甘い言葉と初体験 ※
今日は雨が強くて、いつものレストランデートはやめて、
私の寮の部屋にヴァレリー様を招いて、私の手作りの夕飯を食べることにした。
大したものは作っていないのだが、彼は私の簡単なサラダパスタを
美味しいと大喜びで完食してくれた。
彼がお土産で持ってきてくれた、赤ワインとデザートのアップルパイ。
今は、アップリパイを食べつつ、ワインをちびちび飲んで、
何だか少し酔いがまわったのか、いい気分だった。
「リリィのパスタ美味しかったよ」
「ふふっ、褒めすぎ。本当に簡単なんだよ?
このアップルパイ美味しい」
「あのレストランの隣のパン屋で買ったんだ。ワインは俺の所有物」
「美味しい~♪」
「リリィ、口の端にパイが付いてる」
「え?どこ?」
「ん~ここ…」
クイッと顎に手を添えられて、顔の向きを変えてペロリと舐める。
ビクッと肩を揺らすと、彼は妖艶に微笑んでそのまま口付けを続けた。
ワインとアップルパイの香りが混じって鼻から抜けていく、
なんとも美味しい口付けだった。
「リリィ…今日は…少し先まで進んでも構わない?」
「先…?」
「キスより先…」
「…何を、するの?」
「粋なり最後まではしないよ。そうだね…君の体に触れるけど…」
「…触れるだけ、なら…あ、ドアの鍵、ちゃんと閉めたかな?
ちょっと見てくる」
私は閨教育は一応受けていた。座学だけだが。
はっきり言って、私は関係ないとあまり熱心に学ばなかった。
この軽はずみな気持ちを後々後悔することになるのだが。
ドアの鍵が気になって席を立ち、確かめにいく。
寮の出入り口に常時警備員がいるから、
つい安心して私室の鍵をたまにかけ忘れてしまう時があった。
ドアノブを回すとちゃんと掛けてあったが、
念のため、一度開けてかけ直す。
カチャリ
部屋の鍵を掛けた途端、
いつの間にか、後ろに来ていた彼に強く抱きしめられ、
ドアに押し付けられた。
今までとは違う、少し乱暴な口付けだった。
口の中にぬるっと彼の舌が入り、私の舌に絡みつく。
まるで私を貪っているような…
水音が自分達の口付けの音だと途中で気が付き、
気恥ずかしさと、何ともいえないエロチックさを感じて顔が熱くなる。
す、凄く……い、いやらしい…何これ……
口付けひとつにしても、粘膜の濃厚な接触が、
こんなに親密な秘め事のように展開していく…
うわ……男女のそれって……こんな…こんな風になるの?
胸の当たりがモゾモゾすると思ったら、彼の手が服の上から胸に触れていた。
下から持ち上げるように、下から上へと手を動かしている。
初めて異性にそんな所を触られて、私は益々顔に熱がこもる。
触るって…こんな乱暴に?
少し混乱しつつ彼に身を任せて様子を伺った。
それから手は、腰から背中へと移動し、
体の輪郭を確かめる様な動きを繰り返した。
あ…これ…私を女として求めている仕草だ……
すると、彼の手は私のスカートをたくし上げ、太ももの内側にスルリと入る。
優しくきわどい所を何度も撫でられ、足がむずむず動く…
長い間濃厚な口付けを交わして、時々彼は首筋に唇を這わせた。
温かな舌がねとりと首筋に絡み、唇で吸い付かれて、また愛撫の音が耳元で響く。
その度に、背中にぞくりとし体がビクッと反応する。
恥ずかしい…恥ずかしいのに…贖えない…
頭が熱い…
蠢く舌の感触にたまらず、声が漏れる。
「……胸…直に…触っていい?」
「…?……ん……」
すると、粋なり私を抱き上げて歩き出し、
ベットの上にそっと下ろす。
私を軽々持ち上げる彼の筋力にびっくりしながら、
心臓がドクドクと早鐘を打つ。
あ…ここからは…こっちでするのか…
ギシッとベットの軋む音と共に、私に覆い被さり見下ろす銀髪の美丈夫。
部屋が暗くて、顔の表情が分かりにくいが、
月明かりで青い瞳が妖艶な色気を含んで見下ろしていた。
私のシャツに手を伸ばし、もどかしそうにシャツのボタンを外すと、
肩が剥き出しになるほどに、シャツの前をバッと開かれて心臓が跳ねる。
恥ずかしくて彼の顔を正視できず、視線を外していると、
ヴァレリー様はしばらく動かなくなった。
これ…もしかして…凝視してる?
「……ヴァ…レリ様?」
「綺麗だ…」
「…っ!……」
綺麗って何が? え? 私? 私の何が綺麗なの?
