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主役になれない傷モノ令嬢は、宮廷魔術師に抱擁される   作者: 米野雪子


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初めての花祭



「あれ?リリィは?」


「ああ、あの子は今地下の書類庫で文官に頼まれてアンナと資料探し中よ。

 優秀だからあっという間に済ませて、すぐ戻ってくるわ」


「そうか、じゃあ少し待たせてもらうよ。花祭りのことで話があるんだ」


「ふふっ、あんなに分かりやすくアピールしてるのに、

 今だに友人だって思ってるわあの子。あなたも気の毒ねぇ…」


「大丈夫です。彼女のリハビリも兼ねてるから、気長に頑張ります」


「あなたで良かったわ。正直今までろくな男しか近寄ってこなかったもの。

 よろしく頼むわね…凄くいい子なのよ」


「分かってます。あなたのお墨付きを貰っただけでも光栄です。司書長」


「あなたの方は、乗り越えたって考えていいのね?シュタイナー殿?」


「ええ、もう問題ありません。だから、彼女にも乗り越えて欲しい。

 そして、俺を見て欲しいんです」


「戻りました!」


「お疲れ、リリィにお客様よ」


「あ、ヴァレリー様」


「やあ、リリィ。明日の花祭り何時に行けそう?」


「そうですね。閉館してからですから…」


「あと、はい、これ」


「え…服ですか?」


「花祭り用の衣裳。君に似合いそうなの見つけたから」


「ええっ!」


「見てみて?多分気に入ると思う」



ハンガーとカバーで服なのは理解できたが、まさか花祭りの衣裳だとは…

恐縮しながら、カバーをめくると、

薄紫のまるで花びらの重なりのようなドレスが現れた。

ハイウエストのドレスの胸元には細かなラベンダーの立体的なコサージュや刺繍が

豪華にあしらわれ、まるで花の精のドレス……



「き、綺麗……」


「まあ~いいじゃな~い!さっすがセンスいい!可愛いリリィに絶対似合うわ」


「素敵です!リリィ様のイメージにぴったりです!」


「でしょ?これ見つけた時、リリィの顔が浮かんだんだ」


「あ、ありがとう…ございます……こんな素敵なドレス初めてです」


「良かった喜んでくれて。着てきてね?」


「はいっ!でも、私…貰ってばかり…」


「前も言ったけど、対価はこうやって会ってくれればいいよ」


「…でも…何か欲しい物はないんですか?」


「リリィが可愛い笑顔を見せてくれればいい」


「もう、揶揄わないでくださいっ…」


「揶揄ってない。いつも本音しか言ってないよ俺は。

 素直な君に駆け引きは必要ないだろ?」


「ヴァレリー様……」



どうしよう…好きになってしまいそう…

こんな…こんないつも優しくされて…勘違いしてしまう。


彼はそっと手を伸ばし、

ハーフアップの下ろされた黒髪を一房手に取り、口付けを落とす。

俯いて伏せられた瞳のまつげまでも、彼は美しい。

いつも彼の仕草に見とれて、心臓が大きく飛び跳ねる。


後ろで囃立てるアンナとエレノア司書長を尻目に、

私はこの鼓動の意味を考えないようにしていた。




* * * * * * *




「うわぁ~…綺麗…」


