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上州義理人情伝「アン ころ もち」  作者: 苺鈴


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第7話 はじめての友達

 車の中でも、アンリはずっと僕の着ているTシャツの裾を握っていた。


「――アンズ……もう、どこにもいっちゃ、いやだよ……っ。」


 アンリは、僕が亡くなった愛犬「アンズ」の生まれ変わり(?)だと勘違いしてしまっているらしい。


 僕も同じ名前で何度も呼ばれるから、なんだか変な感じだったけど…。


「うん。大丈夫だよ。僕、ずっとそばにいるよ…。」


 僕は、アンリを安心させてあげたくて、優しく言った。


「アンズ……♡」


 アンリは、僕の言葉を聞くと安心したみたいで、僕の裾を絶対に離すまいとぎゅっと握っていた手が緩んで、眠ってしまった。


 僕にもたれかかりながら眠っているアンリを、アンリのお母さんが優しく胸の中に抱きかかえた。


「ふぅ…。ようやく、落ち伝わねぇ…。杏子ちゃん、本当にごめんなさいね~!貴方のおばあ様には、きちんとお泊りの許可をいただいたから、今晩だけアンリのそばにいてあげて欲しいのよ…。」


 アンリのママは、申し訳なさそうにアンリを抱っこしたまま僕に頭を下げて言った。


 アンリのママは、ものすごい美人さんで、アンリと同じ髪と瞳の色をしていて、美少女のアンリが順当に大人の女性に成長した姿って感じ♡!!


「はい。僕なんかで良かったら、全然OKです。でも、びっくりしました。まさか、死んじゃった犬の名前が僕と同じだなんて…。」


「ほんとに驚きよね~!うちのアンズはね、ポメラニアンのオスだったんだけど、柔らかい杏子色の毛並みをしていてね、それで「アンズ」って名前を私がつけたのよ♪そういえば、杏子ちゃんの髪もうちのアンズと同じ色をしているわねぇ?

 だから、杏璃ったら、杏子ちゃんを亡くなったアンズの生まれ変わりだって思っちゃったのね~。よく見れば、顔つきもなんだか似てる気がするわ!うちのアンズも杏子ちゃんみたいに可愛いお顔をしていたから♡!」


「は、はぁ…?」


 僕の顏、ポメラニアンに似ているのかな…?


「杏子ちゃん。うちの杏璃はね、生まれた時からずっと身体が弱くてね…。今みたいにすぐ熱を出したり、貧血で倒れてしまったりして…。そんな状態だから、幼稚園に通うどころが外出もほとんどできないの…。だから、杏子ちゃんみたいな同い年くらいの子と会うのも今日が生まれ初めてなのよ?」


「そうなんですか…!?」


 アンリは、背格好(僕よりも小さい)からして、たぶんまだ幼稚園児くらいだと思うけど、今まで一度も他の子と会ったことがないなんて…!


「えぇ。だから…これも、何かの縁だと思うし……どうか、杏璃と仲良くしてあげて欲しいの。」


「はい!僕もアンリちゃんと仲良くなりたいです♡!」


 だって、アンリは、とっても可愛いんだもん♡!!


「ありがとう♡!でも、この子、結構わがままよ~?生まれた時からずっとお姫様育ちだからwww」


「アンリちゃん、お姫様みたいに可愛いですもんね~♡!」



 アンリの家は、山道をずっと登って、裾野は長し赤城山のふもとにあった。


 生い茂る自然の緑の中に聳え立つクラシカルな洋館(アンリの家)は、洋物のホラー映画の舞台みたいだ!



「――んぅ…?ふわぁあ~……。あっ!アンリのおうち、ついたのね~!」


 アンリは、ママに抱っこされたまま車から降りると、すぐに目を覚ました!