言葉の真意が分からず混乱していると、
そっと鎖骨に手を置かれ、そのまま手が下へ移動する。
胸の膨らみに口付けが落とされ、幾度と無く舌の愛撫が繰り返す。
背中を撫でる手は探るように下着の紐を外す。
するりと剥ぎ取り、胸の締め付けがなくなって少し寒いと感じた時、
ふと、動きを止めた彼は、体を少し離し私を見ていた。
「普段、服や下着で隠されている部分を
こうやって見れるのは…堪らないね…」
「そ、そんなに見ないでっ…」
「恥ずかしい?」
「恥ずかしいですっ!」
「ふふっ…可愛い…」
そして、彼は体を屈め、
温かい舌と唇が再び愛撫を始める。
こ、こんなに…見られ…て、触られ…いや…舐められてる?
……嘘……
触っていいとは言ったけど…舐めていいとは…
いや、同じだろうか…
そんなくだらない思考をしていると、
胸の先端をふいに生暖かい唇に啄まれた。
ぬらりとした感触と刺激にビクッと体が反応して、
あの愛撫の水音が聞こえてくる。
は、恥ずかしいっ!!やだやだやだっ!逃げ出したい!
胸に顔を埋めている彼の頭を無意識に両手で掴んで、
髪をグシャグシャにしていた。
く、くすぐったい…?え…何……これ…
舌が凄い…絡んでくる……や、やだ…そそそんなに強く吸わないでっ…
やだやだ……何なの……へ、変な気分になってくる…
頭が更に熱を持ち、ぼんやりして目の焦点も合わなくなってくる。
チロチロと動く舌は、まるで蛇のように執拗に肌を這い、
私の胸をまるで食べるように、大きく開けた口に含んで舌で弄び貪っている。
ほとんど上半身裸の状態で、ヴァレリー様に抱きかかえられ、
今まで感じた事のない、体の奥から暴かれていく
ムズムズした快感に戸惑い、羞恥で疲れ果て、
彼に体を預けた状態でグッタリしていた。
「……リリィ?」
「は…い……」
「…大丈夫?」
「うん……」
「嫌だったら…やめるから…」
「うん……」
「…もう少し大丈夫?」
「…ん………ケホッ」
声が掠れる…
ヴァレリー様の顔が目の前に来ていた。
彼の色っぽい瞳がぼんやりとして、
熱にうかされたような表情になっている。
あ…多分、私も今こんな顔してるんだろうな…
再び唇が重ねられ、愛撫音と共に深い口付けを何度も繰り返す。
彼の手はずっと裸の胸を下から上へ、持ち上げるように触り続けているせいで
体の色んな箇所に刺激があたえられて、ずっと疼きが納まらない。
「リリィって…着痩せするんだね…」
「…え?」
「胸、思ったより大きい…形もいい…
こんなに腰細いのに…ふふっ…」
「…っ、!………」
そんなの何て答えればいいのだ。
お礼を言うべき?
顔を真っ赤にして俯くしかできない。
「…怖い?」
頭を横に振る。
彼は唇の端を上げて、嬉しそうに微笑んだ。
「恥ずかしくて…それに何だか…自分じゃなくなりそうで…
それが…怖い……」
「大丈夫。みんなそうだから怖くないよ……楽にして…
俺に身を任せて…気持ちよくなって……」
そう囁くとまた唇を重ねる。
ヴァレリー様の口付けは、優しかったり、激しくなったり…
強弱があって、ゆらゆらと波間を漂うように気持ちいい。
夢うつつの中、ずっとこうしていたくなる。
何か…お腹の当たりが熱くなってきて…
足が自然にムズムズと動いてしまう。
このまま快楽に……飲み込まれそう…
「リリィ?」
「ん……」
「俺と…こうしてても平気?」
「うん………思ったより…その……」
「ん?」
「………大丈夫…かも……」
「ホント?嬉しいな…ふふっ、ああ、君は本当に可愛い…」
彼はまた体を起こすと、くるりと体を回転させて後ろから抱き竦めた。
そして、背中を下から上まで舌で舐め上げる。
「あっ…!…」
「綺麗な背中…俺の舌の感触を身体中に、覚えさせてあげる」
「んんっ…」
「体、ウズウズする?」
「う、…んっ……」
下半身に手が伸びて、スカートを引き上げ下着に手がスルリと入る。
私は朦朧として、その手の侵入に最初気づかなかった。
背中に口付けしながら、後ろから絶えず胸を揉みしだかれ、
足の間に指を上下に擦り、一定のリズムで動かしている。
身体中の刺激と快感に私は抵抗するのも疲れ、快楽に飲み込まれていった。
「はっ、あっ…んんっ!…」
「リリィ…好きだよ」
その後も彼は、長い間私を執拗に愛撫し続けた。
舌が疲れないのか、途中で心配になったが、
彼は構わず、甘い声を上げ喘ぐ私を嬉しそうに見ていた。
ピチュピチュピチュ…チチチッ……
鳥の、声……?