「うん、綺麗だよ」


「ヴァレリー様、私じゃなくて花祭りの装飾ですって」


「リリィ、花の妖精みたいで可愛い♡」


「………………」



花祭り当日。

困ったことに、彼はずっとこんな感じである。

あまり気にしないように歩みを進めて、

むせ返るような花と香りに囲まれ、私の心はワクワクしていた。



「さて、花冠選ぼうか?」


「は、はいっ!」



動くたびにふわふわ揺れる、ラベンダー色のドレスの裾に見惚れながら、

様々な出店を除いて、お互いに送り合う膨大な種類の花冠をじっくり見比べる。


ヴァレリー様は…何でも似合いそうだけど…

黒のダリアと赤のアマリリスとブラックパールをあしらった花冠が目についた。

色が強くて格好良くて、銀髪のヴァレリー様に似合いそうだった。

私は、それを購入してヴァレリー様の元へ歩いて向かった。


ちょうど彼も購入し終えて、こちらに歩いてきた。

彼は、紫と白のトルコキキョウと白のピンポンマムとラベンダーをあしらった、

ドレスに合う可愛らしい花冠を手に持っていた。



「それ、俺に?カッコイイ花冠だね」


「はい、ヴァレリー様のイメージで選びました」


「嬉しいな、ありがとう。俺は、これ…君に」


「可愛いっ!ドレスに合いますね!」


「どれも似合いそうで、めちゃくちゃ迷ったけど、

 喜んでくれて良かった」



お互いの頭に花冠をのせて、受付に向かう。


正直、花冠を被ったヴァレリー様は超絶格好良かった。

花の精霊王みたいで、浮世離れにも程がある神々しさ。

彼は彼で、私の花冠姿に可愛い可愛い可愛いの連呼で、

もういろんな意味で溶けそうだった。


人混みで離れないように、手を繋がれ彼の手の大きさと温かに、

なぜか胸がいっぱいで、泣きたくなった。


そうか、私、こんな風に年相応のイベントに参加したことなかった。

こんな普通の出来事が、こんなにも嬉しい。



「ようこそ花祭りへ!はい、このブローチお揃いで付けてね!」


「ありがとう」



花冠の購入は、いわば花祭り会場の入場料。

芍薬の造花のブローチが入場許可チケットみたいな物で、

これをつけてれば、祭りの途中の用事で退場しても再び入場できる。

祭りが終われば、ブローチは持ち帰りの記念のお土産にもなる代物だ。

ちなみにブローチの花のモチーフは、毎年変わるから不正使用は出来ない。



「お腹空いた?」


「ん~…軽く何か食べたいかなぁ」


「おかず系?お菓子系?」


「え、えと、お菓子系!」


「じゃあ、あの辺行くか。おいで」


「うん!」



クレープ、フルーツ飴、チョコレート、小さなカステラなど見て回り

私はコロコロと丸い形の色んな味を詰め合わせたチョコを選んで購入。

歩きながら食べて、色々見て回った。


鉢植えの花や、花をあしらったアクセサリー、押し花のしおりや葉書、

花の刺繍のハンカチやスカーフ、花の小さな鞄やポーチ、

花の形に作られたビーズのブローチ、ありとあらゆる物が花で溢れている。


みんな、笑顔で楽しそう…



「リリィに似合いそうだな…」


「え?」


「イヤリング」


「あ、可愛い…」



金色の小さな5弁の花。

ドロップ型の青い宝石がその花にぶら下がっている。



「気に入った?仕事中髪纏めてるだろ?

