

 まだ不安そうな顔をするリーゼをそっと抱き寄せキスする。

「シャーリーンいい子でいるんだぞ? そしたらまた一杯お土産買ってきてやるからな?」

 俺の言葉に嬉しそうに頷くシャーリーンの頭を優しく撫でる。

「よし、行くぞカイン」

 傍らに立つカインに声を掛け、馬にまたがり、村の外に集まる傭兵団『紅の翼』の下に駆け寄る。

「待たせたな、準備は整っているか?」

 俺の言葉に副団長のザイーツ・ケイジオが答える。

「ああ、いつでも出れる状態だ」 

 それに頷く。

「よし。出発!」

 俺のその言葉を合図に、隊列は進みだす。チラリと家の方を見ると、シャーリーンがこっちに向かって必死に手を振っている。

「可愛いもんだな。でも良いのか? 国に帰る時に連れて行くのか? 陛下に認めてもらえるとは思えん。今のうちに手切れ金でも渡しておいたらどうだ?」

 手を振るシャーリーン達を見て俺に話しかけてくる。

「まあ、何とかなるだろう。もし認めてもらえなければ、国を出て傭兵にでもなるさ」

 俺の言葉にザイーツは棘のある言葉で返す。

「ふん、気楽にいってくれるもんだ、お坊ちゃんは」

 まあ、これはいつものことだ。しかしそれも、仕方ないことだろう。俺はイーリスの王子と言うだけで紅の翼の団長になったようなもので、実際の実力も年齢も遥かにザイーツの方が上。俺がいなければ紅の翼の団長はザイーツになっていただろう。そう思うと愚痴の一つも言いたくなるのは解る。俺だって団長なんてガラじゃないのは解っているので、できる事なら変わってほしい位だ。しかし、もともと産出量の少ないミスリル以外資源の無いイーリス。そんな貧乏国のイーリスでは傭兵以外で食っていくしか方法は無い。そして、二個ある傭兵団の片方、紅の翼の団長は昔から王族がやるという伝統がある。全く古ぼけた伝統だが、王族が先頭に立つことで士気が上がる事もある。御飾みたいな俺でも、それなりには役に立っているのだろう。まあ、足を引っ張らない程度には剣も戦略もできるつもりではいる。まあ、せいぜい怪我をしない様に金を稼がせてもらおう。リーズとシャーリーンの為にも。


 行軍を開始してから半日、もう目的の砦は後少しの位置に到着する。行軍の疲れもある。今日はここに野営して、明日の砦攻略に備える。

 野営の準備に追われる兵士たち。飯の準備や幕舎の設営を行っている。しかし、いつもならザイーツが色々と指示を出している所なんだが、そのザイーツの姿が見えない。まあ特に用事が有る訳ではないが……

 設営が終わり、飯の準備が出来たようで、カインが俺の幕舎に食事を運んでくる。それを受け取り、飯を食いながらカインに話しかける。

「ザイーツの姿が見えなかったが、どこに行った?」

 俺の言葉にカインが考え込む。

「そう言えばお姿を見ませんでした。探してきましょうか?」

「いや、まあいい。見かけたら声を掛けておいてくれ。明日の手順の確認をしたいからな」

「かしこまりました」と頭を下げるカイン。

「カイン、下がっていいぞ。お前も飯を食って明日に備えろ」

「では、そうさせていただきます。何かあればお呼び下さい。隣の幕舎に控えておりますので」

「解った」

 カインはそう言うと俺の幕舎から出て自分の幕舎に下がる。カインはまだ若いが剣の腕も随分上がってきた。もう何年かしたら俺なんかじゃ敵わなくなるんじゃないだろうか?将来が楽しみだ。

 カインの持ってきた晩御飯を食べ終わる頃、ザイーツが俺の幕舎に姿を見せた。

「何か用かブルース?」

 そう言って入って来るザイーツ。

「ああ、忙しいところすまんなザイーツ。明日の手筈の確認をしたくてな。」

 俺はそう言って、机の上にこの辺りの地図を広げる。今回の攻略目標の砦はそれ程大きな物ではないが、放置しておくと補給路を叩かれる事になりかねない。後顧の憂い経つための侵攻作戦の前の事前の攻略作戦だ。まあ、俺達傭兵は金さえもらえればいいわけだが、名の通った傭兵団、紅の翼である俺達がこんな所で時間をかける訳にもいかない。あっさりと落として次の戦いに向かわなければな。

「で、ザイーツ。どうする?」

 地図に書かれた砦の位置を見ながらザイーツに話しかける。

「そうだな、川を渡るのに時間がかかってしまってはこちらの被害が増すだけだろう」

 地図上に流れる二つの川。その間の中州に位置する場所に攻略目標の砦が有る。川幅はそれ程無いが、流れが速くかなり深いと、物見に行かせた兵からは聞いている。橋も東西に一つずつ。その何れもが跳ね橋で、俺達が行く時には橋は上がっているだろう。

「しかし、兵糧攻めしている時間もないし、ここは強行突破するしかないだろう」

 俺はザイーツにそう言うが、ザイーツは反対する。

「今後の事を考えるとこんな所で兵を減らしたくない。攻城兵器が有る訳でもないから、強行突破しても撃退されるだけかもしれん。それよりもいい考えがある」

 そう言うとザイーツは作戦を説明しだす。

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