ジャンヌの接触
「良かったじゃん」
「そう、ですか?…私、彼に釣り合ってるでしょうか?」
「あのねぇ、あんたの不幸は周りに恵まれなかったってのもあるけど、
その自己評価の低さも影響してるんだよ」
「はい…そうですね…」
「自分の人生なんだから、脇役ばかりしてないで、
いいかげん主役を演じてハッピーエンドになりなさい」
「はいっ」
「彼ってば、あんなに分かりやすく好き好き全開アピールしてたのに、
あんたってば否定ばっかして!全く!」
「す、すいません…」
「ふふっ。いい男捕まえたわ。幸せになんなさい」
図書館を開館すると同時に、
カツカツとヒールを鳴らして入館してきた女性。
厳格な空間に似合わない、体のラインに添った黒いドレスに身を包み、
真っ赤な髪に真っ青な瞳、真っ赤なヒール。
「リリィってあなたかしら?」
「…失礼ですが、どちら様でしょう?」
「私はジャンヌ。クロスの、あなたの元旦那の恋人。
お会いするのは初めてね」
ああ、またか。
どうしてこうも、上手くいかないのだろう。
せっかく、花祭りでの嫌な出来事を塗り替えたばかりだと言うのに。
でも、逃げてばかりではダメなんだ。
私は前に進むと決めたのだ。ヴァレリー様と一緒に前に進むと。
「…ご用件は?」
「話があるのよ。離縁してるのは知ってるけど、侯爵のことで少し困ってるの」
「お客様、ご来館ありがとうございます。
ですが、司書との業務に関係ない個人的なアポなし訪問はお断りしてます。
今勤務中ですし、それに、あなたは彼女との接近禁止令が出ているはずです。
おかえり願えます?それとも衛兵を呼びましょうか?」
後ろから、エレノア司書長がニッコリ微笑み、
すかさず援護してくれる。
「……分かっているわ。害するつもりはないの。
ねえ、一度でいいの二人で話できない?
侯爵にいつまでも付き纏われて、困っているんでしょ?」
「調停官と…同席でしたら伺います」
「は?少しぐらい、いいじゃない!別に何もしないって…」
「衛兵‼︎」
「ちょっ、分かったわ。帰るから‼︎ 」
慌てて踵を返し、カツカツとヒールを響かせて
図書館から出て行った。
「何あれ?あったま悪そ~な女‼︎ 」
「エレノア司書長、ありがとうございました」
「どういたしまして。あんなの相手するだけ無駄よ。
大体、なんで話聞こうとしたの?」
「逃げてばかりでは、いけないと思って…」
「心掛けは立派だけど、話の通じる相手ならね?
あんたは、悪意のある人間に対して耐性なさすぎよ。
危なっかしいったら!」
「すいません。よく考えたら、そうですよね。
接近禁止令無視して、相手に近づいてくるなんて…
普通の人じゃなかったです」
「そうよ。怯えないで堂々としてなさい。
そして、いつでも冷静でいられるようになさい。
いつものあんたの賢さなら、あんなのすぐ追い返せるでしょ?
それに、あれは何か企んでるわよ。愛人にとって邪魔だった元正妻に、
わざわざ会いに来るなんて、おかしいじゃない」
その通りだ。
私は、本当に詰めが甘いというか…対応を間違えてしまう。
いつまでもビクビクして…もっと毅然としなくてはダメだ。
そして、今日あったことをハイゼン調停官にしっかり報告して、
侯爵家に警告してもらった。
* * * * * * *
「ジャンヌお前、何してるんだ?調停官から警告が来たぞ‼︎」
「うるさいわね!仕方ないじゃない隙がないのよ。
仕事中はあのうるさい司書長がべったりだし、
外出時はあのアンナって侍女がいるし…
護衛の美形魔術師も一緒だし…どこで知り合ったんだか…
とにかくガードが硬すぎるんだってば‼︎」
「いいか?リリィを連れ戻すのを協力するって言うから、
置いてやってるんだぞ?」
「分かってるわよ!うるさいわねっ‼︎」
「俺は違反すると騎士団の指導役を外されるんだ…下手に近づけない」
「分かってるってば!」
彼らに近寄れて、こちらに協力してくれる人物を探すしかない。
地道にあいつらの周辺を調べて人間関係を洗えば…。
あんな毎日…あんな惨めな娼婦時代に戻るなんて絶対に嫌。
私のこの裕福な生活を維持するために、必ずあの女を連れ戻してやる。




