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私の背中を押したもの……

作者: 暇人

こんばんは、暇人です。

あらすじの通り、以前書いたものを書き下ろしたものです。恋愛経験が全くない私が、妄想のみで書き上げた産物です。楽しんでいただければ幸いです。

「で、あんた好きな人とかいないの?」

 四時間目が終わり、生徒たちは仲の良い子同士で固まって弁当を食べる昼休み。そんな唯一の心休まる時間の中、あまりに唐突すぎる質問に私こと狩村遥稀は口の中のものを危うくぶちまけそうになった。


「な、何急に言い出すの!」

「だって遥稀。そういう浮ついた話聞いたことないもんね~?」


 目の前の女子生徒こと私の親友三浦香奈は手に持ったパンを頬張りながら周りの友達にアイコンタクトとを取る。因みに香菜は彼氏持ちでつい最近交際一周年を迎えたリア充である。末永長く爆発しろ。


 そんなことを小声で漏らしながら、私はお弁当のから揚げを箸で突き刺して頬張りながら眉をひそめた。


(好きな人は……別にいないってわけじゃ……)


「何? いるの? やっぱいるの!?」

 私の心の声をを見透かした見透かしてないのか、ワザとらしく顔を近づけてきたのでチョップを放ったがかわされてしまう。

「今どきの女子高生は彼氏、いや好きな奴ぐらいは普通に居ないとね~……? 今どきの女子には必須アイテムだよ?」

「男の子をアイテム呼ばわりするのはどうかと思うよ?」

 私のツッコミをスルーしながら香奈がまたため息をついた。


「それは愚か好きな人まで居ないとはね~……。ここに天然記念物が存在した……」

「人を動物みたいに言うな!?」

「え、違うの!? ハルは『人間』っていう動物じゃないの?」

「えぇ!? なんでそうなるの!?」

「だが安心しろ!! 天然記念物はそこまで珍しくないから」

「天然記念物に謝れ!!」


「……じゃあ何? あんたが特別天然記念物じゃなくて何処にでもいるありふれた人間だって言う証拠は在るの? 主に恋愛面で述べよ!!」

「さっきより珍しくなってるし!! あとそれが人間だって証拠になるの!?」

「細かいことは気にしちゃ負けよ~? ででで? 居るのか居ないのか吐いちまおうぜ!!」

「うぅ~……ああもう!! いい加減ほっといてよ!!」

 私は叫び声を上げながら教室を飛び出していった。


 散々香奈のオモチャにされて不貞腐れた私は気分転換のために向かったトイレからおずおずと出てきた。

「ふぅ……」

 顔を洗って大分すっきりした私は、教室に戻りながら先程の香菜の言葉を思い出す。


『今時の女子高生は彼氏、いやせめて好きな奴ぐらいはいないとね~……?』


「好きな人は……居ない訳じゃ……」

 先程心の中で呟いた言葉を溢す。


 別に好きな人が居ない訳じゃない。寧ろ、この学校に入学してからずっと想いに秘めていた人がいる。


 が、今まで一度もまともに喋ったことが、喋れたためしがない。クラスが違うので会う機会が無いことと、その人が女子の中で人気であることも要因ではあるが、一番の原因は私のヘタレっぷりだ。


 目を合わせられない、会話が続かない、顔を見せられない、近づいたら速攻で逃げる何てしょっちゅう。仮に手なんか触れれば悲鳴上げて即倒する自信がある。


 まぁ今述べたとおり、それほど私は恋愛に奥手(らしい)なのだ。


 この前彼が向こう声をかけてきたというまたと無いチャンスに、私は顔を真っ赤にするだけで目をあわすことが出来なかった。剰え、一言二言だけ言葉を交わしただけで逃げるようにその場を後にしたことは記憶に新しい。


