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プロローグ

「久しぶりね、まー坊」


 保育園に新しいお友達が来て、何だかその子を知っているような気がして、不思議に思って見つめていたら突然かけられた1言。

 その1言を聞くや意識が暗転して、直後溢れ出す記憶の濁流。

 3さいのぼくと1つの人生を終えた俺の記憶と心とが混ざって……、どのくらい経っただろうか。

 物凄くうなされたように思う、ふと目が覚めればベッドの上に寝ていて、一瞬自分が誰か分からなくなってしまう。


「俺は……いや、僕は田中たなか 雄星ゆうせいだ」


 口から出せば、ストンと心に落ちる。

 なんだ、悩むまでもない。

 前世の記憶とやらがあるみたいだけど、どうやら記憶があるだけで、心は僕の物だと、何ら変わっていないのだと、何故かそう確信できる。


 いや、勿論影響を受けている事には違いないし、3歳児とは思えない程達観してしまっただろう。

 だけど、僕は僕だ。

 元々記憶が戻る前から切り替えが早かったのが良かったのか、何にしろ自分でも驚く程すんなりと現実を受け入れることが出来る。

 ただ、お父さんお母さんにどう説明するかが面倒なんだよなー。


 うん、それよりも……あの僕の記憶を呼び起こすきっかけになった子に会いに行かなきゃ。


「と、おおおおお?」


 ガバっと起き上がってベッドから降りると、疲労感が体を襲いフラフラとそのまま倒れてしまう。

 痛い。

 正直泣きそうなくらい痛いのだけど、男は我慢。

 歯を食いしばって立ち上がる。


 うん、怪我はない模様。

 しっかし小さい頃って痛みって強く感じるのだなー。

 まぁ、小さくて体が柔い分転んだくらいじゃ大きな怪我しないだろうから、これも経験って事なんだろうな。


 そんな大した事ない事でも感動しつつ、ああ、そうそう、子供って感受性高いよなーなんて思ってみたり。


 って、そんな場合じゃない。

 うん、記憶が戻ったと言うか、混ざった分前よりフラフラと思考が迷走しちゃうように感じられる。

 未だおぼつかない足取りながらも、急ごうと懸命に動かし――。


 ぐぅぅぅぅうううう。


 っと、盛大にお腹が鳴って途端に空腹感を感じる。

 うわー、本当にお腹減った!

 どうしよう、益々フラフラして来たのだけど。


「まぁ、ゆうちゃん! 無理しちゃダメよ」


 頭上から驚いたような声が降ってきて、視線を上げれば扉を開けて入ってきたらしいお母さんの心配そうな顔と出会う。

 そのまま抱きかかえられて、ベッドに連れ戻される僕。


「むー、もう大丈夫だよー」


 とはとりあえず口に出してみるものの、ぶっちゃけ全然大丈夫じゃない事くらい自分で分かっている。

 ただ、分かっている事と納得行くかはどうやら別問題のようで、感情的には全然大丈夫な気がしているから、多分いけると思えなくもない。

 うん、全然ダメなのだろうけどね。


 ほっぺを膨らませる僕に優しく微笑んだ後、額に手を当てるお母さん。

 ひんやりして気持ちいい。


「ほら、まだ頭アチチですよー。

 お腹は減ってない? 何か食べる?」


 ああ、この疲労感とぼーっとして力が入らない感覚は熱から来てるのか。

 なんて思いつつも、多分記憶が戻ったからとすぐに思い当たる。

 となれば、すぐにどれだけ寝てたか気になってきた。


「うん、食べるー。

 僕ねー、どのくらい寝てたのー?」


 腕に抱かれたまま聞けば、ふぅっと安心するかのように溜息を吐き出して口を開くお母さん。


「1週間も寝込んでたのよー。

 本当に良かったわ。

 あら、ごめんなさい」


 しみじみと言っていたお母さんの瞳に光る何か……。

 物凄く心配してくれたんだって、そう分かって僕も物凄い嬉しい気持ちで満たされる。

 っと、しまった。ここは痛いのー? とか聞くべきだったか?

 なんて少し慌てていると、少しだけ目を赤くしたお母さんが優しく微笑みながら再び言葉を紡ぐ。


「さぁ、お母さんがご飯作ってあげますからねー」


 嬉しそうな声色に僕も嬉しくなってくる。

 良かった良かった。


 そんな訳で、お母さんに連れられてリビングへと向かったのだけど……あれ? 何か忘れているような。

 それが何だったのか、体温計を腋に挟みながら一生懸命頭をひねる。


「んー、まだちょこっとお熱残ってるみたいね。

 ご飯食べたらちゃんとおねんねしましょうねー」


 と、いつの間にやらお母さんが体温計を手にし、そう口にする。

 確かにちゃんと治してからじゃないと心配掛けるだけだもんね。

 だから僕は、お母さんが作ってくれたご飯を食べて、そしてベッドに運んでもらって再び夢の世界へと旅立つ。


 結局次の日からが土日だった事もあり、保育園に行くのは明けて月曜日となった。

 これは仕方ない。

 寧ろ土日の間にお父さんお母さんとの距離を確認する事に使えたので、寧ろ僕としては好都合だったかも。

 なんて思っているけど、ただただ普通に甘えただけだった。

 まぁ記憶あるって言っても3歳なんだし、感情に全てを引っ張られるってこんな感じなのかって実感したりした。


 お父さんは明け透けに、起きてからかなり大人になったみたいだななんて口にしてたけど……。

 もしかして気付いてる?

 本当は聞きたかったのだけど、お母さんとずっとイチャイチャしてたし、と言うか3歳の僕相手に本気で嫉妬してたりしたし……うん、ご馳走様って気持ちで一杯になっちゃったよ。

 お父さんとお母さん仲良いね! って言ったら羨ましいだろうーとか早くお前も彼女くらい作って来いやら無茶苦茶言ってたけど。


 ただ、それは日常茶飯事みたいで、お母さんはまたあなたったら、この子はまだ3歳ですよなんて言って、それに対していお父さんが3歳とは言え立派な男だぞ。なー。なんて僕に振って来て。

 ふとぼくのきおくではうんと頷いていた事を思い出せて、慌てて頷いたりしたけど。

 その時、にやっと楽しそうにお父さんは笑みを浮かべていたけど……これ絶対気付いているよね?


 しかもしかも、一緒にお風呂に入ったのだけど、どうせお前は俺の息子なんだ、気楽にしなとか言うし……。

 こちらには有無を言わせないし。

 それがどうしてだろう……物凄く格好よく見えて。自然と将来お父さんみたいになりたい! って口にしていた。

 その言葉に驚いていたけど、どこか照れるように頑張れって言ってるお父さんの姿を見てなんか嬉しくなったなぁ。

 直後、ただ、今後も絶対何があろうと風呂は俺が入れる。今までは不覚を取る事もあったが、今後はお前ちゃんと拒否れよ。なんてドスの聞いた声で言われつつ睨まれて物凄く怖かったけど。


 ……だから、僕は3歳なんだって! 大人気ない!


 この点だけは真似しないようにしようと、そう心に誓ったのだった。

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