第5話 再会
5限目の教師不在の自習時間は、生徒たちの無法地帯となった。
真面目に黙々と自習に励む生徒もいれば、授業中に使用禁止のスマホや携帯ゲーム機を弄る者、親しい友人同士で固まって雑談を始めるグループも……
「やっぱり、緊急職員会議の原因って…うちのクラスの小林君達かな~?」
「3人揃って欠席なんてねぇ…!あの例の連続失踪事件…!ンア~ッ!ついに、うちの学校にも被害者が!?」
「やべぇよ、やべぇよ…!学校にテレビとか新聞の取材とか来たらどうしよ~?」
「来ても、群テレ(グンマーの地方放送局)と上毛新聞(グンマーの地方紙)だろwww」
話題は、やはり緊急職員会議の内容だ…。
僕も昨日、石関先生から聞いて初めて知ったんだけど、先月から前橋市内で男子中高生が突然失踪する事件が相次いでいるらしい…。
そうなると、今日急に欠席した3人の男子は、どうしてもその事件を連想させてしまう…。
「被害者がみんな男子ってことは……やっぱ、犯人は変態のホモなんかね?」
「うわぁっ!?マジかよ!生方と小渕はともかく、小林は細身でわりと目鼻立ち整ってるから、狙われたんじゃね?」
石関先生の話しだと、小林の家族が警察に捜索願を出したって、言ってたけど…。
残りの2人(生方と小渕)の親は、まだ捜索願出してないのかな…?
「ちょっとー!みんな、うるさいよ~!!騒いでると、クラス委員長の私が先生に怒られるんだからね~?」
僕の後ろの席の石井夏海(石井先輩の妹)が急に立ち上がって、みんなに向かって注意した。
石井さんの良く響く鶴の一声でクラスは、静かになった。
僕は、石井さんの声に驚いて、思わずビクッと身震いしてしまった。
そのせいで僕の椅子がガタッと大きな音を立てた。
「あら?望月君、どうかしたー?」
石井さんが心配そうに僕に話しかけた。
「ううん…!何でもないよ…。」
僕は、座ったまま石井さんの方を振り向いて、平静を装った。
「そう?望月君、なんか顔色悪くない?大丈夫?」
石井さんは、自分の席を離れて、わざわざ僕の席まで来ると僕の顏をまじまじと見ながら言った。
「大丈夫だよ…!ちょっと、寝不足なだけだから…。」
「無理しない方がいいよ?保健室で少し横になってくれば?」
「いいよ…!5限目もうすぐ終わるし…。」
「遠慮することないんだよ~?この分だと、たぶん6限目も自習っぽいからさぁ…。担任も保健の石関先生も会議でいないだろうし、無断でベッド使っても大丈夫だよ。なんなら、私が後で先生に言っといてあげるから!」
親切な石井さんは、本当に僕の体調を気遣ってくれてるらしい…。
なんとなく、みんなが僕と石井さんのやり取りを興味深そうに見ている視線を感じる。
「あー…。じゃあ、ちょっと保健室行って休んでくるね…。」
居たたまれなくなって、僕は保健室に逃げることにした。
「うん!その方がいいよ。保健室の場所分かる?というか、私も付添おうか?」
「ううん…!大丈夫だよ。石井さん、ごめんね…。いろいろ心配かけちゃって…。」
「気にしないで!私、クラス委員長だし♪」
石井さんの屈託のない優しい眼差しとクラスメイトの好奇な目で見送られながら、僕は教室を後にした。
教室の前の廊下を歩いていると、壁越しに他の教室も話し声でざわめいていて、うちクラスと変わらず無法地帯になっているらしい…。
☆☆☆
☆☆☆☆
☆☆☆☆☆
一階へと続く階段を降りて、廊下を少し歩いて行くと保健室に着いた。
どうせ、緊急職員会議で石関先生はいないんだし、僕はノックもせずに保健室のドアを勢いよく開けた。
「――ふぁっ!?」
保健室で、またしても僕は、衝撃的な光景を目撃してしまった…!!!
病院にあるような患者さん用の診察椅子に――窓から降りそそぐ陽の光を浴びて、キラキラと輝くプラチナブロンドの長い髪……宝石みたいな青い綺麗な瞳……鼻筋のとおった高い鼻に、形の良い紅い唇……前が大きく胸元が開いた制服のワイシャツから白く透き通るような美しい肌……
まさに…!絶世の美男子が無防備に美しい胸元を露わにして、そこに降臨(!?)している!!
そして、その美男子の向かいには、なぜか…緊急職員会議で不在のはずの石関先生が!?
美男子の露わになった胸元に、手を差し入れようとしているぅううう~~~!?
今、まさに平日の午後の保健室で、禁じられた情事が…!!!!!
「――望月…!?お前、どうしたんだ?」
石関先生は、僕に気づくと驚いたような顔で、美男子の胸元から手を引っ込めながら言った。
「せっ、先生こそ、なっ、なななな、なにやってんですか~~~っ!!??」
こいつ、やっぱりホモだったのか!?
美男子は、僕と同じ制服を着ているから、多分ここの生徒なわけだし…!!
男子生徒を毒牙にかける変態ホモ教師じゃん!!!!
「何って?俺は、こいつが――聖が急に具合が悪くなったから、診察をしてただけなんだが?」
聖…?
「―――アンズ…?きみ、もしかして、アンズなの!?」
絶世の美男子が、綺麗な青い瞳を見開いて――僕をまっすぐに見つめながら言った。
なんで、僕の名前知ってんの!?
「ん?聖。お前、望月と知り合いだったのか?」
石関先生が意外そうな顔で僕と、絶世の美男子こと聖さんを交互に見ながら尋ねた。
「アンズ?ボクだよ!杏璃だよ!」
聖さんは、先生の問いかけには答えず(というか、まるで先生の声が聞えてないみたい?)椅子から立ち上がると、ゆっくりと僕に近づきながら言った。
「アンリ…?」
どこかで聞いたことあるような……?
なんだか…とても懐かしい響きのする名前だ……
アンリ………?
「アンズ…!ボク、ずっと君に会いたかったんだよ…っ!」
アンリは、胸元がはだけたまま僕を胸いっぱいに抱きしめた。
「アンリ…?」
アンリの胸の中は、甘い花みたいな……懐かしい香りがする……
―――アンズ…!もう、どこにも行っちゃいやだよ?
―――アンズは、ずっとアンリのそばにいるの…!!
キラキラ輝く銀色の髪に、大きな青い瞳の小さな女の子が僕に向かって叫んでいる…
この記憶は……いったい……?