 これ丁度いいサイズだし………よし、これください」


「えっ⁉︎」


「プレゼント。あ、包まなくていいです。すぐ付けるから」


「え?えっ、ちょっ…」


「つけてあげる。横向いて」


「はぁい……」



あ~私、貰ってばっかり…

頬と耳たぶに彼の指が当たり、ちょっとくすぐったい。

そして、付け終わったのか、私の髪をふわっと梳いてニッコリ微笑んだ。

ああ、その笑顔ずるいです。心臓が大暴れしてます。



「ああ、やっぱり似合う可愛いよ」


「ありがとうございます…」


「あ、そうだ。まだ言ってなかったけど、

 俺、隣国の書籍視察の出張に護衛として同行するから、よろしくね」


「へっ?」


「今朝王命でね、決定事項。ちょっとコネ使ったけど」


「…じゃあ、一緒に?」


「勿論。俺は司書リリィの専属護衛だから。楽しみだなー。

 あ、あとアンナも推薦しといたから、多分同行者になると思う」


「アンナも?え…推薦って…ヴァレリー様、王家に意見できるんですか?」


「あ、ほら、あの出店可愛いよ。飴細工だって!」


「は?えっ、ちょっ…」



何だか話をはぐらかされたが…とりあえずお祭りを楽しもう。


それから、色々な出店を見ながら、

ヴァレリー様に似合いそうな、バングルを見つけた。

彼が他の店を見ている隙にサッと購入して、後で渡そうとカバンに入れる。

少しはお返ししないと…私助けられっぱなし、貰いっぱなしだもの。


喜んでくれるかな…シンプルなシルバーのバングルで、

真ん中で結ぶように曲げられ、それが3弁の花の形になっていた。

可愛いけどカッコイイ。そんなに目立たないし…男性にはいいかも。


そういえば、私、異性に贈り物をするの初めてだ。



「リリィ、そろそろ腹減らない?串焼きとソーセージ買って、

 向こうで座って食べよう」


「うん!」



美味しいけど、大きな口を開けて食べなくてはいけない、

串焼きに苦戦していると、音楽が流れ始める。

そして、周りがワァッと湧き上がった。



「何だろう…?」


「ダンスが始まったんだよ」


「ダンス?」


「うん、花祭りの名物。誰でも参加可能だよ、後で踊ろう」


「えっ」


「簡単なステップだよ」


「あーえー…恥ずかしいかなーって…」


「大丈夫、最初だけだよ。躍り始めれば楽しくなるって。

 食べたらとりあえず見物してみよう。

 踊るかどうかは、それから決めればいい」


「う、うん…」



夜会や舞踏会で元旦那様と形式だけのダンスはしたが、

あの雰囲気とは違うこの屋外では、初体験なので少し緊張した。


串焼きとソーセージを食べ終わり、

ヴァレリー様に手を引かれ、ダンス会場に向かう。



「本当に踊るの?」


「まずは見物見物♪」



見物している人達も沢山いて、凄い人混みだった。

弾むようなテンポの楽しそうな音楽…

私の心は不安感より、楽しさが上回っている。

お祭りって、その場にいるだけで浮き足立って本当に楽しい。


人混みをかき分けて、ダンスが見える位置に移動する。

真ん中に大きな花のオブジェクトがあり、それを囲むように

輪になってぐるぐる回りながら、2人1組で踊っていた。


た、楽しそう…


しばらく観察していたら、ステップは本当に簡単だった。

そのステップを繰り返して、上半身は皆思い思いに自由に振り付けていた。

殆どは、パートナーと両手を繋いでくるくる楽しいそうに回っている。


みんな、なんて幸せそう…


いいなぁ…私には、縁のなかった世界だ。



「ステップ覚えた?」


「あ、うん。本当に簡単なんだね」


「じゃあ、行こうか!」


「へっ⁉︎」



あっという間にダンスの輪に引っ張り出され、

動揺する暇もなかった。


ヴァレリー様…何しても絵になるな…なんなのこの人。

最初は人目が気になって、ワタワタしてたけど、

途中で楽しさが勝って夢中でヴァレリー様と笑顔で踊っていた。



「上手いよ、リリィ。ふわふわ舞って花の妖精みたいだ」


「ヴァレリー様こそ、花の精霊王みたいに優雅です!」



こんなに心が沸き立つのは、子供の時以来だろう。


何も考えないで、ただ楽しい。


来て良かった。


私たちは5曲踊って、息を切らして見物の人混みに混じった。



「楽しかったぁ~♪」


「ふふっ、リリィずっと笑顔で可愛かった」


「ヴァレリー様はずっと格好良かったです。

 …あっ、そうだ。これ」


「え?何?」


「お礼です。いつも私を元気付けてくれて…そのお返しです。

 ありがとうございます。受け取って、もらえますか?」


「勿論だよ。ありがとう!…嬉しいな、開けてみても?」


「はい、気にいるといいんですけど」


「お、バングル?」


「はい、ヴァレリー様に似合うと思って…

 気に入らなければしなくていいです」


「素敵だよ。凄くいいデザインだ、ありがとう。

 早速付けさせて貰うよ」


「あ、やっぱり似合いますね。良かった」


「ありがとう…一生大事にする」



嬉しそうに微笑むヴァレリー様につい見入ってしまい、

慌てて目をそらして、私は何気なく後ろを振り向いた。


本当に偶然の動作だった。


振り向いた先のお祭りの喧騒の中、

見たことのある人物がいた。

それを認識して、

私の心は一瞬で凍りついた。



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