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主役になれない傷モノ令嬢は、宮廷魔術師に抱擁される   作者: 米野雪子


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ほとんどお見通しでした



ペンのインクが無くなってしまった。ストックもない。

申請書をガリガリ夢中で書いていたら、これである。

使用人もいないし、自分で買いに行くしかない。


文房具店に向かって歩いていると、見覚えのある人が前から歩いてくる。

いつものローブ姿じゃないから一瞬誰だか分からなかった。

シンプルな白シャツと黒パンツ、美形は何を着ても似合う。



「リリィ?」


「……ヴァレリー様…」



気まずい…あまり関わらないようにと避けていたのに。

何て爽やかな笑顔で声を掛け来るんだ、この人は。



「出掛けるのかい?」


「はい。インクがきれてしまって」


「文具店?」


「ええ」


「じゃあ、一緒に行こう。俺も用事あるから」


「え?いえ、ヴァレリー様もお出掛けなのでは?ご迷惑かと…」


「何か他人行儀だね。俺は君と結構仲良くなったと思ったのに…傷つくな」


「そんな事は…」


「俺のこと避けてるよね?」



低い声にドキリとした。あれ?もしかして怒ってる?

でも…約束通りランチは提供してるし…

チラリと上目遣いで彼を見ると、悲しそうな顔をしている。



「俺…何かした?」


「え?いいえ?」


「じゃあ、何故ランチボックスを魔法塔に届けるの?」


「…あの…お約束はお昼を提供する事で…」


「俺は君と一緒に食べたいと思っての提案だったんだけど?」


「それは…すいません。私そこまで理解がおよびませんでした。

 でも、お忙しそうだったので…その方がいいと思ったのです」


「俺が忙しくて行けなかった時に代理にランチボックスを

 受け取りに行かせたけど、何かあった?」


「……いいえ…特には…」


「あいつが何か言ったんだね?」



なぜ、こんなぐいぐい追求されているんだろうか。

でも、言わないと解放されなさそう。



「あなたと…どんな関係なのかと…聞かれただけです。

 よく考えたら、第三者から見れば2人きりでランチなんて…

 良からぬ噂になってしまうかもしれないと…私が勝手に解釈しただけです。

 なので、彼女を非難しないでください」


「そうか…俺とは親しくなりたくないと?」


「……え……」


「俺はリリィと親しくなりたかったんだけど」



何言ってるのこの人…

私…今それどろじゃないのに。



「とりあえず、友人になってくれないかな?」


「友人?」


「うん」



それくらいなら…でも、このタイミングで親しい異性をつくるのは…

彼も巻き込んでしまうかもしれない。



「あの…嫌ではないんです。ヴァレリー様がいい方なのは分かっています。

 話してても楽しいですし…でも…少し待って頂けないですか?」


「なぜと聞いても?」


「私…今…身内で揉めているのです…それが解決すれば、

 心おきなく友人としてお付き合いできるかと…」


「俺は力になれない?」


「すいません、巻き込みたくないんです。私の問題ですし。

 …それに、このブレスレットだけで充分です」



そういえば、旦那様に腕を掴まれたとき、これは発動しなかった。

どういう時に発動するのか、確認しておいた方がいいかもしれない。



「あの、このブレスレットはどういう時に発動するのですか?」


「命の危機に瀕した時、あるいは君が強烈な拒否反応を示した時。

 主に貴族の令嬢が身につけているね」



そうか…あの時は命の危機もなかったし…怖くはあったけど。

拒否反応というかフラッシュバックして茫然とした感じだったし、

だから発動しなかったんだ。

暗殺や誘拐、意にそぐわない貞操の危機予防なのね。

なるほど…そうしないと頻繁に発動して大変な事になるもの。



「俺のことは、嫌いで避けているんじゃないんだよね?」


「はい」


「分かった…その揉め事は、解決できそう?」


「今頑張っています。解決したら、お話します」


「約束」


「え?」



そう言って小指を差し出した。ああ、指切り?

そっと指を引っかけるとぐっと指を絡めて押さえられ、

体を屈め小指に口付けを落とす。

粋なりの事に固まってしまった私に、顔を傾け唇の端を上げる。

うわ…何すんの…てゆうか、その顔ずるい…



「約束したからね?」


「は…はい…」


「でも、もし身の危険を感じたら、俺を頼って欲しい。

 君は女性だから、力では男に敵わないだろ?」


「はい…ありがとうございます」



あれ?具体的な話してないのに、大体ばれてるっぽい?



「やっぱり男がらみか…」


「あっ」


「カマかけたら、あっさり薄情したね。はははっ」


「……………」


「ごめんごめん。君嘘付けないんだね。苦しそうに言い訳してるからさ。

 大体想像付くけど、離縁申請するなら凄腕の調停官紹介するよ?」



全部ばれてる。この人私が既婚者だって知ってたんだ。

指輪してないのに…てゆうか貰ってないけど。何で?魔法使ったとか?

私がグルグル考えているのが分かったのか、ニコリと微笑んだ。



「魔術師ってね、人の心を癒すカウンセリングみたいなのもするんだよ。

 だからその人の顔を見れば、何に悩んでいるか大体分かるんだ」


「そうなんですね。ビックリしました。

 でも、あの、それ以上聞かないでください…全部言ってしまいそうなので…」


「踏み込みすぎたね、ごめん。調停官はどうする?

 こいつ法務部にも在籍経験あるから、最強だよ」


「お言葉に甘えます。これから探す予定だったので」


「すぐ手配するよ。もしかして、もう家出てるの?」


「えっ!何でわか…」


「休みの日にこんな所に1人で歩いてるから。

 それに司書は休日出勤ないだろ?大方寮に入居中かな?」


「あ……」


「ははははっ、もう離縁の準備してたんだね。ごめん、もう聞かないよ」


「…………」


「ちなみに俺は休日出勤の帰り。魔法塔は人使い荒いんだ。

 魔術師自体数が少ないから仕方ないんだけどさ」


「そうなんですね。お疲れさまです」


「だから、リリィに会えて嬉しいよ。

 まあ、来週あたり何で俺のこと避けてるのか図書館に行って問い詰め…

 いや、聞きに行く予定だったけどね」



この人は、知らないのだろうか。

貴族の間では “あの王弟殿下の事件” は相当噂になったはず。

それとも知っていて、私にちょっかいかけて来てるのだろうか。

だから、警戒は解かない方がいい。

味方の振りして近づいて、影では私を笑い者にしていた人達を知っている。


でも、そうじゃない場合は?

そもそも、何で私を気に掛けるのか分からない。

この人なら、女性なんかいくらでも引く手数多だろうに…


そのまま一緒に文具店に行き、無事インクを購入。

ヴァレリー様は、大量のクズ魔石を購入していた。

なんでも付与魔法の試しに使うそうだ。


なぜか寮の前まで送られ帰宅。

まあ、もうばれてるし。


そして、落ち込んでいた気持ちが、

軽減されているのに気づいたのだった。



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