 あの時の対応を思い出すだけで背筋が凍り、自らへの怒りがこみあげてきて、いつの間にか手で胸を締め付けている異なってしょっちゅうだ。


 そのせいか、彼はそれっきり声をかけてこなくなった。おそらく、いや絶対変な女だって思われているだろうな~……。やばい考えただけで気持ちが沈んできた……。


 別に親しい関係になりたくないわけではない。でも、離れたところで彼の楽しそうな笑顔を見れるだけで心が満たされてしまうのだ。でも、出来ればその笑顔を一番近いところで、自分に向けられているところが見たい、という想いもある。


 今の私は今の関係のままで良いというヘタレな自分と、もっと近付きたいと言う欲望に忠実な自分に板挟みにされている状態だ。


(いっそ告白しちゃおっかな……)

 そんなことを口走っても、それを言葉にするだけでへタレの私には行動に移すだけの勇気も行動力もある訳が無い。


(あぁ……どうしよう……)

 心の中で深い溜め息を溢しながら、俯き加減にトボトボと廊下を歩く。


「ねぇねぇ、あれって桐畑くんよね!?」

「たぶんそうだよ!! うわぁ~、生で初めて見た!!」

 ん? 何か周りの女子が騒いでるな~……、まぁ関係ないことでしょ。


「ねぇ、ちょっと! あの子誰?」

「見た感じ二年生かな……? てかそんなことよりあのままじゃ……!?」

 不意に女子たちの陰り始めた声に私は眉をひそめて顔を上げた。


 その瞬間、視界が真っ黒に染まった。


(え!? ちょちょ、何これドッキリ!?)

 突然のことに私は闇雲にジタバタと手を動かす。


 すると、不意に腕を掴まれた。


 側で「何あれ!! 誰なのあの子!!!」「羨ましすぎるんですけど!!!」と女子の声が聞こえる。


 真っ暗だった視界が一気に開き、目の前にうちの学校の制服、正確に言えば男子のネクタイが見えた。その瞬間「ひゃぁ!?」と声を上げてその場で尻餅をついてしまう。


「痛ったぁ~……」

「ケガは無い?」

 強打した尻を擦っていると不意に声をかけられた。そして上を向いた瞬間、私の思考は一時停止した。


 そこには、一人の男子生徒が心配そうに私に手を差し伸べていた。


 数秒固まっていた私は我に返り、差し出された手を恐る恐る掴んだ。途端、周りから悲鳴みたいな声が聞こえるが無視して立ち上がり、もう一度男子生徒を見る。


 彼のことは知っている、いや知らないわけがない。


 彼の名は桐畑結城。


 私と同じ学年で容姿端麗、頭脳明細、スポーツ万能、おまけに性格がいいとすべてを網羅した完璧超人である。それ故、この学校には彼のファンクラブが乱立し、彼の懐に居座るべく日夜衝突を繰り返している。


 そして、私が想いを寄せる好きな人(ひと)でもある。


「……大丈夫?」

「あ、はい!! 大丈夫です!!」

 心配そうに覗き込んできた彼の言葉に我に返り、私はスカートを払うふりをして顔を背ける。気が付いたら彼の顔が目の前、何て不意打ち過ぎるし、今すぐにでも心臓が爆発しそうなほど暴れ狂っているのが分かる。


「えっと……だい……」

「あ、ありがとうございました!! じ、じゃ!!」

 彼の言葉を遮るように、真っ赤な顔を見られたくない一心で素早く頭を下げて彼の横をするりと抜けて逃げるように走る。


「あっ!! ち、ちょっと!!」

「何あの子、感じ悪っ」

「桐畑君がせっかく声かけたのに……ムカつくんだけど」

 後ろで彼と周りの非難の声が聞こえたが、振り返ることはなかった。いや、振り返ることが出来なかった。


 思わず零れた涙を見られたくなかったから。


(あぁ、もう!! 何でこんなにヘタレなのよ~!!)

