旦那様の暴挙とトラウマ
「リリィ!」
朝出勤前に、珍しく早起きした旦那様が玄関ホールに待機していた。
最悪です。
「……おはようございます。旦那様」
「なぜ、昨日来なかった?」
「具合も良くなかったし…私は用はありませんでした」
「俺があるから呼び出したんだ!」
「…では何の用でしょう?」
「行きの馬車に同乗してくれ。そこで話す」
「お断りします。あるいはレイモンドの同伴を要求します」
「は?私達夫婦の問題だ。それに俺の側近も同伴している!
家令を同伴する必要はない!」
「さっきから声を荒げていらっしゃるので、私が怖いのです。
旦那様サイドの方だけの密室で、私1人で相手しろと?」
「……怒ってはいない。君が会ってくれないから…」
「私は契約を反故にするなら、離縁して欲しいと言ったはずです。
それ以外の選択肢はありませんし、話し合いの必要もありません」
「リリィ…少しくらい俺にチャンスをくれないか?
心は変わるものだ…」
「そうですね。あんなに愛しあっていた方と
今は別れたいとおっしゃてますし、その通りですね」
「……俺の気持ちを信じていないんだね?」
「信じられるわけないです。
その前にあなたと本当の夫婦になど、生理的に無理です。
もう話はすみましたね。失礼します。レイモンド、私の馬車は?」
「はい、奥様。準備できております。こちらです」
「リリィ!」
すれ違いざまに、腕をぐいっと引き戻されるように
乱暴に掴まれた。
痛っ……
…何これ…凄い…力…
“ 王族への淫猥および不貞姦通罪で捕縛する ”
“ 抵抗するな!この卑しい売女め ”
違う…私は何もしていない‼︎
痛い…腕が……痛い‼︎
やめて……触らないで…離して……
怖い……やめてっ…
目眩がして、グニャリと視界が歪む。
「奥様!」
私はその場に座り込んでいた。
家令が駆け寄り、旦那様の手を外すよう諫めている。
「お放し下さい!旦那様!
痛がっておいでです!腕を折るつもりですか?」
はっとした旦那様に、私の腕は解放されたが、
今度は私の肩に手を回し、抱き寄せようとする。
私は、反射的に両手で旦那様を突き飛ばしていた。
触らないで‼︎
目の前で尻餅をついて、こちらを茫然と見ている旦那様。
「リリィ…?…」
「奥様、腕は大丈夫ですか?医者を…」
「…大丈夫。痛みが引かなかったら診療所で診て貰うから
とりあえず仕事に行くわ…」
ふらつく体を家令と侍女に支えられながら、馬車へ向かう。
こんな所…1秒でもいたくない。
「今日からお昼は2人分とお聞きしていました。こちらを」
「ああ、そうだったわね。ありがとう」
「本当に大丈夫ですか?奥様」
「ええ。今は痛くないし…少し疲れただけ…
いつもありがとう」
「いいえ、いってらっしゃいませ。お気をつけて」
ああ…朝から鬱陶しい…1日のエネルギーを6割削られた。
こんなに強引な手段で来るなんて…1ヶ月は待てないかもしれない。




