いち
捨て猫と言うものは、産まれながらに色々な物を傷つける。元飼い主のかすかな良心であり、親であり、自分自身も
まぁ悪いのは全部人間なんだけど
「あーら、あんたたち可愛いねぇ」
マンションのチャリンコ置き場に猫がいた。三匹も。段ボールに入っていると言うことはどうみてもここで飼ってるとは思えない
「はいはい。お母さんね。お腹すいたねー」
あたしの家には先輩方がいるよー、と三匹を抱き上げて階段を上がる。このマンションはペット可なのはいいがエレベーターが無いのが辛い。なんでも犬を抱き上げないでエレベーターに載られたら犬に何かあってからでは遅いからだそうだ。確かにそうだ。人間の少し苦労くらい犬の命にくらべればと思う。だからこのマンションが好きで離れられない
「おっと」
階段の曲がり角で人にぶつかってしまった。ぎゅっと猫を持つ手に力を入れてふんばった
「わ、悪い」
「あ、大丈夫ですよー」
猫からぶつかった人に目線を移した。金髪でスーツ姿の顔の整った男、こんな奴このマンションにいたんだ
「それ、猫?」
「あ、うん」
「見せて」
愛想良く笑う金髪に少し警戒しながら三匹とも渡す。慣れた手付きで猫を撫でる金髪。猫、飼ってんのかな?顔に似合わずだ
「ミルクあんの?」
「あー、あったかな?」
「ちょっと待ってて」
猫を優しく手渡してどっかに向かった金髪は猫を抱えたあたしの腕を掴んで階段を上がり始めた。ちょ、手の甲が軽く乳に当たってんだけど。と腕を振り払いたかったが猫が居るので我慢した。金髪が止まったのはあたしの部屋の隣。え、お隣さん?
「えっとお隣さん?」
「知らなかった?」
「最近引っ越してきたの?」
「三年も前だけど」
あ、ごめんなさい。と謝る。確かに挨拶に来たような、ないような。都会だから挨拶なんか珍しいって思ったんだか、思ってないんだか。記憶がショボい
「ちょっと待っててね」
玄関を開けて戸棚を漁り出す金髪。あたしはドアのストッパーに徹した
これ、差し出されたのはミルクとほ乳瓶。きちんと猫用と記されていた。受け取ろうと思ったが両手が塞がっていて無理だ
「ちょっと、ケツポケにある鍵取って」
「え、」
「はやくー」
じたばたと足踏みして急かして鍵をとってもらった。開けて、とあたしの部屋のドアを開けて貰い招き入れた
「入って、ちょ、机までそれ」
「え、」
「両手が、ってドア閉めて!」
「わりぃ」
靴を脱いでスーツ姿で片手にミルクとはなんとも奇妙だ。哀れ、金髪
「すげぇ」
「あぁ、この子たちね全部で6?いや、七いるの」
うじゃうじゃと湧き出る猫達は金髪に群がって匂いを嗅いでいたがすぐ興味を無くしソファーに座ったあたしの腕の中にいる新人達に群がった
「俺、ポツンじゃん」
「コッチきなよ」
ポンポンと隣を叩いた
「あー」
「ミルクくれたからお礼しなきゃ」
でも、ミルク上げるまで待っててもらわなきゃだから座ってねとまた隣を叩いた。金髪を座らせてケトルでお湯を沸かしてミルクを作った
「はーい。ごんちゃんおいで。まずは君からだ」
「ご、ごんちゃん?」
「おいしいねー。そー、コイツはごんちゃん」
にゃーと聞こえて先輩方にご飯をあげてなかったと思い出す
「ちょ、金髪くん。そこのキャットフード先輩方に小袋を2つうまい具合に七人分。平等にね!」
「わ、わかった」
三匹目もあげおわり先輩方のお水を汲みに行く。金髪くんはキャットフードを入れたとたんに集まる先輩方にびびりつつも淡々とキャットフードを分け続けた
「いやーごめんね、なんか」
「や、いいけど」
「あ、どっか行く予定だった?」
金髪にお茶を出して、あたしは独りご飯を食べる。金髪はお茶に手をつけず三匹を撫でくりまわしている。笑顔で。なんだか違和感があるけど微笑ましい
「あー仕事だったけど休んだ」
「休んだ!?」
「猫可愛いからさっきメールで」
「だ、大丈夫なの?」
「余裕」
そんな仕事があるのか、知らなかった。けしてここは家賃は安くないのに大丈夫なのか?
「金持ちなんデスネ」
「No.1ホストですから」
・・・ホストだった。隣人、ホストだった