 アンリは、さっきまで熱にうなされていたのが嘘みたいに、すっかり元気になっていた。


「おはよう、杏璃姫~。良かったー、お熱下がったみたいねぇ。」


 アンリのママは、アンリの額に手を当てて体温を確認するとほっとしたように言った。


「ママぁ!おろしてぇ~!アンズは?アンズはどこぉ~!?――アンズぅ~~♡!!」


 アンリは、ママに地面に降ろしてもらうと、僕の方へ嬉しそうに駆け寄って来た。


「こらこら!二人とも、お庭でいちゃついてないで、お家に入りましょうね♪」


「はーい♡!行こう、アンズ♡!」


 アンリは、僕の手を握って、家の中に引き入れてくれた。


「アンズ!今日はお部屋で遊びましょ~♪」


「うんっ♡!」


 アンズは、僕を自室につれて来た。


 女の子のお部屋に入るのは、僕は生まれて初めてだったので、かなりドキドキしていた。


 アンリの部屋は、女の子らしい白とピンクを基調としていて、豪華な天幕付きのベッドに、アンティーク調の美しい装飾がされたドレッサーや衣装箪笥がずらりと並んでいて…


 まさに、豪華絢爛なお姫様のお部屋だった。


「あっ、そうだ!アンズ、おトイレは平気なの?」


「えっ?まだ、大丈夫だけど?」


「そう?いつもお散歩の後は、してるじゃない?遊んでる時にお漏らししたら困るから、先におしっこシーシーしちゃいなさい♪」


 アンリは、床に置かれた長方形のペット用のトイレを指差しながら言った!


 しまった…!!


 アンリは、僕のことを死んだポメラニアンのアンズだと思っているんだった…!!

 

「ほら、アンズ!早くしなさいっ。いつもアンリがちゃんと見ててあげるから、おしっこシーシーできるでしょ♡?ちゃんとおしっこできたら、アンリがご褒美に頭なでなでしてあげるからねぇ~♡?」


「ちょ、ちょっと、待って…!僕、そんな恥ずかしいことできないよぉ…っ!!」


 女の子が見てる前で、おしっこなんて(それもペット用のトイレに!)出来ないよ~!!


「えーっ!?アンズったら、おしっこシーシーできなくなっちゃったのぉ~?しょうがないなぁ…。おトイレでおしっこできない赤ちゃんワンコは、オムツを履かせましょうねぇ~♪」


 おっ、おむつゥ~~~~~ッ!?


「アンズ。アンリがオムツ履かせてあげるから、赤ちゃんみたいに床にごろんしなさい♪」


「嫌だよっ!おむつなんか、絶対嫌だよぉ~~!!僕、赤ちゃんじゃないよ~!!ひぃ…っ!?」


 アンリは、僕をカーペットがひかれた柔らかい床の上に押し倒すと、僕の身体に馬乗りになった!


「おトイレでおしっこできない子は、赤ちゃんでしょう~?――ママぁ~!アンズのオムツ持って来て~?」


 アンリは、僕のズボンに手を掛けながら、ドアの方に向かって叫んだ。



「――きゃあっ!?杏璃!何やってんの~!?」 


 アンリに呼ばれたアンリのママが慌てて駆けつけると、僕のズボンを無理やり脱がせようとしている杏璃を制止してくれた。


 た、助かった……!!


「だってぇ~。アンズがおしっこシーシーできないっていうから、アンリがオムツ履かせてあげようと思ってぇ~♡」


「杏璃!杏子は……もう、犬じゃないんだからっ!天国の神様が人間の男の子に生まれ変らせてくれたんだから、もう杏璃が杏子のおトイレのお世話をしなくてもいいのよ?」


 アンリのママ、僕が犬のアンズの生まれ変わり設定を壊さない気なんだな…。(子どもの夢を壊さない母親の鑑)


「えぇ~っ!?そうなの、アンズ?」


「うっ、うん…!!僕、アンリと同じ人間だから、トイレもアンリと同じようにできるから…。」


「そうなんだぁ…。もうアンズは、アンリがお世話しなくていいのかぁ……。なんか、ちょっぴりさみしい……。」


 アンリは、悲しそうに俯いてしまった…。


「杏璃。いつも言ってたじゃない?『アンズとおしゃべりできたらいいな~♡』って。今の杏子なら、おしゃべりもできるし、犬のアンズの時に出来なかったことがい~っぱいできるのよ♪」


「ママぁ…♡!そうだねっ!これからは、人間のアンズとい~っぱいおしゃべりしたり、遊んだりできるんだねぇ~♡!!ふふふっ♡

 神様、ありがとう~♪ボクにともだちをくれて~♪アンズにあわせてくれて~♪アンズにあわせてくれて~♪ありがとうボクのともだち♪アンズにあわせてく~れ~て~♪」


 


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