 心の中で自分に悪態を付きながらものすごいスピードで教室へと向かっていった。



◇◇◇



 次の日、私は学校の屋上で一人寂しくパンを頬張っていた。


 香奈は『彼氏と食べるから』と小悪魔的な笑みを浮かべて報告してきたので、今日はいない。


「リア充爆発すればいいのに……」

 そう溢しながらパンを頬張ったその時、不意にドアが開いた。

「あ……」

「あっ……」

 屋上のドアが錆びた音と共に桐畑君が出てきたのだ。手には購買で買ったらしいパンの袋がぶら下がっている。


 私は思わず顔を背ける。昨日の事があるせいか、何時もより顔が熱い。

 彼はそんな私の姿を見つめながら苦笑して、無言のまま側のフェンスに背中を預けた。


 そのまま二人は一定の距離を保ちながら一言もしゃべらずに黙々とパンを頬張っていく。


 これ何かしゃべったほうがいいのかな? いやでも、昨日顔を知られたばっかだから手前が悪すぎるし、何より彼となんか面と向かって話せない。


 てか今更だけど昨日手を掴まれても卒倒しなかったのは何でだろ? 私卑屈過ぎだったかな?

 「そういえば……」

 不意に彼が思い出したように呟くと、ポケットに手を入れて何かを取り出し、それを見せながら近づいてきた。


 彼が見せてくれたのは昨日私がなくしたと思っていたハンカチだった。


「狩村の……だよね?」

(何で私の名前を…!?)

 と言いかけたが、そのハンカチは小学校のころから使っているもので、ばっちり名前が書いてある事を思い出す。


「あ、ありがとう……」

 私は顔を見られないよう注意を払ってお礼を述べ、そろそろと近づきそのハンカチをもらおうと手を伸ばした。しかし、私の手を空を切った。


「へっ?」

 思わず顔を上げると、目の前に彼の顔があった。


(…………は?)

 私の思考回路が今度こそ完全に止まった。

「…………」

 彼は無言で私の顔をマジマジと見つめてくる。当のハンカチは彼の頭上高くにヒラヒラと靡いている。彼の息が、微かに私の唇に当たる。


 ようやく思考回路が動き出し、途端に顔が真っ赤に燃え上がる。


「ちょ、ちょ、ちょ!!!」

 私は急いで後退りしようとする。しかし焦りすぎたせいで足が縺れて体勢が一気に崩れた。


「危ないっ!!」

 彼がそう叫ぶと私の手を掴んだ。汗ばんだ手に男子らしい力強い握力に少し顔をしかめる。


 彼は力付くで私を引っ張り上げた。

「危ねぇ~……」

 彼は私が倒れなかったことに安堵の息を漏らすが、私は今なお掴まれている手に目を釘付けにされていた。


「大丈夫だった?」

「……は、はい」

「ごめんごめん。ちょっと顔が見たくて……」

「へぇ!? ちょ、それはどういう意味!!?」

「へ? いつまでも下向いてるからどんな顔が見たくなっただけど?」

 彼は首を傾げながらそう言うと、何事もなかったかのように握った手を放した。


(あっ……)

 と言いそうになった言葉を呑み込みながら私は何となく握られた手をぎゅっと握りしめた。そんな私を不思議そうに見つめていた彼は再びハンカチを差し出してきた。


 握られた手に夢中だった私は数秒遅れて再び手を伸ばす。しかし、私の手はまたもや空を切った。

「えっと……」

「返してほしい?」

 不敵な笑みを浮かべながら聞いてくる彼に何を当たり前のことを言ってんの? と言いたくなったが何とか押し込めて私は無言で頷いた。

 彼は笑みを溢してまたハンカチを差し出す。が、彼はまたもや私がハンカチに触れる前に頭上高く上げる。


「返してください……」

 流石にイライラしてきた私は自分が出せる精一杯の声を絞り出し不機嫌であることをアピールする。しかし、彼は不敵な笑みを浮かべてハンカチを顔の横でヒラヒラさせるだけだった。そんな彼の行動についに私の闘争心に火が点いた。


