告白と敵意
「それでは、日程はこれで…参加者名簿は…」
「今回第4王子、リスレン王子殿下が同行しますから、
側近と護衛騎士が当初より増えます」
「では、日程表と名簿を配ります。こちらをご覧ください」
「シュタイナー副師団長、失礼します」
「今、打ち合わせ中だが」
「遠征部より急ぎ、話があると…」
「…わかった。失礼、進めててください。少し席を外します」
俺は、今回の遠征は参加しないし、関わっていない。
他に急ぎの仕事は無かったはず…一体何だ。
案内されたのは、人気のない王宮の裏庭だった。
そして、遠征部の唯一の女性フェリスが立っていた。
「すいません、打ち合わせ中に…
私、この後すぐに遠征に行くので、
その前にお伝えしたいことがあるんです」
「話って?今打ち合わせ中で、すぐ戻らなければいけないんだ」
「はい、すぐ済みます」
「うん、早く言ってくれる?」
「好きです」
「……─────」
「ずっと、ずっと…副師団長が好きでした」
「…それで?」
「遠征から戻ったら、つ、付き合って欲しいんですっ」
「俺、今恋人がいるんだけど」
「知ってます。でも、その方はやめたほうがいいです。
私の方が副師団長を大事にしますし、幸せに出来ます」
「幸せかどうかは、俺が決める。
そういえば、ランチボックス受け取り時に、
彼女に俺とどういう関係だって聞いたそうだね?」
「え?はい」
「どういうつもりで、そんな事を聞いた?」
「確認したかっただけです…」
「彼女が不安定な心理状態なのをわかっていて、
動揺させて罪悪感を持たせる為だろう?陰湿だな」
「だって…だって、醜聞持ちの女じゃないですか!
あんなか弱そうに振る舞ってますけど、王弟殿下を誘惑して
色目を使った女ですよ?王家の恩情で有耶無耶になっただけで、
すぐ侯爵と結婚して、そしてまた離縁して!
今度は副師団長を籠絡してっ!みんな騙されているんですよ!
酷い悪女じゃないですかっ!次から次へと男を変えて!
目を覚ましてください、副師団長!」
「冤罪だよ。俺は全て知ってる」
「自分では、なんとでも言えます!
どうせ、同情心を引こうと自分を被害者みたいに話したんでしょう?
副師団長は騙されているんです!」
「不愉快だなぁ…」
「え?…だって事実じゃないですか、あの女は…」
「あのバカらしい噂を間に受けてるんだ?
それに、彼女の何を知ってる?」
「…え?…あの…」
「全て、彼女に責はない。
色欲魔の王弟が一方的に言い寄って、彼女が拒んだから腹いせに
虚偽の証言で陥れた。噂が大きくなりすぎて、訂正するも王家の体裁のせいで、
完全に事実は明らかにできず、王弟は王族の権力で守られている。
リリィは男性恐怖症になって、さらに噂で中傷され続け、
表向きの妻が欲しかった侯爵がそれにつけ込んで、契約婚を提案してきた。
そして、彼女は逃げるように嫁いだが、
愛人と侯爵は領地の仕事を全て彼女に押し付けていた。
結果、愛人と破局して、心変わりした侯爵が言い寄ってきたから離縁したんだ。
彼女はただ、運悪く王弟に言い寄られ、侯爵に利用された可哀想な女性。
それが真実だよ。正式な調書に記録されている。信じなくてもいいけどね」
「……そんっな…はず…」
「残念だが、歪んで偏った考えを持つと仕事に支障がでる。
今回の遠征参加は中止だ。いいと言われるまで寮の私室で待機。
君を遠征部から外して異動届けを出す、それまで部屋で謹慎しろ」
「そんなっ、嫌です‼︎ シュタイナー副師団長‼︎」
「今までご苦労様。さよなら、フェリス」
「……っ、…あ……」
こちらに向けられた、蔑む冷たい瞳。
今まで一度もあんな瞳で見られ事ないのに。
彼は、そのまま背中を向け、
一度も振り向かず足早に去ってしまった。
花祭りの後から、見覚えのないバングルが左腕で光っていた。
あの女からの贈り物なのだろう。
それを見るたび、胸が苦しく、行き場のない怒りが募っていった。
尊敬していた。
大好きだった。
彼に認められたかった。
でも、嫌われてしまった。
軽蔑されてしまった。
グワングワンと脳が揺れる。
も う、 お 終 い だ
その場に立ち尽くし、茫然としていると、
後ろの茂みから誰かが出てきて、こちらに向かって歩いてくる。
「お気の毒に思いが通じなかったのね。
ところで、そんなあなたにいい話があるんだけど?」
「誰ですか、あなた……放っておいてくださいっ…」
「可哀想に辛いでしょう?
でもね、その思い人がいなくなれば、彼も考えが変わると思わない?
恋心なんて実態のない不確かな物、すぐに崩れてしまうわ」
「………………」
「ねぇ?」
ニヤリと笑い弧を描く、真っ赤な口。
涙で視界が揺れる瞳には、真っ赤な髪の女が映っている。
一歩足を踏み出し、フラフラと彼女の方に歩み寄った。




