契約結婚をやめたい⁉︎
「…どういう、事ですか?」
「だから、もう一度契約内容の見直しをして欲しいんだ」
「何か不手際でも?初めに話し合って、お互い合意したはずです」
「君とちゃんと向き合って…本当の…真実の夫婦になりたい」
「シンジツの夫婦?」
「ああ、君との子供も欲しいと考えている」
「は?…いやいや、ずっと身分違いの平民の恋人がいて、
結婚は彼女以外考えられない。
でも平民の恋人では、ご両親の許可が下りないし、貴族令嬢との結婚でなければ
侯爵家の当主を任せてもらえない。
だから、私と契約結婚して表向きは私が妻扱いなだけですよね?
私は本館に一人で住んで領地経営をして、2人は離宮で仲むつまじく暮らして、
子供もそちらで作る計画なハズでは?」
「その…彼女とは…別れようと思う…」
「あの…それ、お2人の問題で、私には関係ありませんよね。
では、別の恋人をお作りになれば…」
「君は…俺が嫌いなのだろうか?」
「そもそも興味ありません。
契約結婚は、私にも都合がよかったから受け入れたのです。
閨はなしの白い結婚、避妊して屋敷に招かなかければ恋人を作ってもいい。
公務や政務以外は夫婦のフリはしなくていい。
他は自由に暮らしてくれて構わない。
という提示条件だから、お受けしたんです」
「反省したんだ。君にあまりに不誠実で…失礼な契約だったと」
「今更結構です。何なんですか?恋人と別れるから今度は私でいいと?
いくらなんでも節操無さ過ぎでは?
契約無しになるなら話が違いますので、離縁してください」
「そ、そんなに俺が嫌かい?」
「そういう対象で見ていませんし、好意を持たれても困ります。
もっとはっきり言えば、嫌いです。
私が男性に対して、恐怖心を抱いているのはご存じなはず。
そもそも自分の愛を貫くために私を利用しておいて、
こんな言い草意味がわかりません。
それに、こっちが爵位的に弱者なのと傷モノなのを良いことに、
私に契約婚を強いた時点で、印象は最悪ですが?」
「それは…悪かった。本当に反省しているんだ。
で、では、そのまま契約を継続するなら…いてくれるのかい?
そして、それを機に俺に挽回の機会を与えてもらえないだろうか…」
「は?時間を掛けて籠絡するおつもりですか?
新たに恋人を作られた方が早いですよ。
申し訳ありませんが、今更色恋沙汰など面倒くさいです」
「面倒くさい…でも寂しいだろう?夫婦なのに、いつまでもこんな関係で…」
「司書の仕事をこなしつつ、ちゃんと侯爵家の仕事は今まで通りします。
それ以上私に求めないで欲しいのです。
私は、いままで通りの関係で何も不自由しておりません。
家令さんも侍女さんもメイドさん達もお優しいですし、関係も良好です。
全然寂しくありません‼︎」
「で、でも君だって、契約を持ちかける前までは、
普通に夫婦になるつもりだったんだろう?
俺に少しは好意があったから、契約でも結婚に応じたんじゃないのか?」
「いいえ、契約だったから受けたのです。
普通の結婚でしたらお断りしてました。
私は最初から、あなたにそういう気持ちは皆無です。
旦那様が私を女として意識していると考えただけで、
正直気持ち悪くて虫唾が走ります」
「そ、そんなに…」
「落ち込まないでください。
一般的な多くの女性からしたら、旦那様は素敵ですから。
地位も名誉も財力もありますし、顔もお綺麗です。
どんな立場でもお付き合いしたい方は沢山いらっしゃいます。
諦めないでください」
「でも、君は俺を好いてはくれないのだね…」
「私は男性の外見に重きを置いてませんし、
特に結婚においては、誠実さに勝るものはありません。
旦那様は不誠実でしたし、もうそこで無理です。
ああ、あとは会話が通じる方です。それも旦那様は無理ですね。
さっきから、一方的な自分の都合の押し付けばかり。
私が男性嫌い以前に、何度もいいますが好みではありません」
持参金なしの破格な契約結婚をして2年後、ずっと公務以外は交流がなかった旦那様から
急に話があると呼び出され、蓋を開けてみればこれだった。
私は、リリィ・ブランシュ・ラインハルト。元リーン子爵家の1人娘。