「か、返して!! 返してよ!!」

 私が叫びながら手を伸ばすと、彼はひょいと体をずらしてその手からスルリと避ける。

「よ、避けないでくださいよ!!」

「そんな形相で飛び掛かられたら避けない訳にはいかねェよ!! ほらほらこっちだ!!」

 エサに飛びつく猫のような俊敏な動きで飛び掛かる私を、彼は見事なフットワークでかわしていく。


「ほ~らほら! それじゃ取れないぞ!」

「そ、そんなこ……、ひぎゃ!?」

 足が縺れ、女の子らしくない悲鳴をあげて私は倒れた。固いコンクリートに頭をぶつけたらしく、後頭部がジンジンと痛みがする。


「いてて……」

 頭をさする私に、彼は笑いをかみ殺しながら手を差し伸べてきた。私は思わず差し出された手につかまろうと手を伸ばしたが、伸ばした手を引っ込ませて、ぷいっと横を向いて不貞腐れた。


「私をからかう様な人の手なんか借りませ~ん」

 そう言うと、私は自力で立ち上がる。その姿を苦笑いで見ていた彼と顔を見合わせ、そのまま一緒に吹き出した。



◇◇◇



「なんかさ……、意外だったかも」

 散々笑った後、私は不意に呟いた。

「何が?」

「桐畑君がこんなキャラだったなんて」

「俺を何キャラだと?」

 彼が少し困ったような顔で問いかけてくるので、私は口に手を当てて少し考えた。


「どこぞの裕福な家庭に大切に育てられて、世の中の柵を全く知らない純情なお坊っちゃんキャラ」

「やめてくれ、変なレッテル貼られる。てか周りのイメージそんな感じなの?」

「違うよ、私の個人的な解釈と妄想」

「頼むからすぐに変えてくれ……」

 彼の心底嫌そうな顔に、私は思わず笑みを溢した。


 そのまま二人でたわいもない話をしながら屋上から見渡せる風景をぼーっと眺めた。

(不思議……、さっきまで目も合わせられなかった人と、ちゃんと話が出来てるなんて……)

 今まで顔すら見ることが出来なかった人とこうも自然に会話ができている自分が信じられない。彼の誰にでも臆することなく同じように接してくれる雰囲気と、その太陽みたいな温かいオーラのおかげかもしれない。


 やっぱりすごい……、と私は声を出さずに口パクで呟いた。

「狩村ってさ……」

 そんなことを思っていたら突然彼が声を上げた。

「ん?」


「俺のこと嫌い?」

「……はい?」

 突然の、しかも変化球すぎる質問に、私はうまく受け取ることが出来ず、代わりに間抜けな声を出した。


 彼は少し寂しそうに前髪を弄りながら続ける。

「だって昨日俺と面と向かったとき、顔を見せずにサッサと行っちまっただろ? その前なんか一切顔を見せずに一言二言喋っただけで行っちまったじゃん? 俺初対面でも仲良くなれるヤツだと自負してたんだけどさ……、狩村には嫌われてるんじゃないかって思ってて……」

 彼は何処かさびしそうな顔でそう呟いた。そんな事を聞いた私は思わず声を荒げそうになった。


 恋心から彼を避けてしまうのは私がへタレすぎるのが原因だ。それに、今彼と普通に話してるから初対面でも仲良くなれる彼の性格は認識通りだ。むしろ、昨日のことはおろかその前のことまで覚えてくれてたことに驚きなのだけど。


「そ、そんなことないよ……。桐畑君はカッコイイし、性格も良いし……逆にあたしのことを覚えててくれるなんてこっちが驚きだよ……」



 私はそう言おうとした。しかし、心の中の何か(・・)がその言葉を呑み込ませて私の顔に小悪魔っぽい笑みを作らせる。



「これでも結構イケてると思うんだけどな~…」

「何? 『俺ははかっこいい!!』って言いたいわけ?」

「うん」


 真顔で即答する彼に私は若干引いてしまった。しかし、其処で黙っていればよいものを、何か(・・)はまた私の口を使ってこう言わせた。


「……、つまり、私は普通の女の子じゃない、って言いたいわけ……?」

「違う違う!! ただその!! な、なんていうか……。め、珍しいな!! ……って思っただけでだ!! 本当だからな!!」

 顔を赤くさせながら弁明する彼にジト目を向けながら、何か(・・)は再び口を開いた。


「正直、タイプじゃない」

(なんてこと言うのよ!!!)

