救出と侯爵家の終わり
私、人殺しになっちゃった…
もう、ヴァレリー様と一緒に生きていけない。
死のう…もういい。
もう…苦しみたくない。
「リリィ‼︎ 何処だ!リリィ!」
この声…
ヴァレリー様だ。
ああ、来てくれたの。
でも見ないで、見ないで私を…
取り返しのつかないことをしたの
人を…殺してしまったの
手摺りに片足を乗せて、力無く前屈みの体を倒し、
バルコニーから身を投げ出す。
ゴオオオオオオオオッ──────
風を切るの音と浮遊感。
もうお終い。
これで楽になる。
「リリィ!」
突然、ふわりと何かに包まれる。
温かい…
目の前には、銀髪と青い瞳、銀色のバングル。
小さく息を吐き、私は暗闇にのまれていった。
「リリィ様!私です、アンナです!聞こえますか?私は無事です。
すいませんっ!私が捕まったりしなければっ…私の、私のせいでっ!」
「落ち着いて、君のせいじゃない。
大丈夫、彼女は気を失っているだけだよ。
君も薬を嗅がされたんだ、急に動かない方がいいい」
「だ、大丈夫です私はっ!あ、あの光と轟音はっ…」
「俺の守護付与のブレスレットが発動したんだ。
あれは、本人の精神状態に同調して魔力を発動する。
今まで我慢してた分、凄まじかったね…離宮が半分以上吹っ飛んだよ」
「それだけ追い詰められたんですか? リリィ様、頬が赤くなってます。
これ…あいつらに乱暴されたのでしょうか。…まさか…」
「大丈夫、彼女は清いままだ。だけど…また心を傷つけられてしまった…
彼女は、あいつらを殺してしまったと思って、恐らく…自死を選んだんだろう」
「そんっ、なっ…何でリリィ様ばかりっ!」
「あんな奴ら、別に死んでも構わないんだけどね。
残念ながら重症なだけで、生存反応は、ある、…ね」
「あのバカ共どこにいるんですか?私がトドメを刺してきます!
もう二度とリリィ様の目に映らないように!」
「まあ、まあ、落ち着いて。
今回のこれは、流石にお目溢しは出来ないよ」
「信用できません!貴族なんて生き汚いですもの!」
「大丈夫、このブレスレットは記録魔法も施してあるし、
証拠はいくらでもある。俺が証人になるし、王弟妃も味方してくれるはずだ」
王弟妃は、俺の “贈り物” を気に入ってくれたようだし、効果はあったのだろう。
これで王弟は、男として死んだも同然。
あの傲慢な男がどんな気持ちでいるのか…今度顔でも見に行って笑ってやろうか。
ああ、そうだ。これを期に、彼女の腕を折った騎士も潰してやろう。
「あら〜派手にしたわねぇ…どうすんのこれ」
「司書長!」
「宮廷騎士と魔術師、派遣してもらったわよ〜…リリィ⁉︎」
「大丈夫です。バルコニーから飛び降りて、気を失っているだけです」
「は?どういうこと?やっぱり連れ去られたの?」
「はい。後で詳細説明します。とりあえず、彼女を休ませてあげたい」
「おーい、ご令嬢が侯爵邸に連れ去られたって通報で駆り出されたんだけど、
すげーなこりゃ、何があったんだ?お前がやったのか?」
「来てくれて感謝する、オーエン。
違う俺じゃない。守護魔法が発動しただけだ。
そこに2人転がってるだろ。そいつらが実行犯だ。
牢屋にぶち込んでおいてくれ」
「へーい。え…あれ?連れ去られたのお前の彼女だったの?」
「ああ、大丈夫だ。あと、フェリスを指名手配して捕縛してくれ。
今回の拉致の協力者だ。転移魔法を悪用した」
「はあ?マジ?何やってんだアイツ!」
* * * * * * *
私が気を失って入院している5日間で、事は進んでいた。
今回の企みに協力した、フェリスさんは魔法塔を解雇、
悪用した魔力を永久封印され、修道院に送られた。
彼女はことの大きさに、泣きながら謝罪を繰り返していたそうだ。
愛人のジャンヌさんは、
ブレスレットの守護に弾き飛ばされ、
自慢の顔にできた醜い傷にショックを受けて茫然としているそうだ。
罰として治癒してもらえず、美しい赤髪も剃られ、
刑務所と言われている、厳格な修道院に大人しく送られた。
元旦那様は、爵位も領地も剥奪され、資産は全て王家の管理下に置かれた。
その資産の殆どが私への賠償と慰謝料に割り振られ、
財務部の私専用の個人金庫が設けられて、そこに保管されているそうだ。
侯爵家管理の領地には、新しい領主が派遣される予定だ。
元旦那様本人は、凶悪犯だらけの鉱山の強制労働の坑夫奴隷に落とされ、
劣悪な環境で死ぬまで働かされるそうだ。
私が望めば、元旦那様は絞首刑にすると言われたが、
二度と目の前に現れなければ、あんな男どうでもよかったし、
私のせいで処刑され、一生忘れられない存在になるのが嫌だった。
だから、それは希望しなかった。
そして、私は宮廷魔法塔の治癒部の入院病棟に保護され、
媚薬を解毒して、カウンセリングも受けて元気にしている。
毎日のようにヴァレリー様やアンナ、エレノア司書長が花を持って、
お見舞いに来てくれていた。
「リリィ、気分はどう?」
「うん、大丈夫」
「良かった。今日は顔色がいいね」
「朦朧として、まだ言ってなかった。ありがとう助けてくれて」
「いや、もっと早く行きたかった…」
「ブレスレットがあったから、助かったんだよ?
ヴァレリー様は、ずっと守ってくれた」
「これからも、ずっと守るよ」
「うん、ありがとう…」
「だけど、二度と生きることを諦めないで。
今度そんなことしたら、俺もすぐ後を追うから」
「えっ⁉︎ ごめんなさい…あの時は混乱して…
人を殺してしまったと思って、頭が真っ白になって…」
「あんな奴らの為に、君が死ぬことはない。
もし、殺めてしまっても俺が隠滅するから、
もう二度と自死はしないで。約束できる?」
また何か怖いことをサラッと言われたような…
でも、私を心から心配してるのは痛いほど伝わってきたし、
私は、青い瞳を見返して素直に頷いた。
「好きだよ、リリィ」
「うん、私も…」
銀色の髪と青い瞳のふんわり優しい抱擁に包まれて、
私はホッと息を吐く。
やっと終わった。
やっと、ヴァレリー様と一緒に未来を歩いていける。
お父様、お母様、私、今度こそ幸せになれそう。
だから、もう心配しないでね。