両親は1年前に馬車の事故で他界。父の弟夫婦が私の後見人になってくれている。
宮廷図書館の司書をしているが、17歳で侯爵家に契約婚で嫁入りし、現在19歳。
旦那様は、クロス・ヴァルト・ラインハルト。ラインハルト侯爵家当主。
元宮廷騎士団所属の騎士。今は現役を引退して指導役に付いている。現在28歳。
私は、妻としてお相手をしなくていいので、
その分司書の仕事と侯爵夫人としての最低限の社交、侯爵邸の管理、
領主経営に力をいれた。
特に領民の為に、私が出来ることは徹底的に効率化して生活環境を改善した。
結果、領主として評価され、その相乗効果で何もしていない侯爵の
旦那様の株もあがった。
その評判を周囲からで聞くことになり、私の仕事ぶりに感心して
興味をもったようだ。
遊び歩いて閨以外は何もせず、散財ばかりする恋人。
彼女に対して恋心も冷め始め嫌気がさしてきた所に、
私がこんなに献身的に働いてくれるのは、自分に認められたくて愛して欲しいから、
健気に頑張っていると都合良く思考を湾曲したらしい。
壮大な勘違いをして、私が旦那様を好いていると自惚れているのだ。
その考えに反して、ニコリともせず真顔で拒否全開で返答した私を見て、
旦那様は、信じられずにショックをうけ、しおしおと小さくなった。
「もういいでしょうか?どうしても、それを通す気でしたら、
私出ていきますので、荷造りしなくてはいけませんの」
「えっ!ちょっと待って!そ、そんな直ぐに決めなくても…
そ、それに、出ていって何処に行くつもりなんだい?
粋なり1人で…しかも女性が…生活できないだろう?
戻るにしても、実家だってもう無いし、後見人の領地だって遠いし…」
「宮廷図書館の司書専用の寮に、空きがあるので問題有りません。
仕事も領地経営を辞めて、今の午前中勤務のみのシフトを増やしてもらえば
給料も上がりますし、充分1人でも生きていけます。何か問題でも?」
「……っ……で、でも!……離縁なんてまた醜聞になるだろう?
君は前の件もあるしっ…そんな君みたいな令嬢が…次の嫁ぎ先だって…
…禄な爵位じゃないよ?」
そ ん な 君 み た い な 令 嬢 ?
「独身で結構です。
こんな事になったのは、契約を変えようとしてる旦那様のせいじゃないですか。
ちなみに前の件は冤罪でしたが?噂が大きくなりすぎて醜聞になっただけです。
私が悪いみたいに言わないでください‼︎」
「わ、わかったよ。すまなかった。
でも、君頑固過ぎないか?可愛くないよ?」
「まあ、私がお気に召さないのですね?是非離縁してください!」
「……ちょっと待ってくれ……少し保留にしよう…」
「いいえ、早く決めてくださいませんか?」
話し合いは平行線で、まったく進展なし。一度お開きになった。
何を言っても拒否で打ち返してくる私に
唖然として生気が抜けたようになった旦那様。
そりゃそうですよね。
今まで女性にはモテモテで、拒絶された経験などなかったんですから。
宮廷騎士団所属の騎士だった旦那様は、長身に鍛え上げられた体、
金髪のような明るいブラウンの長い髪を後ろで緩く縛り、
ペリドット色の黄緑の瞳で、王宮一の美麗騎士と評判だった。
王宮の女性達の羨望の眼差しを一心に受け、
王女様からも大層気に入られ、王女の秘密の恋人ではないかと噂も立っていた程。
それに比べ、私は黒髪で茶色の瞳の地味な見た目。
光の加減で瞳は時々金色に見えるぐらい。
顔の造形は悪くないと思う。良く小動物や小鹿のようだと言われる。
体もセクシーではないが、手足が長いスレンダーな体型だ。
だけど、色味が旦那様と比べると圧倒的に地味。
ちなみに、恋人さんは赤髪で青い瞳の華やかさで、
しかも胸が大きく腰も括れた超絶セクシーな方らしい。
つまり私とは正反対のタイプ。
だから、余計に旦那様の心変わりが理解できないし、
受け入れられる訳がない。
努力しても全てが報われるわけではない。
優しいだけの世界ではないのを、私は知っている。
だから、全て諦めて契約結婚を受け入れた。
それなのに…まだ私は試練を与え続けられるのね。
私はため息をつき、
離縁した場合の生活設計を色々考えながら眠りについた。




