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主役になれない傷モノ令嬢は、宮廷魔術師に抱擁される   作者: 米野雪子


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怪我と侍女の怒り



「司書長、診療所に行きたいので…少し抜けていいでしょうか?」


「え?何?具合悪い?」


「実は…」



今朝あった事を話した。


そして、腕の痛みが引かない事も。

腕まくりして見せると青紫に膨れあがっている。

これはあまり良くない。



「嘘でしょ…何これ…骨折れてるんじゃない?」


「朝はなんとも無かったんですが、徐々に痛みだしてこんな状態に」


「いいから早く行きな!あ、診断書ちゃんと貰うんだよ。

 離縁の証拠になるから」


「はい、では行って来ます」


「ねえ、引っ越した方がいいわよ。やばいよ、あんたの旦那。

 女の腕そんなに強く掴むなんて…」


「私が呼び出し無視したのが、気に入らなかったみたいで…

 イラだってましたから…感情的になったのかもしれないです。

 今すぐにでも出たいんですけど…あと1ヶ月は耐えなくてはいけないですし」


「いくら感情的になってようが、紳士のする事じゃないわ。

 自分の思い通りにならない女が面白くないからって…

 寮は掃除すれば、入室可能だってさ。早くて一週間後」


「本当ですか?助かります」



あと一週間か。



同じ館内にある診療所の受付で問診票を書いて、

順番待ちしていると、名前を呼ばれて診察室に入る。


結果、骨にヒビが入っていた。

動かすことは出来るが、固定のギプスを巻かれ、

なんとも大げさな見た目になってしまった。


診断書も貰い、お昼前には図書館に戻る。

全治1ヶ月で重い荷物が持てないため、受付専属になってしまった。


お昼休みにいつものベンチにいると、ヴァレリー様も遅れてやってきた。



「やあ、リリィ」


「お疲れさまです。ヴァレリー様」



ランチボックスを渡すと、私の腕を見て体を揺らした。



「左腕どうしたの?」


「あ…これは…」



どうしよう…夫にやられたとは言えない。

この人とは、そこまで踏み込んだ話をするほど、付き合いも長くないし、

まだ知り合ったばかりのこの人に言うべきではない。

見掛けのわりにいい人そうだし、こんな面倒事に巻き込みたくない。



「今日の朝自宅で、転んだんです…ヒビがはいってしまって」


「そうか、痛くない?」


「はい。痛み止めも貰いましたし、ギプスで動かしにくいだけです」


「うん……少し見せてくれる?」


「はい?」



私の腕の上にそっと手をかざした。

しばらく目を閉じていたが、眉をしかめて目を開けた。

その青い瞳は、何かを考え込んで遠くを見ている。


そうだ…この人魔術師だった…

何か見えてしまったのかもしれない…



「これ、転んだの?」


「え?ええ…」


「そう…それにしては……」



まずい…不自然だっただろうか。

でも、話すわけにはいかない。

お願いだからこれ以上深入りしないで。



「あ、あの大丈夫ですので、心配しないでください。

 お昼食べましょう?」


「ああ、そうだね」



お昼を食べながら、当たり障りのない会話をした。

時々この怪我の確認のような質問をされたが、

それも当たり障りない回答に留めた。



「そうだ。お昼はどれくらいの期間ご用意しましょうか?

 この付与の価値から考えて、一生用意しても足りませんが、

 それだとヴァレリー様のただでさえ忙しいお仕事や

 プライベートを侵害してご迷惑だと思いますし…ご希望ありますか?」


「俺の我が儘が通るなら、一生用意して欲しいけどね。はははっ

 でも、そんなに恐縮する必要ないよ。この魔力は生まれつきのギフトだし、 

 それを役立てるのは、魔力を持った者の役割であり宿命だからね」


「でも、そのせいで危険な任務についたり…

 自由があまりないんじゃないですか?

 ヴァレリー様はそれを望んだんですか?」


「……君は優しいね。俺の立場で考えてくれるんだ」



まずい…ちょっと待って、この人本当にいい人じゃない?

だから、なおさら巻き込めない。



「勝手に治癒できないから、今はこれだけ」


「えっ」



ふわりと手から金色の光でギプスの腕が包まれた。

あれ?痛みが引いた…



「痛み止め。これくらいなら違反にならない。1週間は大丈夫だよ」


「…凄い…ありがとうございます。痛くなくなりました」



魔法塔は、王家の管轄下にあり、

魔力を使った治癒はもちろんその許可ありきだった。

てゆうか、この人治癒使えるんだ。



「知り合ってまだ間もないけど、もし何か困っているなら…

 遠慮せずに言ってくれないか?」


「ええ…ありがとうございます。でも、このブレスレットだけで充分です」


「リリィは奥ゆかしいなぁ…」



そう言うと微笑みながら、ふんわり頭を撫でられた。

どうして、こんなに優しくしてくれるのだろう…

勘違いしそうになるから、やめて欲しい。


朝の地獄と昼の天国の落差にふわふわな気分のまま、午後の仕事に戻る。

貸し出しと返却の受付のみをこなして、伝票を整理していた。

受付カウンターに誰かが立った気配がして、顔を上げる。



「奥様…」


「… えっ、アンナ?」


「申し訳ありません、お仕事中に…」


「ううん。どうしたの?」



目の前には、思い詰めたような表情をした侍女のアンナが立っていた。

何だか大きなトランクを持っている。



「着替えを持ってきました。1週間ほどホテルに滞在なさってください。

 近くのホテルに予約は取ってあり、宿泊費も支払い済みです」


「え?何で?何かあったの?」


「司書長からご連絡いただきました。奥様の腕の骨にヒビが入っていたと…」


「ええ、ギプスはしてるけど…心配いらないわ」


「駄目です!あの後も旦那様は、少し大人しくなっただけで、

 全然反省していませんでした!

 これはベルモントの指示でもあります。帰宅されるとまた絡まれす!

 なので落ちつく1週間程侯爵家には、近寄らない方がいいです」


「でも、それを知ったら旦那様が何を言うか…あなた達が心配だわ」


「大丈夫です!今回ベルモントは本気で激怒してますので、

 旦那様になんて負けません!私達が奥様をお守りします!

 勿論、旦那様に絶対居場所は口外しません。

 宿泊費込みで朝食と夕食はホテルで食べられるので、

 洗濯物とお昼のランチボックスは、毎日届けさせていただきます!」



侍女の気迫に押されて、とりあえずそのままホテル滞在を了承した。

正直その方が精神衛生上いいだろう。

上手く行けば、その後すぐに寮に入居できる。


公務と視察もいままで旦那様とは別々だったし、住む場所が変わるだけだ。

旦那様が今まで通りの扱いと契約結婚を了承してくれたら、

屋敷に帰ればいい。可能性は低そうだけど。


今の状況を心から安堵している自分に気が付き、

私は本当に、旦那様が嫌いなんだと実感した。



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