目を覚ますと、自分の部屋のベットの上だった。
そして、後ろから抱きかかえるように、投げ出された手が見える。
昨晩あのまま…いつの間にか眠ってしまったのか。
よく見ると私は上半身裸で、下半身もスカートもめくれ上がって、
淫らすぎる自分の姿に顔が熱くなる。
のそのそとシーツを肩まで引っ張りあげる。
肩口に顔を押し付ける形で、寝息を立てている銀髪が視界に入る。
ヴァレリー様………
昨晩の情熱的な愛撫を思いだし、途端に顔が熱くなる。
男女のそれは、凄かった……
全然雰囲気が変わる、男性の性欲に支配される姿にも驚いたが、
溺れるように贖えなくなり、体の奥から沸き上がる快楽に
飲み込まれる自分の色欲にも、信じられない思いだった。
まだ最後までは、していないはず…
これ以上の事をして…私、心臓が持つだろうか。
「…………ん~~…」
後ろでヴァレリー様が、起きたのか身動きする。
あ…どうしよう…何て言えば…ね、寝たふりする?
後ろから投げ出された腕が、私を強く抱きしめ引き寄せる。
「…リリィ……おはよ…」
「……う…ん…おはよ」
「ふふっ…可愛い。照れてる?」
「………だって…」
「そうだよね。初めてだったんだろ?」
「うん…」
「君の初めてが、俺なのは嬉しい。今凄く幸せなんだ。
君と朝をこんな風に向かえられて」
「あの……」
「ん?何?」
後ろから抱きすくめられ、耳の近くに彼の吐息が掛かる。
ビクッと肩が揺れて、膝が上がり体が丸くなる。
「あはははっ。本当に可愛いなぁ…子猫みたい」
「も、もう…意地悪……慣れてないのにっ…」
「あ、やめて。そういう可愛い事言うの…理性がっ……
そういえば、さっき何言いかけてたの?」
「え…あ…あ、あの、どうして私なの?」
「どうして?」
「だって…あなたは凄く素敵だし、
私がなぜ好かれているのが、どうしても分からない…」
「俺にも分からないよ。君のいいところや好きなところは無限にあるけど、
でも、好きになるのに理由なんているの?」
「え……」
「しいて言うなら…君の綺麗な瞳かな……打算のない…素直な瞳。
君の存在がすごく近く感じた。初めて会ったときから、忘れられなかった」
「目?…」
「うん…凄く透明感のある瞳だ…目を見れば大体その人となりも分かる…
そして、その美しい黒髪も…上品で君の雰囲気に合っている。
反面、才媛で頭がいいのに駆け引きしないし、
それに、こういうウブで不器用で恥ずかしがり屋で可愛い所も…全部だよ。
理屈じゃないんだ」
「う、嬉しいけど…誉めすぎでは…」
「本当だから仕方ないだろ?こっち向いてリリィ」
「え…?な、なんで?」
「おはようのキスしよう」
「…寝起きで、酷い顔してて…その…」
「じゃあ、俺がそっち行く」
体を起こした彼が、肩と腰をくるりと向かい合わせ、
仰向けで彼に覆い被されていた。
「おはようリリィ」
「おは、よ…」
青い瞳が近づいて唇が重ねられる。
優しい…唇……………ん?あれ…
舌が入って……深い………
朝から、やめて欲しいんですが⁉︎
* * * * * * *
「司書長、隣国の翻訳書籍、明日図書館に納品されます」
「よく頑張ったわねぇ、お疲れ様リリィ」
「ふふっ、隣国の書籍コーナー作りますか?」
「いいわね!隣国の司書達が見たら喜ぶわよ!」
「受付の横なんて、いいかもしれませんね!」
「そうね。目立つ場所に置きたいなぁ。
あ~肩の荷がおりました。ふふっ」
「うふふ。何か、あんた最近色っぽくなったんじゃない?」
「えっ」
「さては、シュタイナー殿と何かあったわね?」
「な、なななな何のことだかっ…分かりかねましゅっ!」
「すっごい動揺してるじゃん」
「え!リリィ様、まさか、とうとう…」
「な、何言ってるんですかっ‼︎ 二人ともっ!」
「分かりやす~い♪このこのっ!」
「仕事仕事!ほら、開館の時間ですよ!」
「本当ですか?リリィ様~?」
「あははははははっ、ねえ、お祝いする〜?」
「もー!エレノア司書長!」
この隣国との司書達の交流がきっかけで、
両国ともますます友好関係になり、文化交流も盛んになった。
その功績を認められ、私は褒賞を与えられた。
そして、それに並行して要人の不正が次々露呈。
主に次期国王陛下にと王弟殿下を推す一派が、
表舞台から消えていったのだ。