 私は思わず自分の顔に拳を叩き込もうとした。今身体を支配している何か(・・)を追い出そうと何度もこぶしを振り上げようとする。が、私の体は完全に何か(・・)支配されているらしく指一本動かせなかった。


「ひっでぇ~……」

 彼はそう声を漏らすが、その顔には何故か笑顔が浮かんでいる。


「ま、別にかっこよくないとは言わないよ。むしろかっこいいって思うわ」

 私ではない何か(・・)が何となくフォローすると、彼は不意に顔を背けた。かろうじて見える耳は、真っ赤になっている。


「……き、急にどうした? 変に褒めて……?」

「この学園の女子を敵に回したくないだけよ」

 彼が恐る恐る聞いてくるのを、何か(・・)は私の口を使い、素っ気なく返した。


 さいですか……、と彼は少し残念そうな顔で、そばのフェンスに寄り掛かる。


その時、強い風が吹き、私の髪が風に吹かれて乱れる。

「あッ……」

 そう呟きながら何か(・・)が私の前髪を手早く直すのを彼が何処か考え込むように見つめてきていた。


「何?」

「決めた!」

 彼がそういうと寄りかかっていたフェンスから急いで身を起こし、私に近寄りながらこう宣言した。


「今日から……、俺はお前を落とす!!!」

「……はい?」

「だ・か・ら、お前を落とすの!!!」

屋上(ここ)から?」

「なわけあるか!!?」

 意味が分からないという私に、彼は顔を赤くさせながら続ける。


「これでも『学園の貴公子』なんて呼ばれてんだ。今更女子の一人は二人、落とせないなんてことはないはずだ!! それに、お前を落とせなきゃその名、もとい名づけ親の英彦がが泣くからな!!」

 彼が言った秀彦というのは、彼が所属するバスケ部の顧問であり、彼が絶大な信頼を置く先生である。というか先生、自分の教え子にそんな名前つけないでください。


 そう心の中で突っ込みながら、私は小さく笑みを溢した。もう落せてるよ……、と心の中で苦笑し、私は彼に顔を向け一歩踏み出しこう言った。


「やってみなさいよ!! この学園一理想が高い女(自称)を!!」


 この言葉は、何か(・・)が私の口を使って言ったのではない。私の意志で、私の言葉でこう言ったのだ。


「自分で言って恥ずかしくないの?」

 急にテンションが下がった彼の冷めた目とトーンで突っ込まれて、急に恥ずかしくなる。

「うっさい!! てかハンカチ返してちょうだいよ!!」

「や~だね、っと!!」

 飛びつく私を華麗に避けながら、彼は屋上のドアへと消えていった。

「ま、待ちなさいよ!!」

 私はそう叫びながら彼の後を追う。


 ドアを開け階段を数段飛びで降りる時、私はふと立ち止まり振り返った。


 其処には無機質なドアと、錆びついた掃除ロッカーがある。人の気配なんて微塵も感じられない。


 しかし、私はその場所に誰かが居る様な、そして自分に笑いかけているような気がしたのだ。そう思うと、何故だかわからないが急に顔に笑みが零れた。


「……ありがと」

 私はそう笑顔で呟くと、急いで階段を降りて行った。


 その時、私の耳に微かだが、本当に微かだが、こう答える声が聞こえたような気がした。


『頑張れ』と……――――。

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