少年少女の恋愛物語
「アハハ、アハハハハ!!」
「アハハハハハハ!!!」
突然、暗闇に響いた声。
反響した笑い声は、あまりにも甲高かった。
「今日も格好いいね」
「そう? ありがとう」
強い日差しが照りつける通学路の並木道で、二人の小柄な中学生が並んで歩いていた。後ろで話す小学生たちには目もくれず、手を繋いでゆっくりと。
「ねぇ、これからどうする?」
「とりあえず、僕は百均の包丁とかピーラーとかを買おうと思ってるけど」
「もう水槽は買って置いてあるし、私は水を張ってくるよ。それぞれで別行動して集合にしようか」
「了解、夜十時に二人の家の前に集合でいい?」
「おっけー、去年と同じようにだね」
「去年みたいに失敗したら困るけどね」
そう言って笑う二人の声は、普段より少し高い。
まだ両親の許可がないと遊びに行けない若い彼らにとって今日は、年に一度、何をしても許される楽しみな日なのだ。
二人は大きな期待を胸に、別の方向へ歩き出す。
陽は沈み、異様な静けさを放つ午後十時の住宅街。
周囲に街灯はなく、それぞれ大きな荷物を背負った二人を照らすのは、僅かな月明かりだけ。
「今年の作戦、上手くいくかな?」
「長い期間かけて準備したんだ。成功してくれないと困る」
「それもそうだね。私たちもこの一年で成長したし」
「今年こそは」
「うん、今年こそは」
少年少女は力強く頷き合い、家の庭に足を踏み入れた。
数分後に二人がいたのは、薄暗く何もない地下室。
部屋の広さは四畳ほどで、高さは一メートルと少し程度。ほとんどの大人が、入るのを断念するであろう狭さだ。
床や天井、壁は一部を除いてデコボコしていて、まるで小学生が作った砂山のようだ。
そんな歪な地下室は二等分され、少年が持ってきた布団や包丁、ピーラーが半分を占めている。もう半分には、少女の荷物が置いてあり、横幅が二メートル弱ほどの大きな水槽に、水だけが張ってあった。
「今年はこのあと、自由行動でいいんだよね?」
「そうだね、それぞれで目的を達成しよう」
少女の確認に、少年は笑顔で答える。
コップに入れられた炭酸ジュースを、二人同時に持ち上げた。
「それじゃあ、作戦の成功を祈って、」
「「乾杯」」
少年の包丁から、濃い赤色の液体がドロリと垂れて、布団の染みをさらに広げる。
ピーラーからは、薄橙色の紙のようなものがぺらりと落ちた。
小さな少年の布団には、ピクリとも動かない少女。
小さな少女の水槽には、穏やかな表情で眠る少年。
「「これで、ずっと一緒にいられるよね」」
二人の口から異口同音に発された言葉は、告げられた相手である中学生の二人に、届くことはない。
「アハハ、アハハハハ!!」
「アハハハハハハ!!!」
二人の笑い声が、狭い地下室を支配する。
声は、低く唸るような音となって反響した。
作戦の成功を喜ぶ二人とは対照的に。
中学生の二人の無念さに呼応するように。
狂ったようなその笑い声は、甲高いまま響き続けた。




